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「今回はルビーがテイムクリスタル行きだ」
「ピィ……」
さて、王都へ向かったわけだが、先んじてモンスターたちをなんとかせねばならない。
人の往来が激しい道では、こうやってぞろぞろ従えておくのはまずい。
だったら一体だけ入るテイムクリスタルに誰を入れて、あとを預けておくしかないのだが、いっつもノーチェばっかりテイムクリスタル入りしているから、今回はルビーを入れることにした。
「ピィピィキィー」
なんだかすごく嫌がっている。
だが、ここは断腸の思いで、収容する。
「いつも好きにさせてる分、たまには大人しくしてろ」
誰かに任せておけるならトモガラあたりにでも勝手についていけば俺にも経験値が入る。
だがここ三日、トモガラの姿が見えない。
ログインしているのは確認できているから、何かしらの活動をしているのだろう。
何かあればひょっこり顔を出すか。
「ブルルッ」
テイムクリスタルにルビーが入るのを見届けたノーチェはどことなく誇らしげだ。
たまには草原を大いにかけさせたいところだが、今回は俺とツクヨイで二人乗りして街中を歩こう。
これほどの名馬は珍しく、王都にいるNPCやプレイヤーからの視線を感じる。
あれ、なんかプレイヤー多くないかなって思ったのだが、第二弾アップデートで王都の存在が知れ渡ったんだ。
テージシティから陸路もしくは空路を使って農耕都市アラドを経由してレベル制限を超えたプレイヤーならば王都へ来ることができる。
その他にも、湿地帯の先にある砂漠の都市「ヴィズラド」
地中海のほとりに立つ「ベネリオ」
例の魔人の都市「メトログリード」
この五つが情報開示され、新たに行けるようになった都市なのである。
基本的にテンバータウンからはずっと北のほうに連なる国々でもあるな。
テンバータウンからやや北西、西の平原の先にある大森林の、そのまた先にあると言われているメトログリードのみ、陸路ではなくテージシティからの空路しかない。
このメトログリード。
裏ギルドが居座って、曰く付きのプレイヤーしか受け入れていないかと思えば、別にそうではないらしい。
レッドネームとかPKとかの垣根がぶち壊された今、メトログリードは魔人が自治する都市として運営側から公式HPを利用してプレイヤーに知らされていた。
こちらの世界のNPCは敵だと騒ぎそうだが、別に騒ぐこともなく。
かと言って受け入れられたかと言えばそうではない、そんな立ち位置だった。
そこへ向かってみたプレイヤーの情報を確認するに、どうも魔人以外のNPCが全くいないというわけではないらしい。
いったいこのゲームでの魔人がどういう立ち位置なのか、いまいちわからんのだが、メトログリードは眠らない夜の歓楽街の様な都市で、王都よりもカジノやらあまりよろしくないお店などがたくさんあるとのことだった。
裏ギルドとの関係性は、お察しだな。
「あの、馬で歩くのは迷惑では……?」
王都の大通りをノーチェに乗って進んでいると、後ろに乗ったツクヨイが少し恥かし申し訳なさそうな表情をしていた。
「つらだって歩いてる方が幅を取ると思うぞ」
それにあれだ、ノーチェが体格のいい名馬過ぎて変なのが寄ってこない。
以前スリを働く奴がいたから、多少は警戒して進まないとな。
NPCがみんないいやつかと思ったらそれは大間違いだし。
「軍人……?」
「騎士とも違うし……どこの国の人だろう?」
「あの黒馬、立派だなあ」
「あの狼かっこいい〜、テイムモンスターなんだ〜」
……思ったより目立ってるな。
フード、被っておくか。
「カシミスイーツは向こうですよ、ハリスさんとも待ち合わせをしてます!」
「うむ」
しっかり美味しかった王都の有名店。
だが、レイラとミアンが揃ってこっちでの出店を計画しているようなので、カシミよりもサイゼミアン王都店が今後の溜まり場として使いそうではある。
量が多いしな。
もう一回言うぞ、量が多いからな。
甘いものは嫌いではないが、シャレオツな小さいのはとでもじゃないが腹が膨れん。
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「……テイムモンスターはこちらへ」
カシミへつくと、当然ながらローヴォとノーチェは別所に預かってもらうことになる。
ローヴォとノーチェは少しつまらなそうな顔をしながらも従ってくれた。
すまんな、今度たらふく食べさせてやる。
「寂しそうにしてましたね……ローヴォちゃんとノーチェちゃん……」
「まあ、最近一緒に狩りに出ることが少なかったからなあ」
「いや、狩りに出ると言うより、もう少し構ってあげたほうがいいんじゃないです?」
「だから小屋で組手してたのに」
「あれは構うじゃなくていじめ!」
……俺も本気を出さないと、あいつらには負ける可能性があるんだけどなあ。
ローヴォなんか、幼体の時から一緒に冒険してる仲間である。
もはや歴戦レベルになっていて、並みのプレイヤーなら一人で相手とれるレベルだ。
ノーチェは名馬ゆえにかなりの力を保持してるし、ルビーはそもそもテージシティの草原で恐れられていたボスクラスの魔物である。
「むしろ俺がいじめられていたと言っても過言ではない」
「はいはい、とりあえず中に入りましょう。あ、ハリスという名前で先に入られてる方がいると思います」
「かしこまりました、ご案内します」
店の人に案内された席には眼鏡をかけたちんちくりんのハリスがいた。
「あ、ハリスさーん!」
「ツクヨイさん!」
ツクヨイが手を振りながら俺の袖を引っ張って席に駆けていく。
「ローレントさんも、また王都に来ていただいてありがとうございます」
「む?」
こんなにかしこまる人だったかな?
