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結論を言えばバレなかった。
どこかへ遊びにいったとでも思っているのだろうか、でかい図体のゴブリン達は、そのまま日の光を浴びながらゴロゴロと疲れを癒し、それぞれ武器を打ち合って鍛錬したり、思い思いの時間を過ごす。
「ゲヒ」
「ゲッ」
エプロンみたいな姿のゴブリンが包丁を持って何やら話している。
……まさか食べるのだろうか?
いや、食べるっぽいな、絶対食べるなこれ。
捕まったプレイヤー三人とNPC二人は気絶の状態からまだ目覚めていない。
……少し興味が湧いた。
プレイヤーって魔物から捕食されるとか、そういうのあるのかなって思ってね。
『……ホブゴブリン・エリート』
「ん?」
羅刹がいきなり喋り出す。
『危険な、兆候かも』
どういうことだ?
『昔、私の持ち手に鬼の王がいた。ゴブリンから進化しているのに、圧倒的種族格差を持つオーガよりも、単体として強かったゴブリンの王、ドクトル』
全くわからん。
何を言ってるんだ、こいつ。
『あ、ちなみにその時は別の剣だったからね? 小鬼を呼び従えるロードオブゴブリンソードって感じの剣だったからね? 今の羅刹はあなたの戦闘スタイルや保有称号、そして意識によって徐々に形作られて言ったものだから、唯一無二とはいかないけどこのまま行けば唯一無二のあなただけのあなた専用だから──』
……ごめん、別の話になってるからとりあえずわかりやすく簡潔に教えてくれると助かるんだが……?
唯一無二とか専用とかそういうのはどうだっていいんだよな、武器だから。
まあ、せめて他の武器に持ち帰られないように強くなって、と言っておこう。
『実は使わなかったら、成長値下がっていく、元に戻る』
「だったら使わせろ。強い武器になって」
『はい』
ちなみに説明欄を見てもそんな文章は書いていない。
嘘だな、嘘。
……でも説明なし、なんてGSOじゃよくあることか。
で、話の続きは?
『ゴブリンは集落を築くと、率いる個体が必ず出現する。というか出現し拡張し、そのコミュニティで覇権を争い、打ち勝って物が再び拡張する。といったシステムが組み込まれてる』
へえ、思いの外、人間だな。
社会とは大体そんなもんだ。
『その結果、一国を作り上げたゴブリンがいた。それがドクトル。人の脅威』
羅刹は続ける。
『ある程度の規模になると、ゴブリンに繁殖能力が備わる。自然に生み出されるのではなく、自分たちの意思で繁殖して行くようになる』
そうだったのか。
テンバータウンの時は見かけなかった子供ゴブリンがいたことも、それならば納得できる。
『もともと強い繁殖力を持つゴブリンは、さらに莫大な数へと増える。人間よりも早い。その中で個体は洗練されていき、弱者よりも強者の数が増え、人と同レベルの個体が多くなった時、さらに広いエリアに向かって侵攻する……それがインベイド』
ほう、それって強襲とかそういう系のスタンピードとは違うのかな?
『全く別? 詳しくは知らない。でも暴動ではなく、計画性のあるものだったはず』
なるほど。
これ以上このゴブリン、つまるところワルダ族を放置しておくといずれはさらに強大な力を持ったゴブリンが生まれて、そして人の住む街に侵略してくるイベントが発生するのか。
なにそれ面白い。
個体がたくさん生まれて洗練されて行くなら、達人ゴブリンとかもいるのかな?
『かもしれない』
……。
『思考を読ませないようにしてるみたいだけど、考えてることはわかる。でも推奨はできない』
む、バレていたか。
でも推奨はできないということはどういうことだ?
