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「コ、コンシリエーレ!? なんでこんなところに!?」


 いきなり現れた俺に、コーサーが驚いていた。

 砕けた口調もかしこまったものに戻る。


「……やっほーって……」


「コンシリエーレそれはダサくね?」


「ぐ」


 慌てるコーサーの両隣で、冷静なガキ二人がジト目でそう突っ込んできた。

 俺もダサいってことはわかってる。

 けど、なんて声をかけたらいいかわかんなかったんだ。


「……自覚はある」


 弁明することはないと言葉を受け入れる。


「あっローヴォ!」


「……ローヴォ!」


 だがワルドとベスタの興味はすぐにローヴォに移ってしまった。

 二人一緒にローヴォにじゃれついて、背中に乗る。

 そして、ローヴォも興奮して尻尾を振りながら、二人を背中に乗せてどこかに走っていってしまった。


 え……、なにこれ。


 あっという間に取り残されてしまったんだけど。

 なにこれ。なにこれー!


「……久しぶり、ではないですが随分久しぶりに感じます。コンシリエーレ」


 この空気どうしようかな。

 なんて思っていたら、コーサーが口を開いた。


「うむ」


「いつ戻ってきたんですか?」


「ついさっきだな」


 スティーブンにやることあるだろって背中を押されて戻ってきたわけだ。

 だが、実際に目の前にするとやっぱりなんて言葉をかけたらいいかわからんもんだな。


 今までの俺だったら精神力が足らんと、問答無用で山籠りとか言い出してたかも知れんが、あのトンスキオーネが直々にテメェでケツを拭けを喧嘩をふっかけてきたわけだ。


 流石に俺も由々しき事態だってわかる。

 いったい何をしてやればいいのか、どう声をかけてやればいいのか、さっぱりわからん。

 見当もつかない。


 ……ここは正直に、トンスキオーネが心配して俺を呼び戻したと言うべきか。

 うん、言うべきだろう。

 そうだそうだ。


 そう思い至って喋ろうとすると、


「コンシリエーレ」


 コーサーが俺の目をまっすぐ見て名を呼んだ。

 いつにも増して真剣な表情だ。


 連れ回していた時は情けない奴だなー、とか。

 ビビリな性格が治らんかなー、とか。


 色々と思っていたんだが、コーサーはたまにこう言う表情をする。

 そして、ワルドとベスタに見せていたような優しい表情もする。


 そう言う時は、なんだろう……本音でぶつかってきてたっけな。

 なんて、思った。


「なんだ」


「これから、少しお時間をいただきたいと思っています」


 ……つまり暇をもらうってことだろうか?

 それはトンスキオーネが求めていたような答えではないような気がする。


 と、言うよりも。


 時間をもらって何かをする、となれば。

 コーサーの場合、一人でアンジェリックを連れ戻しに旅立つと言うことなのだろうか?


 頼もしい結論だが、それは無理だ。

 あの立ち回りを見ていたら少しは強くなったとは思うが、コーサーはまだ弱い。

 怒りとか恨みで、一人で行動しても帰ってくる結果はどうしようもない空っぽな物。


 孤高はそうだ。

 目指す先は全くの暗闇で、しかもその先には何もない。


「それは無理だ」


「え……」


「お前、一人でアンジェリックを助けに行こうと思ってるのか? それはちょっと自暴自棄になりすぎていると言うか……ああ、別に責めてるわけじゃなくて、もっと仲間を頼って計画的にと言うか……」


「あっ! すいませんコンシリエーレ! ち、違うんです!」


 気を使ってベラベラ理由を並べていると、コーサーは焦りながら違う違うと腕を振る。


「……?」


「すいません言葉が足りませんでした」


 そう言うと、コーサーはいきなりバッと俺の前にしゃがみこんだ。

 ……ど、土下座?


「改めて、コンシリエーレの時間をいただきたいと思っています」


 コーサーは土下座していた。


「是非、山籠りに連れていってください……私に修行を授けてください……お願いします!」


 しかも割と大きな声で言ったので、なんだなんだと港で仕事をしている人たちが寄ってきた。

 ちょっと、これ、恥ずかしいだろ。

 っていうか、人が見てる前で何やってんの!


