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 目上の人の前では基本的に敬語を使うコーサーであるが、普段はかなり野暮ったい口調をしている。

 それもそのはず、もともと路地裏の名前もない一番弱い敵NPCだったからだな。


 昔絡まれて、それで返り討ちにして無理やりは配下に加えたことを思い出した。

 懐かしいな……。


 出会いはそんなもんだが、それが対マフィア戦の足がかりになった。

 そしてマフィアの抗争に身を投じ、トンスキオーネとも出会う。


 ただのアウトローだったコーサーも今ではボス。

 もっとも、その業務のほとんどをトンスキオーネに任せ、途中でアンジェリックの元に修行に行ってしまったけど、彼女のが連れ去れて姿を消してしまってからは、再びテージシティに戻ってきてトンスキオーネに任された仕事をしていると聞く。


「誰だてめえ?」


「ヒョロくせえ男だな、クソガキ達の保護者か?」


「そうだ」


 男達の間を割って入り、ワルドとベスタを自分に回すコーサー。

 そんなコーサーを見て、周りの男達はメンチを切っていた。


「おいおい、クソガキこんなところに迷い込ませてんじゃねえよ」


「ここがどこだと思ってんだ?」


「逆に聞くけどお前らはここをどこだと思ってたんだ?」


「はあ? ここはなあ、今新進気鋭の大マフィア、コーサーファミリーのシマなんだよ」


「そうだぜ、お前らあんまり舐めてっと街にいられなくすんぞ?」


 当然ながらテージシティではなくノークタウンで、しかもアンジェリックの側にしばらくいたおかげで、テージシティでコーサーの名前は広がっていない。


 一応、三大マフィアのうち二つを飲み込んだ新進気鋭の大マフィアだと、コーサーファミリーの名前は知られていると思うのだが……あれだな、トンスキオーネが名前を変えたって感じに周りには周知されているのだろう。


「どうだびびったか?」


「今すぐ帰れって言いたいところだが……とりあえず俺らのシマに侵入した罪を償わせないとな?」


「侵入罪だぜ、侵入罪! ヘヘッ!」


 本当のボスは、今目の前にいる男だというのに。

 男達はにやけヅラを晒してそう言っている。


 どうするか……。

 介入したほうがいいかな?

 コーサーは戦いがそこまで得意じゃないだろうし。


「ハァー……」


 俺のそんな心配をよそに、コーサーは男の顔面に掴み上げた。


「俺も久々にここに戻ってきたんだけどよ……」


「あぐっ!?」


「お前らなんて知らねえよ」


 そして顔面を掴んだ手に力を込める。


「あ、アぎッ!? あぎぃぃぃゃゃぁぁああああッ!!?」


 指がこめかみに食い込んで血が出始めている。

 ついでに男の顔面の骨がボキボキなりだして、眼球が飛び出そうになっていた。


「テ、テメェ!!!」


「いきなり何しやがんだ!!!」


「手を出しやがって、コーサーファミリーのシマだぞ!?」


「そうだぜ、手を出したらタダじゃ済まねえぞ!?」


「だから、お前らなんか知らないって言ってるだろ」


 そのまま、掴んだ男をあっさりと投げて周りの男達にぶつけるコーサー。

 狼狽える一人の男に前蹴り。


「くそっ! ──えっ!?」


 懐からナイフを取り出して突進してきた男の手元を蹴り、ナイフをすっぽかさせると、


「握り方がアウトローですらねーよ……」


 そのまま顔面に蹴りを入れた。


「ぎぎゃっ!?」


 元アウトローならではの知識だな。

 だが、手を蹴ってからの顔面蹴り。

 ありゃ掛け蹴りだな。

 おれ……教えてたっけな、なんて思いつつ彼らの様子を見る。


「で、どこの人?」


 全員蹴散らしたのち、コーサーはまだ意識を保っている男の前でしゃがみ尋ねる。


「コ、コーサーファミ──」


「まだ言うのか」


「──ひぎぃいいいいいい!!!」


 コーサーは躊躇なく耳を引きちぎっていた。


 コ、コーサー!

 いったいどこでそんなこと覚えたの!


