-568-
「……し、死ぬまでやらせるかと思ってました……」
「いや、戦い方を見て足りないものを見極めるつもりだった。まあ、やっぱり基本の防御から行こう。うん、想定していた通りだったからな」
一対一とか、あとは裏路地とかそういう地形だと。
コーサーは強いのかもな。
前蹴りで弾き飛ばし分断、そして一人を確実に仕留める。
多対一だと、そういうやり方をして、一対一を作らないと無理だ。
だが、これは闘技場。
なんの障害もない、空間。
だったら二対一の場合どう戦う?
分断は良い。
だが、そこからの立ち回りを変えなければならない。
「立ち回りと防御を教えておく。よく見ておけ」
コーサーとチェンジして、次は俺が戦う。
センスィとラニは、
「また二対一かよ」
「舐められっぱなしもここまでくると笑えてくるな」
と表情を硬くしていた。
怒ったかな?
それでいいのだ。
二人で一斉にかかってこい。
「お望み通り!」
「ぶっ潰してやるよ!」
「「舐めぷ野郎」」
俺の思惑通り、センスィとラニはそう叫びながら突っ込んできた。
瞬時に前後を取り、次はスキルを使わない。
さっき攻撃を受け流したことを警戒しているのだろう。
もしくはいきなり現れたテレポートを、とかな。
「舐めてるわけじゃないさ」
体の向きを変え左右で受ける。
前後を取られたら相手を左右につけるように動かしたほうがいいだろう。
走って逃げて、一人ずつっていうのもあるが、今は挟み撃ちの受け方をコーサーに伝える時。
胴を狙ったセンスィの突きと、頭を狙うラニの鉤爪。
自然体からスッと腕をあげ、腕を回して化勁。
こういう時は便利だよな。
力の方向を逸らし、まず右から来たラニの鉤爪の手首を掴む。
次に左手を化勁で受け流してから、センスィの片手剣の腹に添えるようにしてトンと前方に押す。
ついでに右手に掴んだラニも、突進の力を利用して前方に引っ張れば……。
「「ぐっ!?」」
同じ直線上で攻撃していた二人はぶつかることになる。
「コーサー、このことから……攻撃とは基本もろ刃の剣だってことはわかるな?」
「……えっとその、まだ相手ピンピンしてますよ師匠」
「知ってる」
武器と武器をぶつけさせたので、そりゃダメージになるはずはない。
だが、鉤爪に片手剣が引っかかっていてセンスィは片手剣を、ラニは鉤爪を一つ手放すことになった。
「チッ! だが数的有利は変わってない!」
「そうだなセンスィ。お前は盾でぶつかれ、対応した後ろを私がつこう」
「ズラしか!」
「ふむ」
そういうことも普通は言っちゃいけないんだけどな。
やることがわかっていたら対応策なんかいくらでもできる。
つーか……。
そもそも俺の言った言葉を聞いていたのだろうか。
「オラッ! シールドバッシュ!」
盾で殴りつけてくるセンスィ。
「攻撃は諸刃の剣。そして盾を殴るために使うのは悪手だろうに……」
基本耐えて受け手に回るか、三下さんみたいに攻撃用の剣をブラフとして相手が反撃に移るのを待つ方がいいのだ。
こいつさては、カウンターできないな?