「と、とりあえず顔を上げてくれ」


「数日ほど、自問自答を繰り返していました。結局、これは私の不遜の致すところです。助けに来てくれたコンシリエーレの顔にも泥を塗って、トンさんにも色々と気を揉ませてしまいました」


「う、うん。いいから、とりあえず顔を……」


「今までは連れられるがままに、受動的だった私がいます。いえ……コンシリエーレに、あなたに頼って来た私が……いま”じ、だ……っ!」


「お、おい」


 コーサーの顔の下の地面に、ポタポタと濡れた跡が広がる。


「心の”中では……ぎっど……コンジリエーレ”が、どこかで助げでぐれ”る”っで、駆げづげでぐれ”、うっ」


 やばい。

 嗚咽まじりにぼたぼた涙を垂らしてて言葉が逆に聞き取りづらくなってる。

 とりあえず、落ち着かせた方が良くないかこれ。

 焦っている、今世紀最大に焦っているぞ。


「と、とりあえずなんて言ってるかわからんから落ち着け!」


「……ばい”、ずびまぜん”………………お、落ち着きました……」


「なら次のステップだ。顔を上げろ。そして立て」


「それは嫌です。いい返事がもらえるまで顔はあげません」


「そもそもなんで土下座なんだよ……」


「……目上の人にのっぴきならないお願いをする時は、こうするものだって……姐さんが……」


 アンジェリック、何教えてんだ。

 くそっ、連れ戻したら説教だな。

 連れ戻す理由ができちまったよおい。


「今すぐ連れ戻したいと、死に急ぐつもりはありません。それは他の人たちに迷惑をかけますから。……それに、もしかしたらアンジェリック様は、自らの意志で行ってしまわれたからかも知れませんし……」


「……で、どうしたいんだよ」


 もう土下座でもなんでもいい感じになっていた。

 なんか影から物々しい表情で俺とコーサーに視線を送る人たちがいるけど、もう知らん。


「次は一人で守りきれるくらい、強くなりたいんです。力を求めることを誰かに願うなんて、それこそお門違いも甚だしいかもしれませんが、普通では追いつけないと思いました」


「ふうん」


 少し引っかかったことがある。


「アンジェリックは、いいのか?」


 アンジェリックが自らの意志であのふざけた奴らの元へ行ってしまったって、コーサーは諦めているのだろうか。

 だったら首は縦には触れん。

 だいたい、俺がまだ何一つ諦めてないんだからな。


「…………あくまで個人的な考え、エゴみたいなものなのですが」


「うん」


「連れ戻したいです。それくらい、姐さんは私にとって大切な人です」


「それで? 連れ戻したいんだったら待ってろ。今俺と師匠で動いて、アンジェリックを連れてった裏ギルドの奴らとか、洗い出してるところだから。あんまり無理するなよ」


 突き放すつもりはなかったのだが、俺の中でそれだけじゃ足りないと思ってつい言ってしまった。

 次は一人で守りきれるくらいって、それは今の状況を諦めてる気がした。


 そもそも守りたいのは立ち上がる意志みたいなもんであって、強くなることとは関係ない。


 それとは別に、強くなるためには目標が必要だ。

 仮想敵国って言い方は悪いけど、明確な目標が。

 じゃないと、どこまで何をしたらいいかなんて、わからない。

 わかるはずもない。


 結局、それでどこまで、何を守ればいいか。

 それがわからず潰れて行く奴はたくさんいる。


 たまに、脅威的な精神力で駆け上がって行く奴もいるけど。

 脅威が次々に押し寄せてきて、それを乗り越えた結果みたいな感じだ。

 それに……一人で守りきれるものなんて、たかが知れてるしな。


「…………」


 コーサーはしばらく黙っていると、ポツリといった。


「私が、この手で……ぶっ飛ばしたいです」


 それだよ、それ。









スティーブン「……自分がわしに最初に何をやったか覚えとらんのかトリ頭め……」





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