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 フルバフつけたスプーンは、剣をも凌駕する。

 VR史に残る格言ではないか。


「な……な……何もんだてめぇ!!!」


 顔を真っ赤にしたガンスは、ようやくスプーンのタネを理解した。

 腐っても、下位でも、ランカーなのは伊達ではないということか。


「魔法ぉぉおお!? だがそれで俺の一撃をスプーンで受けれるわけ……」


「──受けれるわよ? あいつならね」


「──グッハァッ!?」


 スプーンとのつばぜり合いみたいなものをしていたガンスが、そのゴツくて凶悪な横っ面に大量の魔弾を浴びて激しくきりもみ回転しながら吹っ飛んだ。


 なんだ、次から次に。

 カレーを食べながら視線を向けると、なんだか身に覚えのある顔つきの女が立っていた。

 誰だっけな……、なんて思いながらカレーを食べると。


「忘れたとは言わせないわよ! つーかカレー食べんな!」


 と、火球の魔弾を飛ばされた。

 その魔弾をパシッと手甲で掻き消して、改めて鑑定で確かめてみると、ラパトーラだった。


 黄色いインナー姿しか記憶に残ってないからなあ……。

 黄色い髪の天然ウェーブカット女だって今度から覚えておこう。


「食事の邪魔するな、戦争になるぞ」


「さらっと私の魔弾をかき消さないでよ!」


「うるさいな」


「はあ!? 元を言えばあんたがいつまで立っても来ないからこうしてこっちから出向いてやったってことじゃないの! なんなのもう! だから無視して食べるなあああ!」


 ああ、確かそんなこともあったような。

 なかったような。


 このラパトーラという女。

 スティーブンの同僚的な存在である四元素の魔法使いパトリシアの弟子的な存在なのである。

 連続的な魔弾攻撃を得意としているが、彼女の持ち味が発揮される前に叩き潰した。

 そして彼女たちが住んでいたアラドの屋敷をぶんどって、そのまま即売っぱらってコロコロ転がして信用度の100ポイントにロンダリングした。


「あの時は助かったよ、うん」


「なんの話よ!?」


 昔あった時は68レベルくらいだったが、今回はレベル90と彼女もそれなりに成長しているようだ。

 それでも王都のデュアル対十傑戦で見たレベル帯からは随分と低く思える。

 まあ、俺もまだまだ到底挑戦したり得ないレベルであるけど……。


 とりあえず、


「今忙しいからまた今度にしてくれ」


「そんなのさっさと食べ切っちゃいなさいよ……って何杯目よあんた!?」


「おいおい、あの姉ちゃん今頃気付いたのか?」


「すでに20枚以上皿積まれてるってのに?」


「逆にとんでもねえな。空気読めないだろ」


 うむ、周りの意見に同意。

 空気読めよな。


「俺は今大食いカレーチャレンジで忙しいから」


 カレーチャレンジにて、到底追い抜くことが不可能な記録を打ち立てるのが先決なのだ。

 それが終わって、さらに食後のデザートタイムが終わったら改めて相手してやる。


「…………はいはい」


 ようやく周りで見ている野次馬たちが、ガンスと俺の小競り合いを見物していた訳ではなく、普通に大食いチャレンジを見に来ていたと気づいたラパトーラは、腕を組み口をへの字に曲げて大人しくなった。




「ごちそうさまでした」


 礼は欠かさない。

 食事にも、死闘を演じてくれた相手にもな。

 手を合わせると、ケーキ屋、ステーキ屋、カレー屋、ホットドッグ屋は目に涙をためて喜んでくれた。


「いいってことよ! おかげでいろんな人が店に来てくれたからな! これからもホールケーキ専門屋台で頑張るぜ!」


「おうよ! 俺なんかステーキよりも販売用の特製ソースが売れちまって、むしろソース専門店だぜ! でも、いろんな人が来てくれたからこれからソース専門店だぜ!」


「兄ちゃんの打ち立てた20分でカレー45皿は、二度と破られないと思うぜ! ありがとよ! 俺はカレーっつーもんを知ってもらえたらよかったから、ケーキ屋とかステーキ屋みたいな誓いとか方向性はないけどよ! 兄ちゃんの打ち立てた記録を誇りに営業続けていくぜ!」


「お前らバカだろ。屋台でホールケーキ専門店なんかやってんじゃねーよ。そしてソース専門店とかお前なめてんのか。あと大食い記録の誇りとかそんなんいいから味に誇りを持ってもっと種類増やしゃお前のカレー普通にいいだろうが……おっと兄ちゃん、俺はこのままホットドッグ道を極めさせてもらうぜ? 今日はありがとよ」


「「「なんだよホットドッグ道って、大道芸だろてめぇのは。ってか何お前が仕切ってんだ殺すぞ!」」」


 そんな彼ら四人に、


「……バカしかいないの?」


 と、ラパトーラは辟易とした表情でつぶやいていた。


「否定はしない」


 バカばっかりだが、なんだかんだ食べたものは美味しかったので、人目に触れれば口コミでどんどん広まって、名物的な感じになっていくだろう。


 彼ら四人の掛け合いと、それを周りで見て、食べて、笑っている人々。

 そんな様子を見てそう思った。


「ケーキまで散々食い散らかして……ほんとお下品ね……」


「うまかったぞ?」


「甘いものそこまで好きじゃないの……見てるだけで胃がもたれてきちゃった……」


 少し顔を青くして口元を手で覆うラパトーラに尋ねる。


「っていうかお前、何しに来た」


「そうだ! おのれローレント! ちょっと付き合いなさいよ!」


「断る」


「即答!?」


「当たり前だ。まずは、要件を言え」


 少し時間をおいてツクヨイとハリスのいるスイーツ店カシミへと戻らなければいけない。

 だからどこぞに付き合えと言われて、そのまま長い時間拘束されるのは困るのだ。

 ツクヨイに怒られたら、下手すれば生産組の女衆に流布拡散され、飯を食べに行ったサイゼミアンで、サイゼやミアンに、女の子を待たせて他の女の子とどこかにいくなんて、そういうことはしちゃダメですよ。

 とか、わけのわかんことを永遠と言われるに違いない。

 飯が静かに食えなくなる。


 っていうか、要件言わない奴はなんなんだろうな。

 説明が大事なのにな。

 下手なサプライズは上級呪いでもある。

 サプライズをかけたものや、かけられたもの。

 そして巻き込まれたものに、伝染する呪い。


「まず要件を話してそれから事情も話せ」


「……なんなの? 変なところで理性的ね。戦った時はえぐいくらいキモくて怖かったのに……」


 そうぼやきながら、ラパトーラはため息をつきつつ言葉を続ける。


「まあただの狩りよ、狩り。ちょっと今から王都を出て狩りに向かうんだけど、付き合いなさいよ」


 事情が変わった。









久々登場のラパトーラちゃん。

ローレントとの初邂逅、そして即ひん剥かれ、そして敗北してしまった回は【202話】となっております。





さらにGSO2巻発売中定期です〜。

ってことで颯爽とあとがき小話。



要件よりも先にいつ空いてるか。と聞いてくる人っていますよね。

で、空いてると答えると問答無用で「あいてるならいいっしょ?」の空気を出してくる人。


あと、要件も伝えず「話がある」のパターン。

変になんか言われるのかな?と不安になっていると、だいたいどうでもいい話だったりしますよね。





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