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 記念すべきタッグマッチ一戦目は勝利を納めた。

 ファイトマネーはマネジメントへ向かうのではなく、普通に選手に支払われる。


 相手のレベルは80届きそうなくらいだった。

 弱くはない相手だとは思うが、十傑と比べるとそうでもないのだろう。

 終わった後、シーンと静まり返った観客席から色々と声が上がっていた。


 衝撃的なデビュー戦だったのだろうか。

 歓声か、それとも悲鳴か。

 よくわからないのだが、見ていた受付のお姉さんからは「ひっ」と言われた。


「さてコーサー、戦って勝ったお金だぞ。半分やる」


「……もらってもいいんでしょうか?」


「タッグだからな」


 その辺は折半でいいだろう。

 最初はコーサーの補助に入るのは当たり前だ。

 弟子だからな、師匠にできることはそんなもんだ。

 ゆっくりと育てていけばいいのである。


「よし、このお金でなんかうまいものを食べに行くぞ」


「あの……食欲はあんまり……」


「俺のおごりだ、心配するな」


 コーサーを連れて、闘技場横の屋台通りへと向かう。

 この2時間後に、再びタッグマッチを申請しておいた。

 だから、食って力を養うべきなのだ。


「いや、おごりとかそういうのではなく……単純に……」


「いいからいいから。食って力をつけろ」


「いやその、あの」


「食べたらすぐさっきの復習を行うぞ。その後、実戦練習だ」


 細かい基礎はマフィア抗争でついてくるだけのことはあるだろう。

 あとは技術だ。

 見ているだけでは盗めるものに限界がある。


 復習、実戦、復習、実戦。

 この繰り返しが、一番早い。


 昔は、基本的な筋トレで基礎体力を得るよりも、組手に組手を重ねて実戦的な荒療治が多かった。

 そうすることによって、より実戦的な運動能力が養われるからだ。

 怪我もつきものだが、この荒療治はコーサーが望んだことである。


 俺も一身に彼を鍛えよう。

 燃えている、燃えているぞ、今。


「ちなみにどこで復習を? 王都って勝手に使っていい空き地とかあるんですか?」


「心配ない。ハリスに言えばいつでもトレーニング施設を借りれる」


 しかも、マネジメントがついていれば専用の質の高い施設が借りれる。

 そうじゃなかったら適当にフィールドに出るつもりだったが、いちいちフィールドに出るとなると、往復の時間がかかってみっちり復習できない。

 至れり尽くせりだな。


「そ、そうなんですね……が、がんばります……」


 ややげっそりとした表情のコーサーを連れて、闘技場を出ると。




「ふん、少しはやるようだな」




 デュアルがいた。

 壁を背もたれにして、気取っている。


「だが、雑魚の初戦だ。そいつらを倒したくらいじゃとても十傑を倒せるとも思わんな」


「……おい」


「なんだ?」


「一緒のマネジメントだから、お前とは戦ってないが……いずれ十傑戦を前に、ランク11位のお前と戦う時も来るだろう。その時お前に足りないものを全て教えてやる」


「──ッ」


 殺気と殺気のぶつかり合い。

 デュアルの殺気はよく研がれた鋭い剣のようだ。

 だが俺には通用せん。

 殺気には殺気を持って返させてもらうが、プラスアルファだ。


「俺も自分で性格が悪いとは思っているが、お前もその高飛車な性格は直したほうがいいぞ」


「チッ」


 デュアルの舌打ちとともに、闘技場に入ろうとしていた一人が、泡を吹いて倒れた。


 そしてさらに。

 複数人が不調を訴えたり、闘技場に入ろうとしていた奴らが「今日はやめとくか」と踵を返したり、だれかのペットである猫っぽい生き物が暴れ出したりしだす。


「下を見下し、上ばかり見て。お前はどこを見ている。少しは自分を見てみたらどうだ」


「知らん。まあせいぜいのし上がってくることだな。貴様と戦う時……俺は壁だ。十傑の壁として相手してやる」


 そう吐き捨てて、デュアルは去っていった。

 こんなところで殺気ぶつけながら待っていて、あいつは一体何がしたかったんだろうな。

 かなりの殺気を出したというのに、あんまり乱れてないデュアル。

 豪語するだけの実力は、やっぱり兼ね備えていると見た。


 デュアルが去って行った方向を見つめていると、コーサーが慌てて声をかけてくる。


「師匠、周りに被害が!」


 これだけ強烈な殺気のぶつかり合い。

 あまり慣れていない人はそうなるだろうな。

 王都はプレイヤーのレベル制限はあれど、一般市民にはない。

 レベルが低い人たちだって大勢いるからな。


「それよりコーサー。今の殺気のぶつかり合いでも立っていられたのか」


「そりゃもう前から目の当たりにしてますから慣れますって……」


 素直に感心していると、コーサーはがっくり肩を落としながらそう呟いた。


 そんなもんだろうか?

 強烈な殺気に当てられると、弱い奴は戦意喪失するぞ。


 まあなんにせよ。

 無事に成長しているようで何より。


「はあ……慣れていると言っても、気が気じゃありませんでしたけどね……そういうことは人前では……」


「どれ」


 グダグダ文句を言うコーサーに、テストも兼ねてさっきより強い殺気を個別に向けてみる。

 すると、


「ぱう」


 やばい、やっちまったかもしれん。

 コーサーの成長っぷりが嬉しくてちょうどホッと一息ついて気が抜けたところに殺気がぶち当たった。

 そしたらコーサー、泡を吹いて倒れてしまった。


「な、なんでいきなりこんなことが!?」


「倒れた人を応急室に連れていけ!!」


「うわあああ! ちょっと暴れないで猫ちゃん! それ結構高い調度品!」


「なんかやべえ、今日の闘技場やべえ!」


 …………。

 闘技場の喧騒に紛れて、俺はそっとコーサーを抱えて外に出た。


 完全に逝ってやがる。

 まったく、この後の復習は無しだなこれ。


 あれだ……。

 防御と並行して、殺気に耐える訓練もやったほうがいいかもしれん。


 そういうものを感じ取れるようになれば、それはセンサーのような役割を果たし、極めれば目で追わなくても相手の行動に対応できるようになる。


 なんとなくコーサー十傑への一つの筋道ができた気がした。







コーサー……。






ここまでお読みいただけましてありがとうございます。

そしてさらにはブクマ評価、感想をつけていただきました皆様。

感謝感激いたすばかりです。





書籍版GSOも好評発売中です。

それでは〜!




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