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結局、そのままコーサーは目覚めることなくタッグバトルは一人でこなした。
センスィとラニよりも手応えはさらに無く。
スキルによるゴリ押しゴリ押しだったので、投げて転がして首をへし折って終わった。
ランキング圏外ならば、こんな程度なのだろうか。
そして次の日。
アパートでのログインである。
そこから、コーサーを連れて闘技場へ。
今回もタッグバトルである。
マッチングしたのは、タッグランキング圏外の弓使い二人組だった。
名前はニリンソ、トリカブ。
……北海道でどっちも食ったことあるな。
ニリンソウ美味しかった。
そしてトリカブトは死にかけた。
トモガラにしこたま怒られた記憶がある。
さておき。
「今回の相手は弓使いだな」
「師匠、見ればわかります」
「よろしい」
そんなことをコーサーと話しながら、闘技場へと入場する。
「今回は弓使い二人。ともに遠距離からの攻撃を仕掛けてくる」
「なら、接近戦を仕掛けた方がいいのですか?」
「そうだな」
近距離戦を仕掛けても、構わず打ち込んでくる奴もいる。
十六夜とかとコーサーを戦わせてみたら面白いし勉強になるかもしれない。
接近する前に速射で蜂の巣にされそうだけど。
「だが、基本的にゲームの弓は余程のことがない限り防具が弾く──」
「──悠長に作戦会議してんじゃねえよ!」
説明している間に、もう戦いは始まっている。
俺とコーサーを狙って二人がそれぞれ矢を放つ。
ビクッとするコーサーだが、放たれた矢は軍服を貫通することはない。
俺も、手甲で受け流す。
「な?」
「びっくりしましたけど……納得しました」
「でも気をつけろよ。鏃に使われる素材で状況は変わる」
今まさに、対戦相手の二人は矢を交換し始める。
鑑定してみると、貫通性能に特化したものだった。
矢は消耗品だ。
最初から高価な矢を使う、なんてことはないだろう。
ましてや相手の戦力もわからない状況だとそうだ。
手始めに安物で相手の防御能力を確かめるのが先。
「スキルによる矢の強化も懸念されるが、それは躱せばいい。走るぞ」
「簡単に言いますね……!」
そう言いながら俺とコーサーは闘技場の上を走る。
「大丈夫だ。余程の名手じゃなければ当たらない。可能な限り狙いを絞らせない動きが重要になる。これはその内教えるとして、一番の問題はだな」
ちょうどその説明をしようとしたところで、対戦相手の二人が容赦なくスキルを使う。
眼中にないフリをしているので、これ幸いとばかりに矢を放ってくれて助かる。
「「ヒッティングアロー!」」
「うっ!」
大きく蛇行しながら狙いを絞らせないように動き回っていたが、俺とコーサーの胴に矢が刺さる。
先ほどは弾いていたが、コーサーの軍服を簡単に貫いていた。
俺もそうだ、胴に一本の矢が刺さっている。
HPが大きく減る感覚は久しぶりな気がした。
「攻撃力とかその他諸々の矢の性能はかなり低くなるが、絶対に命中するスキルの存在だ。急所に当たることはないが、本当に必ず命中する」
「なるほど……性能のいい矢を使うとかなり厄介ですね」
「金はかかるが、スキル自体に矢の指定はないからな。デメリットを打ち消せる攻撃力を持った矢とか毒矢を使われたら苦労するぞ」
「そ、そういう場合はどうするんですか?」
「うむ、現時点では対処法はないと言える」
弓持ちのプレイヤーがそこそこいる理由がこれだ。
お金をかければ安全マージンをとったまま狩りを行うことが可能。
「ないんですか!?」
「今のコーサーにはな」
決闘でもなんでもない集団戦だとしたら。
システムによる当たり判定がつく矢はシステムによるヘイト稼ぎスキルがあれば回避できる。
そいつは蜂の巣になるけど、耐久系の職業についていればかなり良い。
