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シオツブテって素材本来のままで使用すると、バーベキューでよく使う岩塩として役に立つんじゃないか。
そんなことを思いながら、ダンジョンを進んで行く道すがらで見つけたシオツブテを拾ってアイテムボックスから取り出した麻袋に入れる。
「……なんで行く道すがらで荷物増やすの? バカなの?」
「いや、これには考えがあってだな……」
まだ岩塩って出回ってない。
だからイシマルあたりに加工して貰えばバーベキュー用の岩塩として、高く売れたりするんじゃないか。
という考えから動いているのだ。
それに、岩塩使って焼いた肉も食べてみたいし、むしろ屋台でやったら結構人気になるんじゃないかなと思って。
「まあ、持つのはあんただからいいけど……」
俺たちはダンジョンをさらに奥へと進んでいた。
ゴロロロロンは相変わらず出て来るし、ツブテイシもそこら中に虫みたいにうようよいるし、相変わらず代わり映えしないダンジョンだが、ここで一つだけ違う魔物に出会った。
「ゴ、ア……ゴ……」
「止まってローレント。ストーンゴーストよ」
「ストーンゴースト?」
とりあえず鑑定しよう。
【ストーンゴースト】Lv 30
様々な石が寄り集まって象った亡霊のような魔物。クラス4。
壊しても壊しても、再び石が寄り集まって再生する。
荒野にいたワイルドベイグランドとか、ワイルドオブザウィルに似ているな。
だがあれはもっと人に近い形容をしていた。
ストーンゴーストは、なんだろう……本当に適当に石をくっつけて人形にしましたって感じ。
すっごいボコボコしている。
「石材系の魔物の中では、近接泣かせと言われる魔物ね」
「ほう」
「倒したと油断しても、その辺のツブテイシを取り込んで勝手に再生して後ろから襲って来ることもあるの。だから基本的に見つけたら攻撃して分解させて、しっかり核を潰すことが大事よ」
「核はどこにある?」
「寄り集まったツブテイシのどれかに核があると言われてるわね。まあ、倒し方がわかってれば簡単よ。見てなさい」
そういうと彼女は無詠唱で土属性の魔弾、ストーンブレットを放つ。
ゴッと音がして、ストーンゴーストはボロボロっと崩れた。
元となっている普通のツブテイシより強化されているのだろうか、砕けはしない。
「崩壊したストーンゴーストは必ず元の姿に戻ろうとするわ」
見ていると、ガタガタと石たちが揺れ始め、密集しようと動き出した。
「なるほど、元の姿に戻るときの中心が、この魔物の核だってことか」
「そうよ。でもこいつ、勝手にドロップアイテムっぽいものを倒した時に落として騙す性質を持ってるから、結構騙されてそのまま素材の一つを持ってて、永遠とあとをつけられて奇襲される人が多いのよ」
「ん?」
ってことは、無限にアイテム稼げない?
散らばった石を確認すると、確かに石材とか諸々のドロップアイテムを残していた。
「……予定が変わった。殺すな」
「なんでよ?」
「王都までついて来させる。そしてできれば折に入れて飼う」
「はあ!? ダンジョン探索中に何悠長なこと言ってんの? 邪魔されたら厄介極まりないわよ!」
「その点は大丈夫だ」
アポートとアスポートを駆使して石牢を作る。
その中にストーンゴーストを閉じ込めた。
「そんなのただの時間稼ぎにしかならないわよ!? そのうち壁にしてる石材も取り込んじゃうんだから!」
「それでいい。出て来れて勝手に戻ってくる状況が一番好ましい」
「……もう、あんたがそれでいいなら、それでいいわ……」
眉をピクピクと動かして、辟易とした表情をしたラパトーラはそのまま洞窟を進み始める。
このままストーンゴーストも確保したいなあ、無限石材生成装置にできたらすごくいい。
とりあえずニシトモとかイシマルにメッセージを送って確保しておけるものを作ってもらおう。
石材取り込むなら、檻の素材は硬い木がいいな。
魔樫の丸太も余ってるのがあっただろうか、あれは硬くて魔石と組み合わせればなかなか折れない良い木材になるのだ。
俺はもっぱら武器として使用してるけどね。
「っていうかラパトーラ、散々文句言ってるが、今回確保できたストーンゴーストは、金のなる木にも近い存在だぞ? 石の補充とかする必要があるかもしれないが、石材の他に鉄鉱石とか無限に落としてくれたら簡易採掘場みたいなもんだ。それを前にしてお前は倒すというのか?」
