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久方ぶりの第一拠点。
まばらながら、プレイヤーが右往左往している状況が見て取れた。
建物がまばらであるが、建ちつつある。
レイラの話によると、専ら、生産職向けの総合施設という立ち位置を取るらしい。
一応テントスペースは確りと整備されていた。
主に土建屋の連中のお陰である。
生産施設域、居住区域、船着き場、その他という形で看板に計画図が張ってあった。
土建屋が本格的な活動をするのは大体土日。
ふむ、拠点の完成はまだまだ先のようだ。
先に桟橋を復元するのは?
勝手にやっても邪魔になるだけか、そう考えると、下手なことはしない方が良いだろう。
モンスターの湧かない釣り場になった川辺で、釣り糸を垂らしながら過ごした。
ローヴォは隣で伏せて目を閉じていた。
リバーフロッグを咥えて、さも嬉しそうに俺の所まで駆けて来ていた頃が懐かしい。
ああ、懐かしいのである。
釣果はそこそこ、グレイリング以外は基本的にリリースしていた。
それでも川の水を汲んだバケツの中には十数匹にもなるグレイリングが酸欠状態に陥って、口とエラをカプカプさせていた。
ちなみにまだ締めてない。
町に戻る時に全部一気に締めるつもりだった。
そろそろ町へ戻る時だった。
川の流れのままに垂らしていた糸が張った。
グイっと竿が引っ張られる。
魚の当たりとはまた違った感触には覚えがあった。
……ゴミでも引っ掛けたか。
【スキル強化の書(魔法)】50%
魔法系スキルのパラメーターを1ポイント強化する書。
スクロール型の古羊皮紙を手元にたぐり寄せると、とんでもないものだった。
お、おい。
リアルか?
目を疑うが、紛れも無い、これはスキル強化の書だ。
スキルポイントを1ポイント強化する書。
魔法系と書いてあるが、種類がわかれているのは知らなかった。
まあどっちだって良いや、前衛スキルや遠距離スキルよりも魔法系であることに越したことはない。
と、言う訳でさっそく使うのである。
[スキル強化の書(魔法)を使用します]
[対象となるスキルを選択してください]
表示されたスキルツリーで光っているもの。
それが強化の書が使えるスキルであるということか。
もちろん選択するのはフィジカルベール。
◇スキルツリー
【フィジカルベール】
・軽減Lv5/5
・熟練Lv5/5
・消費Lv1/5
・詠唱Lv3/5
[フィジカルベールの強化パラメーターを選択してください]
[消費Lv1からLv2へ強化しますか? yes/no]
もちろんイエース!!!
いっけええええ!!!
[スキル強化の書(魔法)は、不思議な光を放ちながら強化に失敗しました]
ガッデム!!!!
すっかり成功すると思い込んでしまっていた。
それ故に、失敗した時のこの失望感。
俺は生産スキルポイントを全て熟練レベルに費やすことにした。
プレイヤーネーム:ローレント
職業:無属性魔法使いLv19
信用度:65
残存スキルポイント:0
生産スキルポイント:0
◇生産スキルツリー
【漁師】
・操船Lv1/20
・熟練Lv8/20
・漁具Lv3/20
・水泳Lv1/1
5ポイント全部使ってやったぜ。
再び釣り糸を川へ。
それから二時間。
フレンド登録したエアリルからメッセージが届くまで、永遠と釣りを続けていた。
もちろんグレイリング以外はリリース。
釣り上げたグレイリングは六十八匹。
俺の隣に、酸欠したグレイリングがぎっちり詰め込まれたバケツが四つ並ぶ程だった。
……強化の書は釣れませんでした。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。
落胆のまま、六十八匹の魚を締め終えるとバケツを抱えて町へ戻った。
「流石に、多過ぎますよ」
「申し訳ない」
持ち寄ったバケツを目の当たりにしたミアンが呟いた。
サイゼも「おおう」と大量の魚を前にして息を呑む。
「大丈夫です、他にも持ち寄る所があるので」
「ならひとバケツ分だけ、精算しますね」
「ニシトモさんを通さず大丈夫ですか?」
「最近結構屋台売れてるから、手持ちはそこそこありますよ」
この公園では、すっかり老舗という立ち位置に居そうなサイゼとミアンの屋台であれば、大量の魚を買い取ることも可能なのである。
だが、売りさばけるかは別である。
そう言う訳で、売り切れる分だけ買い取ってもらうと、いつだか閑古鳥が鳴いていた小料理屋へと向かう。
「久しぶりに顔を見せに来たかと思えば、こりゃまた大量の……」
オットーの小料理屋である。
ちらほら飯を食べに来ているプレイヤーやNPCが数人程、店に居た。
バケツ三つ分のグレイリングを目の前にして、オットーは言う。
「新鮮な魚はありがてぇけどな、量を考えろ。量を」
「すいません、夢中で釣りを楽しんでまして」
夢中だったのは事実である。
質が悪くなる前に何とかしたいのだが……。
「いくつ買えます?」
「うーん、バケツ二つ分。と言った所かな」
「ならその金額を頂いて、バケツ三つ分お譲りします」
「いいのか?」
「どうぞ」
余った魚は一夜干しにでも何でもしたら良い。
小料理屋ならば、干すスペースくらいあるだろう。
