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「やっと帰ってきやがったか」
「うむ、待たせたのう」
スティーブンに後ろ襟を持たれて王都に強制送還させられた。
王都に入り口へ戻ってみると、トンスキオーネは騒ぎを起こした広場でローヴォと大人しくまっていた。
「もう帰ったかと思ってた」
「ケッ、テメェがやられたツラみれんだぜ? 帰れるかよ」
「……チッ」
まあいいだろう、トンスキオーネの言い分はよくわかった。
俺とコーサーの関係性って、結構スティーブンと俺の関係性に似ている。
いやもっとひどいくらい、俺は放置しているよな。
「今度、コーサーに顔を出すと伝えて負いてくれ」
「はあ? 今から行ってこいや、転移使えんだろ」
「いや、しばし無理じゃのう」
俺の代わりにスティーブンが言葉を返した。
「こやつはちとやらなければならんことができた。故に、もうしばらくまってくれんかの?」
「……チッ、じいさんが言うなら仕方ねぇ」
「恩にきるぞ、裏の者よ」
「その代わり、あの約束事はお互い守っていこうじゃねぇの。こいつの師匠だったら、約束を破るなんてたわけたことはしねぇよな?」
嫌味ったらしく言うトンスキオーネ。
くそ、言葉が突き刺さるな。
まるで弟子の俺は約束よく破るやつ、みたいなレッテル貼られてるみたいじゃないか。
「うむ、恨み言以外に目先の興味があればそっちに行ってしまう本質はわしもよう理解しとるよ。色々と苦労しとる者は多いようじゃがの、これでもちゃんと心で交わした約束ごとや、頼まれごとはしっかりとこなすやつじゃから、あまりそう言ってくれるな」
「そんな俺だってよくわかってんだよ。まあこのカスが自分の責務ほったらかして遊んでたから釘を刺しにきただけだぜ。こっぴどくやられた後の顔も観れたことだし、俺はもう行くわ」
背を向けるトンスキオーネ。
その背中になんて言葉をかけたらいいかわからんかった。
それでも出た言葉は、
「トン……ありがとう」
「……チッ」
トンスキオーネは舌打ちだけして、王都の人混みに消えていった。
奴なりの気遣いだったのだろう。
態度はクソほどにも悪いが、部下を思う気持ちは本物なのだ。
「さてと」
スティーブンは俺の後ろ襟をポイと投げると。
そのまま抱きついてくるローヴォを撫でながら言った。
「お主も待たせてしもうたのう」
「ぐぉん」
ローヴォは巨体をスティーブンに預けて気持ちよさそうに首を撫でられている。
なんだよ、撫でで欲しかったらいつでも撫でてやるのにな……。
少しだけ嫉妬してしまった。
なるほどこれが嫉妬心ね。ぐぬぬ。
「それでは行くぞ」
「はい……」
ローヴォを隣に従えて、スティーブンは歩き出す。
俺も立ち上がると彼の後に続く。
どこへ行くかはもう聞いている。
まずはカシミスイーツに向かって、手紙を渡し。
その後、師弟クエストが待っているのだ。
◇◇◇
「で、その双極の魔法使いはどんな方なんですか?」
カシミスイーツのお嬢さんに無事おばちゃんからの手紙を渡した後。
王都の貴族区域へと足を延ばす。
ちなみにおばちゃんの娘はカシミスイーツのオーナーだった。
ただのパティシエかと思ったらオーナーである。
今後ともご贔屓にってことで、割引券をめちゃくちゃもらったんだけど。
使い道な……?