『規模的に、まだ時間がかかる……かも』
そういうことか。
納得した。
「ならば、とりあえず狩るか」
強いゴブリンのドロップアイテムも気になるところだしな。
だが、それはとりあえずNPCとかプレイヤーが犠牲になってからでもいいだろう。
今のプレイヤーは装備制ではなく、自分で着込む方式に切り替わってるから、剥かれるのを待つ。
倉庫に奪った装備類が溜め込まれているのはこの目で確認しているから、きっと食べる前にそうするだろう。
アイテムボックス以外のアイテムは、今は安全ではないのだよ。
見殺しにするのはかわいそうだなんて思う人もいるかもしれないが、こんな森の奥まで来た時点で生きるか死ぬかは自分次第。
自己責任の世界ってことで、ここはひとつ俺は涙を飲もう。
「──拘束を解け、このゴブリンども!」
そう思って待機していると、レンジの声が響く。
どうやら目が覚めたようだ。
隙を突かれて昏倒系の魔法スキルの発動を許してしまったみたいだが、魔法職なので復帰も早かったようだ。
「っていうかその前に俺の杖とローブを返せ! あ、こら! なんでお前みたいな薄汚いゴブリンが身につけてんだ! 洗濯の必要はないけど、俺ちゃんと毎日洗濯してるんだぞ!? おま、返すならしっかり洗ってから返せよな!」
……なんというか、雰囲気が台無しだな。
雰囲気もへったくれもないが、それにしても今装備を洗って返すだのを話している余裕はないだろうに。
「ゲヒヒゲヒ」
「ゲヒゲヒヒ」
「くそぉ、無駄にゲヒゲヒ笑いやがって……いいぜ、テメェら……魔法職からは武器を奪えばいいと思ってるんだろうが……そりゃただの威力上昇用のアイテムだってことをわからせてやるぜ。フレイムボルテックス!」
集落中央の一番大きな建物が勢い良く燃えた。
その様子を見たゴブリン達がみんな武器を取って立ち上がるが、フレイムボルテックスの渦巻く炎によって侵入を拒まれている。
火の手に包まれる建物の中で、レンジの笑い声が響いた。
「人質とひとかたまりにされて拘束されるこの瞬間を待ってたんだぜ! 俺をさっさと殺しておかなかったことが運の尽きだぜ最強のゴブリン!」
フレイムボルテックスの炎に焼かれて、綺麗に壁だけが焼け尽きる古い建物。
炎の内部で杖を構えて歯噛みするゴブリンと、その中心にいるレンジに向かってなんとか斬り込もうとするゴブリンがよく見えるようになった。
「ゲヒゲヒッ! ──ゲヒッ!?」
ゴブリンの一人が持っていた鉄製の鈍器を落とす。
「甘いぜ……熱膨張ってしってるか?」
……違う。
熱膨張じゃねえ。
単純に熱さによって持ち手まで鉄で作られていた武器を持てなくなっただけである。
熱伝導っていえよ、熱伝導。
まあ、それも合ってるのかわからないけd──、
「──ヒートコンダクション。ほら、持ってるだけで火傷しちまうぜ?」
くそっ、ヒートコンダクションなら熱伝導だろ。
学がない俺でもそんなことわかるぞ!
なんだかモヤモヤする気持ちに包まれながら気づいたのだが、漁夫の利作戦失敗したかもな。
この流れは完全にレンジの流れである。
レンジは炎の渦を構築し、仲間を守りながら圧倒的な火力でゴブリン達を葬り去って行く。
ゴブリン側の魔法職も、異常状態に強いアドバンテージを持つ闇属性を展開してなんとか戦闘を開始するが、火属性魔法スキルとの火力の差は圧倒的だった。
定点でこそ強いのにその戦略的なアドバンテージまでレンジに奪われ、火によって器官を焼かれ詠唱できなくされ、一気に消し炭に。
「俺の強さは仲間に迷惑をかけちまう……だが、この状況なら100%で本気を出せるんだぜ、最強。テメェらがここで繁栄して王都を脅かす存在になりかねないってんなら、それを夢見て人を襲ってんなら……その幻想を──ぶっこりょる! チッ、噛んじまったけどおしまいだー!」
……やれやれだな。
このままここにいても、見殺しにしたとか言われかねない。
俺はローヴォを連れて、逃げるように速やかに森の奥へと入っていった。
あんまりどこぞのPKみたいに、下衆な考えをするもんじゃないな。
これこそ因果応報ってやつだろう。
ヒーローを気取るわけじゃないが助けておけばドロップアイテムいただけたのに。
これは今後の教訓としよう。
情けは人の為ならず……とも言うしね。
珍しく(天然)ボケではなく、ツッコミに回るローレントでした。
片隅にある倉庫の陰から見たり聞いたりしていました。
別PTだった理由は、まあ色々とあるんですが、その辺はまた今度になります。
あのけしからんPTは、必ず出てきます。
見え見えの伏線をはって、大方忘れた頃に(すっごい話数経過したあたり)にポッと出すことがあるんですが……というよりもそんな伏線の貼り方しかしらないというかなんというか……。
できるだけ忘れないうちに出したいと思います。
WEB連載版GSOのエピソードは、基本的にプレイ日記みたいなものなので、できるだけ即日に色々ことが起こってしまうようなことは避けようと思っているのです。
(それを考えないと一日二日の時間枠でえれぇ数のやりとりをぶち込んで、200話くらい経過してるのにまーだこの話続いてるんか!ってなってしまうので……これについては反省しています)
ってことで今後ともよろしくお願いいたします。
新作投稿ちまちまやっててもGSOの毎日投稿はやみませんのでご安心ください。
……。
十六夜「安心してください、更新しますよ」
ツクヨイ「あの人、痩せてしまって常に履いてる感じになっちゃったんですよねー」
三下「くっだらな」
新作は下にリンクあるはずです。