流石に間借りしている身で、スティーブンの家で干し物作るのは気が引ける。
臭いと言われれば俺は謝るしか無い。
「まあ色々作ってみるか、ありがとな! 食べてくか?」
「いえ、この後用事があるので」
「そうか、特性の塩漬けとか乾物作ってやるから、今度また顔出せよ」
ちなみにこのオットーの顔つき。
大分昔有名だったえが○ら2:50という芸人にそっくりである。
そんな彼が満点の笑顔で俺を送り出してくれる。
見送られた後は、足早に石工所へと向かう。
エアリルの加工所は別の場所を間借りしているそうだが、イシマルも出来上がりが気になるのか、三人で石工所で落ち合うことになっていた。
「すいませんお待たせしました」
「いいのよ、今日は他のメンバーも落ちてるし」
エアリルのパーティーメンバーのことだろうか。
ふと、アルジャーノのことを思い出す。
と、言うか、インパクトが強い名前だったのでそれしか覚えていないという。
「俺は石工所に集まってもらってるから何も言えねえ」
そう口走るイシマル。
特に返す言葉も無いのでそのままエアリルから出来た物の受け取りをする。
「はいこれ、研磨自体はオーソドックスなものよ」
手渡された首輪の中央には、雫型に綺麗に削られた、滑らかに輝く翡翠が自己主張していた。
思わず感嘆の声が漏れる。
イシマルも同様だった。
「効果だけど」
【合わせ翅と翡翠の首輪】製作者:セレク、エアリル
飛蝗、蜻蛉の翅を合わせて繋ぎ合わせた首輪。
中央にはやや小さめだが翡翠が組み込まれている。
軽く、跳躍力、空中機動にやや補正がかかる。
身代わりを得る程の魔力は持たない翡翠だが、身につける者に僅かな幸運を呼ぶ。
・幸運(微)
・耐久100/100
……もしかしてこれ。
……ひょっとしてこれ。
ドロップアイテムの獲得に関して何か関係があるのだろうか。
ありそうな匂いがすごくする。
今度スティーブン師匠様にお願いしてワイルドベイグランド巡りをさせて頂きとうございます。
ローヴォが見せびらかしてくる。
それを見ると、俺もすごく欲しくなった。
「……何となくだけど。良いことがありそうな説明文よね」
「ドロップが増えたりとかな」
エアリルとイシマルが言う。
俺もそれ思ってたよ。
「ではお支払いを」
「いや、支払いはグロウじゃなくても良いわよ」
「え?」
「あ、ずりーぞ! ってああああ」
エアリルの一言にイシマルが反応していた。
手元が狂ったのか、丸く削っていた石に要らない傷を付けてしまったようだ。
「ま、また最初から……、石工今日はもういいや」
落胆するイシマルを放ったらかしにしたエアリルは続ける。
「後付けになってしまったけれど、いつでも良いの。そのパンドラストーンって代物を私にも一つ融通してもらえないかしら?」
「上手くドロップすれば良いですが、私もいつでも行ける場所ではありませんので」
「そう……」
僅かに視線を落とすエアリル。
多分あのエリアに行ける条件として、俺の持つ称号の効果が大きいと思う。
スティーブンの弟子であるからこそ、行けるエリアなのだと。
だが、未だ個人で行く許可を得ていない。
一人で行っても、死に戻りするのが落ちな気もするが……。
「でも機会があればお願いできる?」
「はい」
機会があればと、かなり譲歩してくれているようなので、約束を交わした。
ワイルドベイグランド倒したいとスティーブンに駄々捏ねてみるのもありだな。
行けぬなら、泣いてわめいて、駄々捏ねる。
俺、川柳のセンスあるかもな。
……ないか。
「だああああ、今日はもう止めだ止めだ! ローレント、牛肉を狩りに行くぞ。仲間を集めろ」
「んな急に言われましても」
「何か食わないと! 虫がおさまらねぇ!」
イシマルの腹の虫は大暴れしている様だった。
彼はさっそくメッセージで適当に連絡を取っている様だった。
フレンドリストを確認する。
当然、トモガラは居るよな。
あとガストンは珍しくいない。ミツバシも。
ニシトモは居るけど行商っぽい。
「流石に三人じゃ、無理じゃないかと」
「なんでこういう時に限って!」
どういう時だろうか……。
そこでエアリルが声を上げた。
「牛肉? もう出回ってるの?」
「ああ、まだ一部しか知らないのか、西の草原を越えた先にある草原に、沢山牛モンスターが湧いてて牛肉が手に入るんだぜ!」
「へぇー! 私ら南の森か東南の藪ばっかりだったから気にも止めてなかったわよ。第一農場しか無いと思ってたんだもの」
「ん、ニシトモからメッセージが来たぜ……、そういや猟師と繋がりが出来たそうだ」
イシマルの一言には身に覚えがあった。
案の定、フレンド登録はしていなかった。
そしてしばらくして石工所に姿を表したのは、十六夜さんでした。
「ど、どうもです。十六夜と申します。弓師で猟師です」
「おい、よろしくな!」
やや緊張した面持ちだった。
そしてすぐにエアリルが気付く。
「あら、それはテイムモンスター? ……ケンドリック達に粘着されてた梟女?」
「え? ああ、その……、それであってます、すいません」
「いやいや、怒ってる訳じゃないのよ! こちらこそ失礼な物言いでごめんなさい」
十六夜って心の底から申し訳無さそうに謝ってる感じがする。
俺?