なんだか普段はシクシク、そして決闘の時はピリピリしていた印象だ。
地味に最後に会ってからそこまで日が経ってないからな。
「噂は予々。実は、南方の地域行われた闘技大会をこっそり見に行ってました」
「おお」
「え、来てたんなら言ってくださいよー!」
「ツクヨイさんたち、声をかける前にすぐいなくなっちゃったので」
「ああー、確かに。身内の出場が、エキシビションだけだったので……終わってすぐに闘技場でちゃったんですよねえ……」
そしてテンバータウン西の農地にある店にて、王都へいざ行かんパーティーが行われたのである。
まあ、ハリスも声をかけようとしたのだが、あの面子は一部の見てくれが強烈なのでなかなか声もかけづらいってもんだろう。
「その時の面子で王都に来てますので、今度紹介しますっ!」
「あ、ああ、はい、よろしくおねがいします。とりあえず注文をしましょうか」
「はいー! どれにしよっかなあ!」
やや気圧されながらもハリスはメニューをツクヨイに渡す。
そして注文をして、頼んだものはすぐに運ばれて来た。
「ほわー!」
皿にオシャレに盛られた小さいスイーツにツクヨイは目を輝かせている。
……タルトでいいのか?
それともケーキか?
わからん、なんでカラフルなソースがさらに散りばめられてるんだ?
上からぶっかけてしまえばいいのに?
でもクッキーみたいなのサクサクして美味しい。
「前回優勝者のローレントさんの戦い、見せてもらいました」
ツクヨイにお任せして持って来てもらった甘味を一口で口に放り込んでいると、ハリスが話し始めた。
「圧倒的でしたね。南方の発展が進んでいて、人が集まっているとも噂に聞いていましたが、なかなかいいレベルの方が多数いらっしゃいました」
「闘士の青田買いにでも来ていたのか?」
「そうですね。王都の闘技場も、十傑の名前が広く知れ渡ってからあまり代わり映えしなくなりましたし……」
そう言いながらハリスはごくごく普通のイチゴのショートケーキの上に乗ったイチゴを口に頬張る。
「上の判断でもそろそろ味を変える何かが欲しいんでしょう」
「く、おれもそっちにすればよかったか」
甘味は和菓子も好きだが、やっぱりショートケーキがオーソドックスで好きだ。
ホールでかぶりつきたい気もして来た。
「……注文します?」
「うーむ」
大量に食べたいところだが、こういう気取ったところはそれを許してくれるのか。
ツクヨイにデリカシーがないとか小言を言われても面倒なのでしばしば考えていると、ハリスがフォークで一口分にカットしたショートケーキを俺に差し向けた。
「よかったらおすすわけです」
「ありがとう」
うむ、繊細な味よりも甘味の暴力もいいよな。
まあ、カシミってことでこのショートケーキもかなり手が込んでいるのだろうが、分厚くでかいスポンジにこれでもかってくらい生クリーム塗って食べたい。
「…………むー!」
ツクヨイがいきなり唸りだした。
「どうした?」
「はい!」
「……………………なに?」
「私のも食べやがりください!!!」
なんかクッキーでできた食べれる器にフルーツやらなんやらが盛り付けられた皿を向けられた。
「いいのか?」
「いいですから!」
「なら遠陵なく」
全部食った。
「──────なっ!? ああああああああああああ!!!」
「は?」
「は? じゃないですけど!!! なんで全部食べるんですか!!!」
「いや」
「いやじゃなくて!! なんで全部食べるんですか! 普通に一口でしょ? 一口でしょおおおお!?」
「いや、一口って……それどうやって一口食べればいいかわから──」
「もーーーーー!!!!!!!!!」
いよいよ明日発売




