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「くっ!!」
プテラノドラの一撃が来る。
音速には慣れているのだが、空中では身動きが取りづらくて回避はできそうにない。
そうなれば、受けに回らなければならないのだが……どうだ。
「──────!!!!」
音速を超える速さで近づいてくる様は、サイレント映画のようだった。
避けれない、一度マナバーストによる回避を試みる。
「マナ、バースト!!!」
ドバッと、俺を中心に魔力の障壁が展開。
当然プテラノドラは避けることもせずにまっすぐ突っ込んできた。
ここまで大きな質量と速さでぶつかられたことはなかったが……いけるか?
「むわっ!?」
嘘だろ、押されたぞ。
ダメージにはならなかったが、そのまま強制的に横飛びさせられる。
空気抵抗がすごいな。
俺もある意味音速に近い速度で飛んでいるってことだろう。
「ふむ……スキル自体の強度の差が浮き彫りになっておるな」
「師匠……チッ」
飛ばされた正面にスティーブンがテレポートして姿を現した。
厄介だな、後ろからは旋回したプテラノドラが追撃に来ているし、前門の恐竜、後門のスティーブンである。
プテラノドラはスティーブンもたまに狙ってはいるものの、器用にテレポートしてターゲットは常に俺に向かうように調節していた。
本当に厄介だな!!!
「舌打ちとは弟子あるまじきよのう……」
「さすがにこれは厳しすぎるのでは?」
対人ならなんでも来いだが、魔物は別だ。
圧倒的体格差、圧倒的基礎能力の差。
それに対抗するべく。
プレイヤーはレベルを上げて、スキルを育てて、自己の強化を図る。
人の弱点は網羅しているが、魔物はわからんのだ。
せめてじっくり敵の弱点を探すことができたらいいのだが……。
「わしの弟子ならなんとかせい」
それをスティーブンがちょくちょく殴りに来てできなくされていた。
「言われなくても……なんとかしてやりますよ!」
武器を手放し、両手に銛銃を二丁構える。
そして、狙いを定めて打ち込んだ。
バスンバスンと音がして飛ぶ。
狙いは避けにくいように胴体にずらして二発。
「ハズレじゃ」
「結構です」
テレポートで瞬時に躱されるのはわかっていた。
だからスティーブンがいた場所に石柱を転移させた。
順番的に言えばまずアポートでそばに寄せ。
アスポートで飛ばす。
ガツンガツンと銛銃の切っ先が石柱に突き刺さり、すぐに戻しのトリガーを引く。
「ほう?」
「師匠は後回しにします」
そう言って、すぐそこまで迫って来ていたプテラノドラと相対する。
とりあえずどっちを先に倒せばいいかともなれば、可能性が高いのはこいつだ。
スティーブン自体は完全にお邪魔キャラに徹しているみたいだし。
倒せ、ということなのだろう。
「じゃがわしは攻撃をやめんぞ?」
「結構」
プテラノドラが来る。
マナバーストの感触で大体の最高速度はつかめた。
空蹴と石柱空中着地を使って回避してもいいのだが、それだとジリ貧になるので……今回は受けようと思う。
「──フッッ!!」
短く息を吸って吐き、陰息吹にて丹田に力を入れ一気に筋肉を締め上げる。
剛体法。
そのまま、全身で回し受けを行う。
受け流しの技として、太極拳の化勁も使えんことはないが、体格的に巨大な嘴のような顎を手で払って受け流すのは難しいだろう。
だから、全身を大きく円運動させて、はじき返し、そのままプテラノドラの眼球に抜き手を突っ込む。
「キアアアアアアアアア!!!」
大きく減速して、鳴き声が追いついた。
耳を劈くような悲鳴の中、プテラノドラの頭にしがみついたまま、アポートで手元に魚鉤を転移させると、そのまま腕を大きく伸ばしてもう片方の目にえぐりこませた。
これで視界は潰した。
そして身体も、こいつの頭に固定させた。
空中をグルングルンと暴れまわるが、がっちり捕まった俺は振り落とされない。
魚鉤で眼孔引っ掛けてるし、さらに言えば右手は眼球奥の神経を握っているからな。
ええと、脳はどこだろ。
この辺の奥かな?
「キアアア!! キアアアアア!!!」
なんとなくそれっぽいところに、
「エナジーブラスト」
持続ダメージと火傷効果を持つ特大の攻撃を放つ。
ハハハ!!
頭の中を焼き尽くしてしまえ。
廃人ならぬ廃鳥なってしまえ。
鼻の穴ではないタイプのロボトミーだ。
「そして念には念を入れてっと……」
スペル・インパクトをこれでもかってくらい連続でぶち込んで負いた。
ギリギリガキガキと明らかに固そうな頭蓋骨が内側から削れて行く。
なんだろう、こういう戦闘は久しぶりだな。
これで少しストレス解消するって……。
…………。
……俺ってひょっとしてやばいやつなのだろうか?
あんまり深いことは考えずに切り替えていこう。
殺さなきゃ俺がやられてしまう可能性があるからな。
「相変わらずえげつないのう……」
血なのか、髄なのか、神経なのか、脳なのか。
よくわからんけど、どす赤い液体まみれになった俺を見て、スティーブンは顔を苦くしていた。
「食物連鎖では当たり前のことです」
「戦いに対してそこまで自然的な感性を持つお主が弟子である意味誇らしいのう……」
やれやれ、といった風に首を振り。
空中で器用にパイプを咥えて煙を吐き出すと、スティーブンは杖を繰る。
「第二ステージじゃな」
魔法陣が展開して、俺は地上に戻っていた。
なんと、今回は自力生還ではなく送迎付きだったか。
朦朧とする意識の中、勢いだけで書き上げました。
明日も更新すると思うのですが、夜中まで所用がありますので、少し遅くなりそうです。
さて、ここまで読んでくださった方に、厚く御礼申し上げます。
皆様のブクマ、評価、そして感想が、モチベーションに変わります。
これからも頑張りたいと思います。
感謝の石柱の嵐。




