-526-※※※ツクヨイ視点※※※
□その頃の王都/カシミスイーツ/ツクヨイ
「……ローレントさん、遅いですね」
「いーんです!」
心配そうにするハリスさんの言葉を区切って、私は食後の冷たくて甘いココアをストローで一気に飲んだ。
食べ物の恨みは深いって言うけど、なんだろう、それ以外にもムカムカしたのは確かだった。
「もう少し色々とお話したかったんですが……」
その言葉を聞いて、ため息が出る。
あの天然ジゴロ戦闘狂、また一つフラグを無意識で立てていたのだろうか。
「……あの、それってつまり……ハリスさん……」
ジト目で見つめるとハリスは急に顔を赤くして首をブンブンを降り始めた。
「い、いやその! 違います! そういう色恋沙汰じゃないんです!」
「じゃー、なんですか?」
否定しつつも実は狙っている。
という状況は、過去類を見ないくらい遭遇してきたから私には通じないのだ。
あの戦闘狂のバカ兄弟子は、何やら闘技大会前にミアンさんまでこなをかけたとかなんとか。
本当にそれが正しいのかはわからないけど、とりあえず警戒しておくことに越したことはない。
「その……よかったら私がマネジメントを務めて、闘士としてデビューして見てはどうかなって話をしたかったんです。それに私は彼一筋ですし……」
「ああ……」
今回の闘技大会は、前大会で争ったメンバーが誰一人として出場していなかった。
レベルが低くなったとか、そんなことを言うプレイヤーだっていたけれど、実際プレイヤーのレベルも上がってきているし、スキルの幅も広がっていて、私の見立てでは全然レベルが低いものではなかったと思う。
盛り上がりのある熱い戦いは、なかったけど。
さらに言えば、レベルは上がっているはずなのに、前大会優勝のバカ兄弟子は、それをいともたやすく瞬殺してしまったこと。
これがレベルが低いと言われる所以じゃないかなって、個人的には思う。
(前日のイベントで死に戻りさせられてイライラしてたのもあるかもしれませんけどね……、いやイライラしてましたね。それを思いっきり今大会優勝者にぶつけた節があります……ああ、かわいそうです)
でもそれ以前に、ハリスさんの言葉でやや気になったことが。
「……っていうか彼一筋って……もしかしてデュアルさんですか?」
当たってるかはわからないけど、とりあえずぶっ込んで見た。
むふふ、こう言う女子トークがしたかったんです!
ハリスさんって変に真面目なところがあるから。
「ふぇ!? はあ? い、いやいやいやいや!! な、ななな何言ってるんですかツクヨイさん!? わ、わわわ私がデュアルさんをって! った、たたたただの闘士とマネジメントの関係ですよ!?!?」
「わっかりやすぅい……」
さっきよりも大きく取り乱したハリスさんは、顔をぎゅっと顰めて私と一緒の冷たくて甘いココアをズズズーっと飲み干していた。
なんかかわいい。
「ハー、ハー、ハー……もう、いきなりそんなこと言うのはなしです! ここは奢りませんよ!」
「そ、そんなあ! まあ、言われなくても奢られるつもりはありませんでしたけど」
錬金術師は稼げる職業なのです。
バカ兄弟子が素材だけは大量に確保して来たので、それを加工してニシトモさんに渡すだけで、なんだか知らないですけどたんまりとお金をもらえるのです。
はあ、現実でもこんなに簡単にお金が稼げればいいんですけど。
ともあれ、奢り奢られの関係がなくなった今、私の優位性は変わらない。
「むしろ奢りますから根掘り葉掘り聞かせてください!」
「なっ!? そそそ、そんな話すことなんでないです!」
「えー? ありやがるでしょう?」
「ないですってば!」
「じゃー、もしデュアルさんがハリスさんのことを実は好きだったら?」
そう告げた瞬間、目の前でボッと音がした。
ハリスさんから湯気が出ていた。
「そ、それはもう……住む世界が違いますし……闘士とマネジメントの恋愛って、結構障害が多いですし……だったらいいな、なんて思ったことはありますけど……」
「語るに落ちてますですね……」
「……そもそも、デュアルさんこっち見てないって言うかなんて言うか」
「ああ……確かに、殺気ムンムンですもんね」
バカ兄弟子の本気モードほどではないが、ハリスさんがお熱のデュアルさんはとんでもない殺気を放っていたことを思い出す。
殺気がわかってしまうって……なんだか私も向こうの達人沼に少しづつ足を踏み入れていそうでやや怖いんだけど、この際その辺は置いておく。
ゲームの中だからね。
少しだけ感じるようになった殺気だけど、バカ兄弟子と比べて、デュアルさんのは随分と余裕がなさそうに思えた。
ハリスさんが感じ取っているかどうかはわからないけど、きっと何か理由があるんだろう。
とりあえず言えることは、
「お互い、苦労しますよね……戦闘狂にほの字なんて」
「え!? まさかツクヨイさんもデュアルさんに!? だ、だめー!!」
「んなわけないですってば!! 何言ってやがりますか!!」
今わかった、ハリスさんってこう言う色恋沙汰にすっごく鈍感なのかも。
これ、誰かが後押ししたりしなかったらデュアルさんに想いを告げることすらできなそうに思えた。
「……ああ、やっと理解できましたツクヨイさん。そうなんですね、意外ですね」
「……もはやあんまり隠してないんですけど、やっと気づいたんですね」
ちなみに本当はもっとなんか純愛みたいな、狩場で待ち合わせたり、街で待ち合わせたりと一緒にゲームをプレイしたいのが本音である。
そして私はそう言うことに対して結構奥手だったと言うか、あまり自分を出せないタイプだったような気がするのだが、周りが周りだからこうせざるを得なくなった。
(第一周りも周りでおかしいんです。なんなんですかね。みんな無駄に積極的ですし……それにまったく気づかないバカ兄弟子もバカ兄弟子ですけど!!! ああなんかイライラして来やがりました!)