「……」
俺の言葉を聞いたラパトーラは、一瞬俯いて黙った後。
「金のなる木ならば仕方ないわね!!!」
と、目を輝かせながら賛成してくれた。
なんだかんだ俗物っぽいところが、そこはかとなくキャラに合っている女だなと思いました。
ストーンゴーストを閉じ込めつつさらにダンジョンを奥へ行く。
もうスクロールも切れて、ラパトーラはカンテラ片手に動くようになった。
俺は相変わらず暗闇でも見えているけど。
「あのね、ローレント」
「なんだ?」
「別に、ローレントのせいにするつもりはなかったんだよね……本当は……」
俺の隣を歩くラパトーラが、なんかいきなり語り出したぞ。
「なんだろ……やっぱり、かなり有名な師匠に弟子入りするって、結構厳しい世界みたいだから。あの時負けた時点で、私の価値ってそんなもんなんだって、思っちゃったのよね……」
「お、おう」
「それで、結局負けただけじゃなくて、師匠様の屋敷とか、諸々全部取られちゃって……」
「お、おう」
結果的に俺が奪っちゃったようなもんだから、何も言い返せなかった。
なんかその、ごめん。
本当にその、なんていうか、ごめん。
ごめんなんだが、この状況と空気でそれを気軽に言っていいものか……。
これがリアルで決闘して、相手の腕とか四肢を壊してその口だったらそれは弱いのが悪いだとか、殺されなかっただけマシだろうとか、きついこと言えるんだけど。
うーん、そうじゃないし、俺と決闘したのも師匠が言い出したことだから何ともバッサリ切り捨てずらかった。
なかなか美味い飯ももらったし、話して見たら俗物的なところもあれど、悪いやつではなかったからなあ。
「あんたの言う通り……競争率が激しいから……有名どころの弟子って……」
「お、おう。でも、そんなに激しいものなのか? うちの師匠はもともと弟子は取らん的な感じだったけどな」
なんだかんだなし崩し的に弟子入りしてそのまま身を寄せている。
まあ、師匠らしいことといえば、両手で数えるくらいかな。
「無属性の魔法使いスティーブン様は、かなり高い地位にいるのに、辺境の地にいることでも孤高として有名なのよ。そんな人が弟子を取ったってことで、パトリシア様がわざわざ呼んで模擬戦をさせようって言って私とあなたが相見えることになったのよね」
「へえ」
「まあ……結果転落しちゃったけどね。ごめんね、なんか変な話聞かせちゃって。誰かのせいにするつもりはなかったんだけど、やっぱりカッとなっちゃった部分はあるのよ、ごめんね」
ぺこりと頭を下げるラパトーラ。
はじめに受けた印象とガラリと変わっていた。
元々は、こんな性格だったのかもしれない。
ほら、師匠と弟子って似てくると言うか。
師匠の背中を見て弟子は育つもんだからだ。
「……ラパトーラ、お前の師匠を否定するつもりはないのだが」
これだけは言っておこう。
「師匠ならば、弟子の面倒は最後まで見る。それが鉄則だ。たった一度の負けで、敗北で、それを怠った時点で、パトリシアに師匠としての資格はない」
「……あっそ……思いっきり否定してるじゃないの……」
俺の言葉を聞いたラパトーラは、そのまま振り向きもせずにスタスタと洞窟を先に進み始めた。
悪く言っちゃったのはダメだったかな。
破門されたとはいえ、師匠として尊敬してたはずだろうし。
「………………でも、ありがと」
なんか言ったような気がしたが、俺は話に集中しすぎて見逃していたツブテイシの奇襲を受け止めててよく聞き取れなかった。
邪魔しないでツブテイシ。割るぞ。
見事に石しか出ないダンジョン。
本当なもっと何かしらのものを考えてましたけど、思いつきませんでした。
途中でストーンゴーストをストーンゴーレムだと書いてしまう誤字があったんですが、見た感じ直されるんじゃないかと思います。何かあったらご報告していただけると、幸いです。
そんなわけで、毎日更新しながら新作書き溜め中です。
いつか公開できたらなと思っております。その時も、よろしければ私の駄文にお付き合いくださいませ。
あと、最後にツクヨイさんから挨拶をば……。
ツクヨイ「GSO2巻好評発売してやがりますよ〜。私は裏表紙にいますです! でもなんか脇役キャラに落ちてる気がしないでもない……ひどい……」