「死ね!」
「かち合う瞬間は両者の間合い。死線が重なる。コーサー、そこからが勝負どころだ。俺がお前に防御を優先して身につけさせると言った意味はここに──」
膝を折り、身を低くして盾での殴りを避ける。
「──ある!」
そのまま突き出された腕を握って、体を入れて飛行機投げ。
サンボです。
「ぐあばっ!?」
攻防一体、それが武術の常だ。
相手を常に殺すことを考える。
それは一撃を強化するが、死線での戦い。
掻い潜るためには防御を学ぶことにある。
一呼吸、つまり1ターンに一回行動じゃなくて、二回以上行動しろってことだ。
まあ、無理かもしれんが、いろんなものを複合させて一呼吸で全てに対応する。
それが、武術である。
攻撃の戦いの技術である。
「くっ! センスィ!!」
投げ飛ばしたことで、ラニも迂闊に攻撃ができない。
立ち上がる俺にようやく駆け込んで来たところで、今度はこっちから近く。
「待ち受けて、相手をよく見るのも防御。だが、相手のスピードが乗る前に攻撃を仕掛ける。これもまた防御」
ペースを乱すの大事だ。
だから、最初の銛銃は、コーサーにしては上出来だと思う。
そこから距離を取るのではなく、あの場合は一人をさっさと殺しに行った方がよかったよな。
「ぐっ!」
「ペースを見出せば、狙いも定まりづらい」
鉤爪での突き攻撃。
だが手のひらで顔を掴んで掌底を当てていたので皆目見当もつかない方向に放っていた。
このラニとかいう奴、拳の当て勘も悪そうだな。
そもそも拳闘師なら、鉤爪攻撃に頼るのではなく、蹴りも使えよ。
お互いかなり近い間合いにいるのだから。
まあその前に。
「狙いは頭で間違っていない。そこをどう攻撃するか……だ!」
掌底した顔を掴んで足払い。
そのままバランスを崩したラニの頭部を闘技場の地面に叩きつけた。
「かぱっ!?」
「マウントを取って拳を振り下ろす。なかなかいい。なかなかいいが、相手が複数いるときにそれは通用しない」
そんなもんが通用するのは、小学生の喧嘩だけだ。
一人をボコボコにすれば、もうやめてよごめんよたのむよ!って泣きながら戦意喪失した誰かが止めに入る。
あの状況では一人はガードしているし、もう一人はフォローに入れるからNG。
「極力素手で戦おうとしたことは褒めてやる。だが素手を使うならこういう地面とかを使うといいぞ?」
ゴッゴッゴッゴ。
ラニの長い髪を掴んで顔面を地面に叩きつける。
「ぐ、ぐしゃぐしゃだあ」
観客席からそんな声が聞こえた気がした。
あくまで、気がしただけだ。
さて、なんだか血だらけになってよくわからなくなってしまったので、ラニから手を離す。
「人体の急所、まあいろいろあるが……」
頭を抱えて立ち上がろうとしていたセンスィの元へ向かい。
落とした盾を拾って後頭部を殴って再び倒す。
「うげぇ! ひでぇ!」
そんな声が観客席からまーた聞こえた気がした。
うっさいなー。
「武器とか絶対手放すなよ。こういう風になるからな」
俺はアポートがあるのでよし。
「人体には関節がたくさんある。そこを壊すことでアドバンテージを得られる。……ここと、ここと、ここと、ここと、ここと……」
「ぎゃあああ!! ぎゃ、ぎ、げぎ、ごぎゃあ、うぎゃあああ!!!」
「だが、関節なんかそうやすやすと折らせてくれない」
「やすやすと折れてます」
今俺が喋ってるから黙ってろコーサー。
「俺がさっき投げたように、交錯する場面を有効に使って、投げとともに腕も極めるのが望ましいぞ」
さっきはやらなかったけどな。
ぶっ壊し技ってやつだ。
「でもそこにも辿り着けない場合。狙う点はまだある」
それが、
「顔だ」
眼球はこすってやったり、叩いてやるだけですぐに機能しなくなる。
目潰しとして指を打ち込む必要はない。
ただ、そこに何か攻撃を仕掛ける。
それだけで、普通の人は恐怖する。
そして次は耳。
容易にちぎれる。
ちぎってもいい、鼓膜を破ってもいい。
三半規管にダメージを与えることで、
「あ、あう、あうあう」
「こういう風にぐわんぐわんと立てなくなる」
もっとも、関節へし折ってるから立てないんだけどな。
この場合は起き上がることができないってことだろう。
「次に顎。防御をいかに固くしようとも、脳を揺らすことに成功すれば一瞬で昏倒させることができる」
VITを高めていても、そこは堅牢になるのだろうか。
強くなるのだろうか。
多少は強くなったとしても、浸透する攻撃を用いればかなりダメージが通るんじゃないかと。
ガードラーに裏当てをして思ったのである。
「とりあえず簡単な触りは以上だ。コーサーわかったか?」
「は、はい……理屈は……」
珍しい。
そう思うと同時に、勝利を告げる音がなった。
ハリス「こ、これは……」
ツクヨイ「俗にいう、拷問回です」
本日は嬉しさのあまり二回更新でした。
GSOを今後ともよろしくお願いいたします!
新作も書き溜め毎日投稿してるので。
是非ともそっちのようもよろしくお願いします><
(下にリンクがございます)
明日も、二回更新できたら……いいなあ。