だが、ツーオンツーとかタイマンでその手法は使えない。
個人的に持っている回避系スキルを使用しなければならないのだが、今のコーサーにはない。
俺はバーストとリフレクトを持っているが、コーサーへの指導を行う最中なので同じ条件下で対処する。
「結局雑魚かよ? さっさと終わらせてやるぜおい?」
「「ヒッティングアロー!」」
矢が二本射出される。
一本は俺を狙って、二本はコーサーを狙って。
「わわ! ど、どうするんですか!?」
「現状どうすることもできない状況だったら覚悟を決めてゴリ押しするしかない」
「結局ですか!?」
「そうだ。今のコーサーはそれしかない。だが、これを教訓に今後の糧としよう」
発射される矢を体に受けながら、前進する。
弓使いには、必ず矢をつがえ直す時間があるので、その隙に最短距離での移動だ。
「この時、蛇行状態から一気に距離を詰めるのが重要だ」
「なぜですか!」
「距離を取れている間は、弓持ちは基本的に狙い放題で、大抵の奴は自分が優位だと思っているからだ」
心の隙をつくのだ。
蛇行から、一気に直線。
その動きは視覚的な隙をつくことにも作用する。
まあ、まったく油断していないやつにはあまり意味ないだろうけどな。
「「チッ! バックステップ!」」
二人は弓をつがえて射出するよりも先に、距離を取ることを選んだようだ。
後方に大きく移動するスキルを使う。
「師匠! 距離を取られます!」
「いや、今がチャンスだ」
「はい?」
首をかしげるコーサーに実際に見せてやる。
対人戦ではあまりポンポンスキルを使わないほうがいい。
特に、移動スキルなんかはまずいだろう。
スキルを使うと、通常のバックステップよりも大きく距離を取ることができるが、その間に何も行動できない。
「しっ!」
俺はコーサーの剣帯に挿してあったナイフを抜いて投擲する。
さらに銛銃も手元に転移させて発砲する。
「ぎゃっ!?」
「いぎっ!?」
ナイフはトリカブの喉元の急所に。
銛銃はニリンソの太ももに命中した。
俺は別に喉元を狙ったつもりじゃなかったんだが、相手も運が悪いな。
あ、ローヴォの効果か。
「当てる技術がある程度必要になるが、そこは訓練しろ。だからナイフと魔銃を渡した」
「なるほど……近接でそう言う状況にも対処できるようにならなければならないわけですね」
「うむ。まあ、状況ではどうするこうするを教えるが、自分で最善を見極められればそれでいい。とりわけ銛銃は便利だぞ? 強制的に接近戦を挑むことができるからな」
トリガーをもう一度引いて、俺とニリンソの距離が縮まる。
こっちが引っ張ってもいいが、自分もあえて飛び込むことで接近時間は短縮できる。
「後は近接戦を普通に仕掛ける。コーサーはナイフが刺さった相手に走れ」
「は、はい!」
「近接戦闘の優位性ならば、コーサーの方があるだろう。勝てる」
ボス職は、かなり特殊な職業だ。
そのスキルも俺はぶっちゃけしらん。
だがコーサーはその中でも喧嘩っ早いチンピラ卒みたいなもんだ。
近接に長けたチンピラ色が一気にボスになったようなもんだから、レベルアップによるステータスはSTRが大きかったんじゃないかと思う。
川辺の倉庫でも雑魚チンピラとはいえ、ぶちのめしていたからな。
だったら遠距離主体でやっていた器用さとか早さ系メインの職業には勝てる。
「うむ、予想どうりだ」
接近したニリンソにトドメのスペル・インパクトを放ってからコーサーを見ると。
転んでいるトリカブに刺さったナイフを、そのまま横に動かして首を掻っ切っているところだった。
これでタッグマッチも三戦連勝!
終わって飯食べたら復習だ!
タッグの対戦相手の名前。
なんとなく察しつきますでしょうか。
多分これから登場するやつ。
こんな感じのニュアンスで名前つけていきます。
特に伏線とかではないので、私の寒いギャグだってことで、ここは一つ。