俺は正直、屋台通りのホールケーキ食べ放題がいいんだ。
この割引券は生産組の連中にでも配ろうか、ツクヨイも喜ぶだろう。
「見たら驚くぞ? わしと同じ年なのに、見てくれはただの小童じゃ」
「ガキ……?」
「本人の前で言うたら、多分速攻で殺されてしまうじゃろうな」
「気をつけます」
師弟クエストの内容は、双極の魔法使いの弟子と対峙すること。
なんとも、貴族からの南の資源取り合い合戦。
この双極の魔法使いが一つ噛んでいるらしい。
噛んでいると言うよりも、スティーブンの目の前に立ちはだかって邪魔をした存在だと言うことだった。
「今から行くのはお礼参りみたいなもんじゃ」
「はあ……」
詳しくは説明してもらえなかったのだが、とある理由で元素を司る魔法使い同士が死闘をすることは、“今”は禁じられているらしい。
スティーブンの前に立ちはだかった双極も、戦闘行為を行わずにただ時間稼ぎだけを行なっていたということだ。
そして今、そのスティーブンの鬱憤を晴らすためだけに。
俺は双極の魔法使いの元へと連れて行かれていると言うことだった。
「そうだ……四元素の魔法使いパトリシアが、一番弟子であったラパトーラを破門したそうですよ」
「……知っておる。もとよりあのババアの性格はそんなもんじゃ。溺愛した弟子が一度負ければ、すぐに切り捨てる。昔からそう言う一面を持っておったし、わしはそこが気に入らんとこじゃと思っておる」
「そのラパトーラは今王都で路頭に迷っているみたいですが」
半分自業自得ではあるが、破門されてから彼女の望む道が閉ざされてしまったのは確かだ。
それには俺もスティーブンも深く関わっているのだが、どう落とし前をつけると言うのか、スティーブン。
っていうか、俺の小屋……じゃなくてスティーブンの使っている小屋に無断で住み着いているわけだが、その変動してくれるんだろうか。
それを聞いてみると、
「お主と巡り合って、わしの小屋に居座っとるのか……まあよいじゃろう、住まわせておけ」
「ええ……」
「嫌なのか?」
嫌だよ、嫌ですとも。
プライベート空間ないんだけど?
でも小屋の持ち主はスティーブンで、俺も弟子特権を利用して使用しているに過ぎない。
家主様に睨まれてしまったら折れるしかないのだよ……。
「お主とツクヨイ以外を新たに弟子にとるつもりはない。だがしっかりけじめはつけてやる気ではおるぞ?」
「それならいいです。もとより反論もないですし」
と、言うよりも。
弟子の面倒を最後まで見ないパトリシア。
俺がきっちりと落とし前をつけるつもりだ。
元素の魔法使いは強い。
魔法職の最頂点ともいえる存在。
スティーブンの本領を身をもって体感した今。
勝ち星が取れるかはわからないが、それでも食らいつくくらいはしてやる。
まあ、言ってしまえばNPCを殺す覚悟はとうについていると言うことだな。
「ほっほ、今のお主では刺し違えることは無理じゃろう」
「そうですか? なんでもありなら、なんとか……」
「いや、不可能じゃ。今は言えん。が、のちに可能な日がくるかも知れんがの」
「……ふむ」
それは対師匠イベント、とでも言うのだろうか。
まあ、アップデートごとにどんどん仕様は変わってきて、それでもってやれることも増えて行く。
っていうかそもそも、アップデートが来ても来なくてもその辺は自由じゃないのだろうか。
まあいい、スティーブンがまだ無理だと言うなら、それに従っておく。
弟子通しでの戦いがお望みなら、それでいいだろう。
そして貴族区画をしばし歩き。
黒と白で綺麗に二分された面白い建物の前へとやって来たのだった。
トンスキオーネが最初の見立てとはガラッと変わっていい人キャラになってしまっている。
それもこれも主人公の性格が壊滅的にバトルホリックだからでしょうか。
相対的に、というやつでしょうか。
でも、デブキャラ実はいいやつって路線。
割と好きなんですよね。
脂肪燃焼させて最強の一撃かます某漫画の人とか。
かっこいいです。
でも、トンスキオーネの脂肪はこれからさき燃焼することはありえません。
ここに断言します。




