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さっそく、筏を作ろうと思ったのだが……。
あの後なんだかんだトモガラに誘われて狩りへと向かっていた。
ログイン時間が偉いことになっていた。
警告が来たのでログアウトという運びである。
彼にも東南の藪とそこからの東南東の森エリアについて教えておいた。
あやつ、しばらくマジックビードルというなのカナブンを狩るらしい。
木の質を確かめる為に、一度一緒に伐採してみたのだが、大量の子蜘蛛が降って来てエラい目にあった。
だが収穫もそこそこ。
ある程度力のある前衛職が、木を叩くと毛虫も降ってくる。
そのモンスターは【モスピラー】という。
名前からして、モスチートの幼虫といった所。
体液を飛ばして来て、素肌が触れてしまうと微弱な混乱状態になる。
降って来た時の見た目がエグいが、対して強くない。
モスピラーが居る木に、一定の確率で繭状態になっているモスピラーが居る。
繭に包まれているモスピラーの糸は異常耐性を持つ衣類が作れて、中身の蛹は異常耐性系の錬金素材として使えるようだ。
モスピラーとモスチートの素材は混乱に対する耐性だったり、効果を持つのだが、この繭と蛹だけはまさに万能素材と言った所。
ただし、十回に一個落ちるか落ちないか。
木を揺らした結果、エンカウントする虫系モンスターの方が多いので、そこんところ、上手く考えられてるよなあ、と思いました。
一日過ぎると川沿いも落ち着いていた。
徐々に人も増えているよな、ロープを使ってフィッシャーガーを獲ろうとしてるのがちらほらと。
そんな俺は、河津の漁師合羽という水辺用装備に身を包んで、色々と筏を組み上げていた。
バルサの木を並べて当て、木にそってロープでキツく縛り付けているだけなんだ。
軽くて動かしやすいが、着岸とか失敗すると、容易に木が削れるのが痛い所。
なので、角とか地面に接着する場所は、樫の木材を当ててみた。
イメージは、コンティキ号の超絶簡単バージョン。
木が足りない!
資金も足りないのだが……。
ちょくちょく外部サイトにアクセスして、ロープの締め方を確認しながら。
きつく、固く、ロープを結んで行く。
完成した物を少し離れて全貌を確認してみた。
……イメージとは大分かけ離れている。
規模が小さいし、帆も無い。
オールというより棒で漕いで行くからそんなもの必要ないんだけど。
その為の軽さであると言える。
「完成したであるか?」
ガストンが後ろから声をかけてきた。
完成した船を見てなにやら頷いている。
「積載量がどこまでいけるのか気になるのである」
「乗ってみますか?」
ガストンと二人で出来たばかりの筏を浮かべてみる。
浮かべる前に引きずって摩耗するのが嫌だったので、合羽を来た俺が腰まで川に浸かっていた。
土建屋チームの補修を目前として、杭が打たれて仕切られている壊れた桟橋にロープで繋がれた筏にそのまま乗り上げると、多少の揺れはあった物のしっかりと俺の体重を支えて浮かんでいた。
「大丈夫そうですよ」
「うむ」
ガストンも乗り上げるが、浮力は問題ない。
このまま流れにのって船体をコントロールしながら進んで行く計画なのだが……。
「川を上る際が問題ですね」
「形的に、水の抵抗をすごく受けそうである」
行って帰って来れるかが、問題だった。
川の流れが速いかと言われれば、実際に下ってみないとわからない。
遠目からそこまで速そうじゃ無くても、実際船に乗ってみたら想像より早いっていうの良くあることだ。
「造船技術なんて持って無いである」
「誰だってそうですよ」
どこの田舎の船だって、随分昔から必ず船外機を取り付けている。
そんな物がこのゲームにあるかと言われれば、ねーでござるの一言に尽きる。
一応、船を持つ商会の見学ついでに見て来ました。
何かしらの役割を持った別の物が無いのかと思ってね。
ありました。
それは水属性の魔道具だそうだ。
水の流れを作り出す道具で、ジェット噴射の要領で水を前から後ろに送り出して推進力を得ている様だった。