すぐ謝るけど反射みたいなものだ。
自覚してる。
エアリルもエアリルで、歯に衣着せぬもの言いだし。
レイラ当たりと打つかりそうだが、悪意は無いような感じがするので、逆に良い会話相手になるんじゃないかと思っている。
というか、既に知り合いな感じもしないでもない。
ある意味俺森に籠ってたりして町の情報なんて何一つ知らんから。
「元気になったんですね」
「おかげさまで」
十六夜はローヴォの元へ駆けて行き、しゃがむと首もとを撫でていた。
気持ち良さそうにするローヴォ。
梟のブルーノもローヴォの傍らに寄り添っていた。
「俺も欲しくなって来ちまったぜ……」
「私も」
そんな二人に教えておく。
「ある一定の確立かわかりませんけど、テイムモンスターのトリガーってプレイヤーに瀕死にされているモンスターを助けるっていうイベントが起こるらしいですよ」
「私のブルーノもそんな感じでした」
「うむむ、ならまだテイムモンスターを持ったプレイヤーはいそうね」
そうやって考え込むエアリル。
イシマルは腹の虫が思考を放棄したみたいだった。
「早く狩りに行くぞ! 一応これで人数も揃った!」
「トモガラは?」
「既に居るんだってよ」
そうですか。
一人で、何してるんだろうあいつ。
そんなことを思いながら、俺達四人と二匹はパーティを組んで移動を開始した。
地味にフルパーティであるということも忘れずに。
プレイヤーネーム:ローレント
職業:無属性魔法使いLv19
信用度:70
残存スキルポイント:0
生産スキルポイント:0
◇スキルツリー
【スラッシュ】※変化無し
【スティング】※変化無し
【ブースト(最適化・補正Lv2)】※変化無し
【息吹(最適化)】※変化無し
【フィジカルベール】※変化無し
【メディテーション・ナート】※変化無し
【エンチャント・ナート】※変化無し
【アポート】※変化無し
【投擲】※変化無し
【掴み】※変化無し
【調教】※変化無し
【鑑定】※変化無し
◇生産スキルツリー
【漁師】up!
・操船Lv1/20
・熟練Lv8/20
・漁具Lv3/20
・水泳Lv1/1
【採取】※変化無し
【工作】※変化無し
【解体】※変化無し
◇装備アイテム
武器
【大剣・羆刀】
【鋭い黒鉄のレイピア】
【魔樫の六尺棒】
【黒鉄の双手棍】
装備
【革レザーシャツ】
【革レザーパンツ】
【河津の漁師合羽】
【軽兎フロッギーローブ】
【軽兎フロッギーブーツ】
【黒帯(二段)】
◇称号
【とある魔法使いの弟子】
【道場二段】
【復讐者】
◇ストレージ
[スティーブンの家の客間]
セットアイテム↓
[カンテラ]
[空き瓶]
[中級回復ポーション]
[夜目のスクロール]
[松明]
※残りスロット数:7
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【グレイウルフ】灰色狼:Lv6
人なつこい犬種の狼。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき][引っ掻き][追跡]
[誘導][夜目][嗅覚][索敵]
[持久力][強襲][潜伏]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
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色々と変化したので一応上げときます。
いるかいらないかで意見ください。
後書きは皆さんに従います。
もうすぐ17000ポイントですねー。
ここまでこれたのも皆さんのお陰です。
感想返信はまだしてませんが、全て一読しています。




