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「その前に一つだけ、言っておくことがあるのう」


 地上に戻った俺とスティーブン。

 パイプを燻らせながら、スティーブンは少し難しい顔をする。

 いったいどうしたのかと思っていると。


「……いろいろと苦労をかけとるようで、すまぬな」


「…………はい?」


 苦労ってなんだろうか。

 一瞬ぽかんとした表情になってしまった。


「いやの、第一拠点村の話は聞いておる」


「ああ」


 そのことか。

 別にスティーブンが悪いとか悪くないとかではないと思う。

 目立つと標的にされやすい、叩かれやすいともいうが、まさにそんな状況が重なってあの結果になったんだろう。

 PKの的だな。オモチャだな。


「謝罪を受ける必要がないとは思いますが」


 弟子の問題でもある。

 師匠は関係ないのだ。


「それがのう、関係がないわけではないんじゃよ」


「む?」


 どういうことだろうか。

 その答えを待っていると、スティーブンはパッと姿を消す。


「まあ、修行の途中じゃし、手合わせしながら話そうか」


「ッ!!」


 だからっていきなり転移して死角から殴りかかってくるのはやめてほしいのだけど。

 まあいい、手甲で弾いてすぐに六尺棒を切り返して後ろに打ち込む。

 羅刹ノ刀を使うことも考えたが、棒対杖を演じることにした。


 このスティーブン、なんだろう普通に近接戦闘は得意じゃないかと思っていたら……。


「よっ、ほっ」


 なかなかどうして、使えるのだ。

 俺の棒術とタメを張って来ている。


「使えたんですか、杖術」


「成長は弟子の特権ではないということじゃ」


 そう、弟子を通じて師匠も育つということだな。

 スティーブンはわかっているようだ。


「して……」


 横薙ぎの一撃を跳び避けられ、お返しの一撃をしゃがみ避ける。

 つけば消えられ、死角に現れて同じ技を返してくる。

 話をしながら攻撃を加えてくるスティーブンは普通に強かった。


「わしから謝ったのは少々敵を見誤っておったからじゃ」


「それはどういうことですか?」


「わしはテンバータウンの守護をエドワルドから請け負っておったんじゃよ」


「ふむ」


「第一拠点村は親友エドワルドが弟子であるレイラに託した場所である。それをあんな結果にしてしまったのはわしの管理不届きとも言えるのわけじゃのう」


 それは知らなかった。

 っていうか、なんだ。

 南の辺境の地を守護するためにスティーブンはいたわけか。

 とんでもないな……。


「もっとも、ある程度はプレイヤーに自由にさせとったがな。主は弟子じゃから、ちょくちょく連れていったであろう? 魔物が多くはびこる特殊な土地に」


「ああ……」


 喉元に突きつけられた杖を手甲でいなしながら思い出す。

 カニの魔物が大量発生していた沢。

 草原いっぱいを覆い尽くしたカマキリ。


「ちょくちょくではないですけど、まあ連れていってもらいましたね。それがどうかしたんですか?」


「そこは素直に連れていってもらったと記憶を盛っておけ」


「ええ……」


 連れてってもらってないから、盛れんぞ。

 そういう場合は、早速連れていって後付け設定にすればいい。

 あの時は、たくさん行きましたってな。

 あとのせサクサク戦法だ。

 そんな冗談を思い浮かべながらスティーブンの手を打ちに行く。


「そもそも南は魔物が多く、もとより人がなかなか寄り付かない辺境の地。もう100年近くも前に王族に開拓を委任された辺境伯は諸々に諦めておった」


 スティーブンは転移で後ろに躱し、ついでに俺たちに気づいて襲いかかって来ていた、よくわからない恐竜のモンスターを一撃で殺してセリフを続ける。


「じゃが、プレイヤーのおかげで随分と開拓も進み、大量の資源が眠っとることがわかった。その途端、辺境伯、そして王族、そして利権を欲するものたちが一気に小競り合いを始めるわけじゃ」


「……めんどうですね」


 うちのトンスキオーネがなんとしてでもぶん取りたいわけだ。

 あいつはしっかり価値をわかっていたってことだな。

 レジテーラとも繋がっているが、もっと上につながるコネクションを持ちたいのだろう。


「主がマフィアをつこうて何やらしとるのもわかっとるし、テージシティを収める下位貴族のレジテーラとも繋がって裏と表を束ねようとしておるのはわかっておるぞ」


「ぎくり」


「じゃが……あえて主を放置しておくことで、テージシティのマフィアを使おうとした貴族たちは牽制できると思っておった。案の定マフィア潰しを楽しんどったみたいじゃし?」


「そ、そうですね」


 だが、ノスタルジオにはどことなく食われた感がある。

 潰し終わる前に色々と面倒なことが起こったからなあ


「ちなみに主がまだ潰しとらんノスタルジオは、王族と繋がっておるぞ。一筋縄ではいかんし、プレイヤーキラーと呼ばれておるならず者たちを使って一杯食わされたであろう?」


「……………………なるほど」


 そうか、王族か。

 PKとノスタルジオが繋がっていると思っていたのだが、さらにその後ろには王族も加わっているのか。

 なるほど、魔人の街が独立して存在しているのも頷けるな。


「殺気が漏れておるのう。相当苦渋を舐めさせられたんじゃのう?」


「……今までの話を聞いて、別に師匠が謝る必要はないですけど」


「プレイヤーたちの動向は基本的に関与できんのじゃが、今回わしはクエストの一部として立ちはだかることが許されとった。たかが三次転職した程度のプレイヤーなんぞ、赤子の首をひねる程度で終わるとおもっとったんじゃが、そこに誤算があったんじゃよ」


「つまり師匠ほどでも、勝てなかったということですか?」


「そうじゃのう。というより時間を稼がれておった。勝てもしなければ負けもしない、そんな相手じゃな」


「で、俺は何をすればいいんですか?」


「話が早いのう、とりあえずもう少し戦闘を楽しんでもいいんじゃないかのう?」


「いえ、すぐ終わらせましょう」


「ふむ」


 そう啖呵を切ると、スティーブンの顔が真剣になった。

 戦うことは好きだし、それは対話だと思っている。

 だが、相手が本気ではない状況ではそうなり得ない。


 手を抜いて何が拳で語り合うか。

 違うだろう。


 スティーブンに勝てる可能性は、正直ない。

 ヴィジョンが見えないと言うか。

 転移魔法がある限り、絶対的に優位に立っているわけだ。


 今は俺に合わせて打ち合いをしてくれているが、それもちょっとムカついてきたところだ。

 修行と称するなら、奥義を見せろよ、と思う。

 ちまちま打ち合うのは修行ではないぞ、生温すぎる。


「行きます」


 だから、渾身の一撃にかけることにした。

 現時点でできることを、全て出し切ってやる。








更新遅れました。

誤字については明日時間が空いている時に修正したいと思います。

ご報告本当にありがとうございます。


石柱の嵐はしませんが、代わりにどうでしょう。

十六夜さん差し向けますね。





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