おかわりのココアをもう一杯頼んだところで、閃いた。
「そうだハリスさん」
「はい?」
「バカ兄弟子にマネジメントの件、私から言っておきますよ? 多分すぐに食いつくと思います。不本意ですが」
「え? そうなんですか! 嬉しいです! って、……不本意?」
「いえ、こっちの話です!」
闘技場なんて魅惑の遊び場を見つけたら、多分もう引きこもって出てこなくなる。
そんな気がするから、あまり近寄らせたくなかったのが本音。
でも生産組も王都へ流れて来て、遠い街で二人きりっていうアドバンテージがなくなった今、むしろ生産組のみんなを使ってあの人を闘技場からおびき出すと言う選択肢も取れる。
うん、それで行こう。
っていうかハリスさんがマネジメントを担当してくれれば、私も闘技場で二人っきりというシチュエーションを構築することができるんじゃないだろうか!
(いや、これが最適解です! ぐふ、ぐふふふ、ぬふふふさすがぶらっくぷれいやぁ、甘いものを補給して頭がさえてますですことよぉ……ぐふふふ」
「え、なんか怖いですツクヨイさん。あと欲望が漏れてますよ」
「ふぁ、失礼しました」
涎をハンカチで拭って改めてハリスさんの手を取る。
私、決めました。
「ハリスさん!」
「は、はい?」
「同盟を組みましょう。ダブル闘士ゲッツ同盟です!」
「うーん語感がわかりませんが、とりあえずローレントさんが出てくれるなら、デュアルさんも張り合いが取れますし、私も好成績を残せそうなので……いいでしょう、組みましょう!」
「ぐふふ、うちのバカ兄弟子とデュアルさんを友達にして、なし崩し的に王都ダブルデート計画です! がんばりましょうハリスさん!」
「え!? ええ!? だ、ダブルデート!? ……むむむ、マネジメントとしてそれはどうかと思いますけど……わ、わかりました、ぜひ手ほどきと作戦立案をお願いします」
第二弾アップデートで各地へ自由に行ける交通機関がて来たものの、王都は依然としてレベル70以下を弾く。
そして闘士はなんだかんだまだ敷居が高く、十傑に入るためには最低でもレベルが100は必要になってくる今、プレイヤーの数はそんなにいない。
さらに生産組はそこに関して興味なし、十八豪さんと十六夜さんはなんだかんだ乱入して来そうな予感がしますが、今回ハリスさんを味方につけてマネジメント特権を行使できる。
(これは、かつる。今回ばかりは私がもらいますからね!)
そんな想いを胸に秘めて、そろそろバカ兄弟子が帰ってくる頃合いでもいいはずなんだけど、まだ姿は見えない。
「それにしても遅いですね……」
「こんのバカ兄弟子め、いたいけでかわいいれでぃを待ちぼうけさせるとは何事でやがりますか!」
私とハリスさんは、どこをほっつき歩いているのかも知らないバカ兄弟子を探すために、会計を済ませてカシミを出ることにした。
動き出す、ツクヨイ。
なにやら良からぬことを企てる者なり。
GSO2巻でツクヨイちゃん登場です。
表紙ではないですが裏表紙と、挿絵にそこそこ登場しています。
顔を赤らめたりしてね。
あとは大抵バトルか、おばか騒動の挿絵ばっかりですが。
活動報告やツイッターにて挿絵公開されてます。
ぜひご覧くださいまし。
(確かモーメントでツギクル公式さんがまとめてくれていたはず)




