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それから、範囲鑑定で認識できた【ツブテイシ】達を端から端まで土属性の魔弾で叩き割っていくラパトーラ。
さすがは四元素の魔法使いと呼ばれるパトリシアの元弟子である。
いったい何があって弟子を破門されたというのかは謎だが、とりあえず自分の口から話してくれるまでは聞かないでおくことにした。
「腕を上げたな」
「な、何よいきなり! っていうか、あれはあなたが私のペースにさせてくれなかったっていうだけで、私が魔弾攻撃を開始していたら、容赦なくあんたなんかボッコボコにしてたんだからねっ!」
「そうか、まあ相手のリズムを打ち壊すことも戦いの内だ」
「くっ、一回勝ったからってなによその上から目線! 私だって、“魔弾”のラパトーラだって冒険家ギルドの二つ名とか、魔法闘士として上位ランカーの二つ名もあるのよ!?」
「魔法闘士?」
「また説明? ほんっと無知ね! 闘技場には近接クラスと魔法クラス、それと無差別クラスがあるの。その中の魔法クラスで私はトップ10に一番近い新進気鋭の上位ランカーなのよ!」
しのごの言いながらも説明してくれるラパトーラは実は面倒見のいい奴だった。
初邂逅が師匠の不仲的な何かに左右されたものじゃなければ、互いに切磋琢磨できる良き関係に慣れたのではないかとさえも思う。
それよか、少しばかり気になったことが。
「トップ10に近い? それって十傑に近い存在だってこと?」
「ううん、十傑は無差別クラスのトップを指す言葉ね」
俺の問いに、ラパトーラはそう首を横に振って答えた。
「近接クラスと魔法クラスのレベルは大体同じくらいだと思っていいわ。魔法クラスのトップの方が、勝負すれば勝てる見込みが強いけれど、まあ、クラスが分かれているし、試合条件も違うからあんまり関係ないわね」
彼女は続ける。
「そんな近接スキルやら魔法スキルやらのスキル制限が取っ払われたのが無差別クラス。上位に行けば平均レベルは100を超える猛者中の猛者が巣食うとんでもないクラスよ」
「なるほど」
デュアルとデソルの戦いを見ていたが、確かに俺も感心するほどの実力を持っていた。
「スキル制限がないのもそうだけど……武器・防具系統の持ち込みはオールオッケーだから、たまにとんでもない奴が現れて大きく盛り上がるのよ。あ、回復系統のポーション類やドーピング系のアイテム持ち込みは一応禁止されてるわね。まあ武器で回復しちゃう奴とか自己回復できちゃう奴とか、いるからあんまり意味ないって言われてるけど」
闘技場について語るラパトーラは、やけに饒舌だった。
なんというか、
「おまえ、ハマって通ってるのか?」
「っ!?」
図星をついてしまったようだ。
顔を赤くしたラパトーラはローブをぎゅっと握りしめて言い返す。
「なによ! 悪い!? 初めは師匠様から魔法のトップを取れって言われて闘技場に出入りしただけで、全然興味なかったのよ!? でも無差別クラス見て見たら、本当に人外魔境としていてワクワクしたっていうか、なんていうか、いつか私もそっちで出て見たいなーとかすっごい思ったっていうか!!」
「お、おう……わかった、わかったから」
「っていうか、あんたのせいで、あんたのせいで……もうお金もあんまりないしパトリシア様には破門言い渡されるし、あれから本当に転落人生で明日のご飯も、無差別クラスのチケット代もないのよー!!」
「ええ……俺のせい?」
「ふぐ、ぐすっ……」
ラパトーラはなぜか泣き出した。
「あんたに負けて、屋敷取られて、パトリシア様と二人で双極様のところへ身を寄せてからというものの……なんだかパトリシア様が冷たくして……そして、少し前に……新しい弟子をとるからもういらないって……破門……ぐしゅ……えっぐ、破門されたぁ……」
「…………」
ど、どうしよう。
泣かしてしまったのか?
破門の件は仕方ないけど、チケットにお金使ってるからお金ないんじゃないの?
いや、そもそも俺のせいにするのはおかしくない?
だって、
「だって勝負だし……?」
「……ふぐぅうううう!!!」
ラパトーラはローブを噛み締めてさらに声にならない声を出して、強烈な表情で泣き始めた。
これにはせっかく整っている顔も台無しである。
「………………責任」
なぬ?
しばらく泣いて疲れたラパトーラがポツリと呟いた。
「責任、取ってよね」
はあ?
「意味がわからん。自己責任だろ」
「はあ!? だいたい全部あんたが勝ったのが悪いんじゃないの! せっかく青春を犠牲に努力して、良い魔法学校を首席で卒業して、映えある四元素の魔法使いであるパトリシア様の弟子になったっていうのに! あんたが、あんたが出てきてから私の出世街道は真っ暗よ! アラドの都市の大きな屋敷で優雅に暮らしてたのも奪っちゃうし! 今は真逆の日銭すら危ない生活よ! 学資の借金も返していかなきゃいけないのにいいい!! うわあああん!!」
なんだか、俺に負けてから散々な思いをしてきたようだ。
そういえば、彼女の持っている装備は質は良さげだけども、なんだか少しガタがきてボロボロになってしまっていることに気づいた。
王都で再会してから、ここまでくる道中に散々隣を歩いていながらも気づかなかった。
まあそれくらい興味ない奴だったってことなんだけど。
それでも、彼女の話を聞いていると、なんだかかわいそうに思えてきた。
破門の詳しい理由はわからないが、彼女は切羽詰まっている。
昔戦ったよしみとして、金稼ぎの面倒は見てやらんでもない。
というか、王都を拠点においた今、生産組とか周りに顔見知りのプレイヤーがいる状況で「責任責任」と喚かれた日には、即日拠点替えをしなければいけない気がしてきた。
ツクヨイとか、すげぇ色々言ってきそうだし……。
うわぁ、めんどうくさい、めんどうくさい。
「戦いの世界は自己責任なので責任は取らないけど、立ち直る支援はしてやる」
「え?」
適当に金をやっても、なんだか集られ損で嫌だから、とりあえず狩りで得た素材とかは多めにあげれば良いだろう。
「狩って解体すればお金にはなる。知り合いの商人に少しでも色をつけておくように頼んでおくから、嘆くよりも先に状況を受け入れてなんとかするように努力しろよ」
「……あんた……思ったよりも良い奴なのね? てっきり悪魔みたいなやつかと思ってたけど……」
うるさっ。
なんか知らないプレイヤーに魔王とか邪神とかたまに言われて、地味に気にしてるんだけど。
まあ、それはおいといて。
今回の依頼は調査。
さらに、まだ誰かが入ったような形跡は見当たらない自然迷宮。
実入りはいいはずだ。
初期の段階から俺は知っている。
狩場で荒稼ぎ知識として。
人があまり立ち入ってない場所は、相応に実入りがいい。
それは南の森が過疎だった時の薬草の群生地帯とか、そんな感じだ。
「泣き止め」
「うん」
「先に進むぞ?」
「うん、うん」
「今までの地位に戻れるかと言われれば、無理だけど。とりあえずなんとかなるまで面倒見てやるから」
「うん、うん、うん」
もはや頷くだけになったラパトーラを連れて、俺はダンジョンの奥をさらに目指したのだった。
人が立ち入らない場所って、それ相応の理由があって立ち入らないわけなんですが……。
ローレントさんはその辺をわかっているのか、謎です。実に謎。