「お前、俺がまだ優しくてよかったな?」


「は、う?」


「俺に拷問とか戦い方を仕込んでくれた人は、多分何も言わずに殺してたぞ? もちろん俺も見てる前だとそうするだろうし、今殺さなかったのは人目があるからだ。意味わかってるな? ……次顔見たときは本当に殺す」


「ひ、ひい!?」


 凄むコーサーに、ビビって後ずさりする男。

 男の周りに、何やら液体がしみ広がっていた。


「ほら残りの伸びてる奴ら連れて失せろ」


「わっ、わかりました!! ひ、ひいいいい!!」


 耳を千切られた男は、そのまま倒れた残りのメンバーを全員抱えると必死の形相で逃げていった。

 逃げ足はめちゃくちゃ早かった。


「……ったく、臭いなあもう」


 男達が消えてから、コーサーの表情から怒気が消える。

 いつものコーサーに戻っていた。


「ボス、後で洗っとく」


「兄ちゃ……じゃないボス、俺が水組んでくるよ!」


「うん。あ、それよりワルド」


「ん?」


「怪我はないか?」


 コーサーはワルドの頭を撫でながら正面にしゃがんで怪我がないか確かめていた。

 その様子はどことなく年の離れた兄弟を想像してしまう。


「大丈夫だよ、あんな奴の蹴りなんて痛くないからな!」


「うん……本気でやれば、倒せてた」


「いやいや、一応お前ら普通に表の商店でも手伝いしてるんだろ? だったら尚更喧嘩とかしちゃダメだ」


「ボスはしてた」


「そうだぜ! 久しぶりにあったけど強くなっててビビった!」


「そりゃあ、あの人の下についてたからなあ、ある程度は強くなれるさ」


「ボス! コンシリエーレとはいつ会えるの? 俺も習いたい!」


「……私も」


「ははっ……どうだろうな。いつも忙しいし。コンシリエーレは一人で戦ってて、俺はもうついていけないから……戻ってくるとしてもだいぶ先だろう」


 そう言いながら遠くをぼんやりと見つめるコーサー。

 すぐそばにいるんだけどな。


 それにしても……。

 一人で戦ってて、もうついていけない、か。


 なんだろう、今までもお前についていけない。

 だなんて言われることはリアルでもあった。

 ついてきた、っていうかいつまでも残っていたのがトモガラくらい。


 別ゲーの連中は除外だな。

 だいたい、BCoEは俺がついて行くのが精一杯だったし。


 話を戻すが。

 ついていけない、は言われ慣れていた言葉だ。

 それで周りから人はどんどんいなくなる。

 まあ、わかっちゃいたし、慣れてるからもう別に気づつくこともないのだが……なんだろう、コーサーが呟いた言葉は妙に胸に突き刺さった気がした。


「ほら、もう片付けはいいよ。雨が降れば勝手に消えるだろうし」


 ベスタとワルドと手を繋いで倉庫から街の方へと戻って行くコーサー。

 そんな中、ベスタがコーサーを見上げて聞いた。


「ボス、今回はいつまでテージにいるの?」


「……っ」


 コーサーは一度立ち止まると、すぐに歩き出す。


「……しばらくいるよ。でも少ししたらまたちょっと出るかもな」


「そうなんだ。あのね、私料理練習してる。だから食べて」


「そうなの? いつのまに……」


「お、なら久しぶりにみんなでご飯にしようぜ! ベスタの料理、意外といけるんだぜボス!」


「意外とじゃない、美味しい」


「わかった。ならこのまま買い出しに行く?」


「「うんっ!」」


 家族みたいな雰囲気だった。

 俺はあまりわからないが、なんだかそんな空気だよな、これ。


 ……。


 今、声をかけていいものか。

 非常に迷うな。


 なんだか雰囲気をぶち壊してしまいそうって言うか。

 ほら、やっぱりどのツラ下げてコーサーに会いに行くって言うか。


 あー、無理だ。

 無理無理。


 つーか、こんな一面持ってたなんて俺は知らなかった。

 そう考えると、俺はコーサーのこと何にも知らなかったのか?

 自分の部下なのにだ。

 弟子みたいな存在なのに、だ。


「ふむ……」


 尻込みしていると、ローヴォが俺の腰を後ろから小突いた。


「ぐぉん」


 いけってことか。

 ……行くか。


 なんか勇気いるんですけどこれ、なにこれ。





「や、やっほー……」


「え?」








ツクヨイとか、ヒロインに指定されているプレイヤー達のアクションに全く動じない理由。

こう言うところから察してもらえると、ありがたいです。

ローレントの人間性も。笑


まあ、頭逝ってる人ってのは総じて間違いではないですが。






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