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「コーサー、では集団戦の戦い方を教える」
「はい」
と、言っても基本的に1対多数では動き方なんか敵を縦にしたり、撹乱したりするだけなのである。
それがかなり難しかったりするのだけど。
「今回はチームワークではなく各自一人一人がワンマンで当たってると仮定する」
「同じ意味の言葉三回言いましたね師匠」
…………。
「辛くなったらいつでもサポートにローヴォとルビーの目を光らせておくつもりだったがやめだ」
「えっ!?」
「一回普通にデスペナルティ食らってみろ、コーサー」
「すいませんすいません!!!」
よし、とりあえず真面目に話を聞けコーサー。
そんな問答をしながらも、俺は斬りかかってくる武器持ちゴブリンの首をへし折った。
「持ち時間を考えろ。一人につき1秒、片手、そんな感じだ」
倒すのが遅れたらコンボを狙えばいい。
マルチキルというやつだ。
人型ゆえに、脆い部分がある。
そこをドンドン叩いていけばいい。
「最悪仕留められなくても……このように──」
「──ゲギャアアア!!」
ゴブリンの目に羅刹の刃を走らせる。
そのまま鼓膜を破り、膝を曲がらない方向に蹴りおって、もう一方の膝は切り落とした。
「各所部位を叩くことで無力化できる」
「オーバーキルですけど……」
「まあ一度に全部やったらそうなるだけであって、どれか一つでも有効だぞ」
特に足だな。
足をつけなくしろ。
もしくは腰。
急所攻撃に対して。
生物は基本的に無意識のうちに防御する。
刃物を持たれてとっさに手を前に出してしまう動作。
それも無意識のうちに体がやばい箇所を守ろうとしているだけだ。
それは脳が咄嗟に、しかも勝手に取捨選択をしているだけで。
心臓とか頭とか切られるくらいなら手とか足を切られた方がマシだと思うだけだ。
その隙をつくのが効率がいい。
殺す、仕留めるじゃなくて、無力化に念頭をおけば、何がもらえたところでいいのだ。
差し出された手と足にそのままダメージを与えてやるといい。
「な、なるほど……」
「力加減も覚えておけ」
片足だけを壊した状態で、二、三体のゴブリンをコーサーに投げる。
「あんまり人間と変わらないのですね。むしろ脆い?」
俺のイメージに反して、コーサーは思いの外サクサクとへし折っていた。
まあ、倉庫の一件でも加減して半殺しにしてたからな。
そういうのは上手いのだろ。
「後は……そうだな……」
秒とか一撃とかでわからない際は、漫画を思い浮かべてみるといい。
見開きで大量に敵キャラがボコられてる見開きだ。
1ページで全部倒せるくらいの感じに動けばいい。
それを伝えると。
「まったく話がわかりませんが、とりあえずメタいことだけはわかります!」
「…………」
なんでメタとか知ってんだ。
AIもついついここまで来たか。
つーか、運営って基本こっちにあまり干渉しなくなったんだよな。
きっと誰かに教えてもらった言葉なのだろう。
例えば、アンジェリックとかアンジェリックとか、アンジェリックとか。
「冗談はさておき、常に立ち回りを意識して行動すだけで、違いはぐっと見えてくるぞ」
「冗談だったんですか……」
「まあな。とりあえず後ろから敵の相手しつつ見てて」
「はい」
良い返事をするコーサーを尻目に、ゴブリンに組みつく。
跳び腕がらみだ。
体重を乗せれば素手でも楽にへし折れる。
「で、ナイフの場合は、相手を盾にしろ」
そのままゴブリンを盾にして真ん中へ斬り込んでいきどんどん叩き潰して行く。
盾が使い物にならなくなったら投擲武器として使え。
ってことは、だ。
必然的に小さいのから大きいのに狙いを変えて動いて行くことになる。
狭い場所では1対1を作り出せれば早い。
だが、広い場所ではそれが無理なので、できるだけ動き続けて戦わなければならない。
「体力的に厳しかったらどうしますか?」
「その時は終わりだ。頭っぽいのを確実に潰して果てろ」
「は、はい……」
後ろだけは絶対に取られないようにして動き続ける。
もし取られても、迅速に処理する。
四方の敵を倒せれば、実質的には一対一と変わらん。
なんてとんでも理論なのだが、他にもやることは色々とある。
「兵法と言ってな、自分が有利な状況をどんどん作り出していけ」
「兵法ですか……それはいったい?」
「要するに、せこい真似だ」
ゴブリン達の中には、なぜか子供のゴブリンまで混ざっていた。
操られているのか、それともゴブリン達の文化がそうなのかわからない。
だが、子供がいるので使わんてはない。
「ゲギィ! ギィッ!」
「ゲゲゲゲッ!!!」
「ほらお前らの子だ。こんなところに連れてきたのが悪いぞ」
子供の首に刀を突きつけると、やや止まるゴブリンがいた。
そいつらに動脈だけ斬って血まみれになった子供ゴブリンを投げつける。
そして、抱きかかえようと集まったところをすぐに叩く。
「せこいというか、恐ろしいですね」
「まあ、普段はこう言ったことはないとは思うぞ」
大事そうにガキはひとかたまりで集めていたのだしな。
もしかして、俺が入った場所はゴブリンの学校だったのでは?
メダカの学校みたいに。
いや、メダカの学校とかしらんけど。
ちょっと覗いてすぐ殺した。
「あとは距離取りつつ投擲するのも重要だ」
「投げれる武器なんて持ってないです。師匠みたいに便利なスキルもありませんし」
「そういう時はあるもん投げとけ……こういうのとかな」
エニシが出したストーンジャベリンの残骸とか、消える前に使ったほうがいい
少々硬かったが石柱をぶつけるとポッキリ折れた。
「コーサー、実質的にお前は俺より力が強い。だから、思い切って投げてみろ」
「は、はあ……」
「いいから」
そういうと、コーサーは「おらああああ!!」とマフィアの鉄砲玉見たいな表情に戻って投げつけた。
巨大な砲弾みたいな感じになって、ゴブリン複数体をぶっ飛ばした。
「おお!」
「言っとくけど、お前の中にはまだ学ぼう学ぼうとしていたり、相手に謙遜する気持ちが大きい」
要するに、優しい気持ちだな。
チンピラ時代にそんなものがあったのかは知らないけど。
丁寧になったし、よく笑う。
そんなのボスじゃないと、いう奴もいるとは思うが……ファミリーにはそれが必要だ。
最強でも、最恐でもない、最高って呼ばれて慕われる立ち位置に、俺は慣れると踏んでいる。
俺とは全く無縁の位置だな。
「こいつらにやられたら自分のファミリーが終わると思え、死ぬ気でやれ、っていうかやんなかったらお前のファミリー俺がみんな始末する」
「……流石にそれは冗談……え、ガチですか?」