お値段、一馬力分で二十万グロウ。
糞ふるい船外機でも一馬力当たり三~五万くらいするぞ。
それを考えると随分お高いことだった。
現実世界と当てはめて考えるのは無しにしよう。
「一馬力分で二十万グロウ、しかも、水上と地上では勝手が違いますから、二馬力は欲しい所です」
「四十万であるか……、流石に個人で出すには無理な額であるな」
ちなみに自分の収支計算をニシトモに見せてもらう。
俺の受け渡した素材のやり取りのログみたいなものなのだが……、赤字でもなければ黒字でもない。
あまり取引をしている訳でもなく、たまたま獲れた良さげな素材を流してるだけ。
素材の類いって面倒だからそのまま顔見知りの生産プレイヤーにあげちゃったり、現物で交換してもらうことが多かったからだった。
プレイヤーキラーで手に入れた賞金と装備を売ったお金。
貯蓄となって居た訳だが、今までの冒険で順調に食いつぶしていたみたいだった。
まあ自給自足で何とかなるかと思って甘く見た部分があったけど、流石に自分の力が及ばない部分には手が出せない。グロウの、お金の力に頼らざるを得ない。
漁業やってた知り合いも、そこそこ儲ってるって言ったけど。実質船だったり漁業機会の購入で大きく銀行から借り入れていたり、それを返しきる利益が出たとしても次年度の設備だったりで、借金と返済を繰り返して生活をしていることもあったと。
……自己資金じゃなくて、借り入れ資金で仕事するってのもありっちゃありか。
筏の上でふとそんなことを思っていた。
そして俺の中で一番実入りが良かったことを考える。
……PKだ。
プレイヤーキラーの賞金、めっちゃ良かったですね。
性質上、殺した相手のアイテムを一部奪えるプレイヤーキラー、だが、彼等を倒すと彼等の全装備をこちらが奪い取れる手筈になる。
いいのかな?
やっちゃって?
でもミイラ取りがミイラになりかねない。
今まで上手く言っていたとしても、集団で来られたら容易に嬲られかねん。
「川沿いを上ってみようかと」
「なるほどである」
先に登ってみて確認だ。
バルサの軽さだったら、大の男二人乗せていても何とかいけそうな雰囲気だった。
川の中程で棒を使ってコントロールする。
「初めてであるが、意外と川の底は見えないであるな」
「少し濁っていますからね」
「流れも思ったより早いのである、いや、層感じるだけかもしれないであるが、沈まないであるか?」
「保証はありません」
笑いながらそう言うと、ガストンは口を曲げて肩をすくめた。
「乗らなきゃ良かったのである」
「わくわくしません?」
「最初はしたのである、岸に浮かべた筏に乗るくらいで丁度良いのである」
そんなガストンは俺が予め頼んでおいた物をアイテムボックスから取り出した。
錨だ、いかりと読む。
色々と種類があるのだが、伊勢型の錨を二人で作ってみた。
ぶっちゃけこの規模の筏であるなら、四角い鉄の重しにロープを結んで沈めておけば済むかなと思ったのだが、ガストンの「芸が無い」の一言で、伊勢型の四つ目錨を作るにあたったのだ。
さっそくロープを結んで行く。
「映画で見るのは鎖が付いてある錨である」
「筏ごと沈む可能性があります」
現に、ガストンがアイテムボックスから取り出した錨の反動で、若干筏が揺れ沈んだ。
重量きついぜ、この筏。
バルサの浮力を持ってしても、たった畳三枚分じゃ厳しい物があるのか。
浮力を持つ不思議な魔法の木とかあれば良いのに!
「沈めるである」
「はい」
錨は川の底まで沈んだ。
大型の魚が居るぐらいだ、そこそこ深かった。
そしてロープが張って、筏は川の中程でストップした。
「引っ掛かってはいないと思うんですが、多分このくらいの重さであれば錨の重量で何とかとまるみたいですね」
「うむ、では釣り竿を」
「はいはい」
俺はそのまま手巻きの木枠で釣ることにする。
川沿いから、こちらの筏を眺める人達が居る。
そんな人達を尻目に、俺とガストンは川釣りをスタートした。
おくれました




