-512-※※※幕間・農地を荒らす大鷹6※※※
幕間箸休め回はこれにて終了です。
「でっかい大鷹だべ!」
白目をむいて地に落ちたイーグルズは、そのまま落下の衝撃で息絶えていた。
羽を広げると4メートル弱、もはや鷲。
この巨体でかなりのスピードを持っているから、確かにブリアンが浮くわけだ。
猛禽類が亀を捕食する時、高所から落として殺し甲羅を砕くと聞く。
西の平原エリアはそんな猛禽類が空を舞っているから、わりかし危険なエリアなのかね。
まあ、イーグルズが例外ってだけで、ステップカイトは普通の人も持ち上げられないだろうけど。
「……とりあえず羽を毟りましょうか?」
ミアンが物騒なことを言っている。
食べるのか、こいつ。
「こんなおっきな鷹さ、食べきれるっかなぁ〜?」
二人でのほほんとした空気になっている。
だがそもそも鷹って食べられるのか?
肉食獣は基本的に美味しくないと聞くが、どうなんだろう。
熊は食べたことあるが、猟期が冬で、基本的に冬眠前にドングリを大量に食べてある種草食化しているから美味しいと聞く。
ミアンを連れ去った然り、このイーグルズはおそらくNPCとか肉を食っているのだろう。
うーむ。
なんと言ったらいいのやら。
すでにミアンによって羽をむしられ始めているイーグルズ。
猟師ではなく料理人も食材に当てはまるものであれば素材を丸のまま利用することができる。
それで行くと、イーグルズは食えなくもない、という魔物なのかな。
ええい、ままよ。
とりあえず食べてから美味いか不味いか吟味するのだ。
「バーベキューセット出しとくぞ」
俺はそう言ってストレージからバーベキューセットを転移させた。
「焼き鳥なら俺が専門だ。焼肉屋をしていたが、本領は焼き鳥やだ」
「あ、東遷さん! いっちょ調理をお願いしますね! したごしらえは済んでますので!」
「ええ!? もうイーグルズ倒しちまったのか!?」
「はええ〜、ブリアンが任せろって言ってたけど……まさかあのローレントが直々に討伐に来るなんて、さすがブリアン、俺たち農業プレイヤーの中で一番歴が長いだけあって人脈も色々とあるんだな〜!」
「んだあ、そげな褒めたって何にもでねぇべ!」
いつの間にか、水田の隣で焼き鳥会がスタートしていた。
ミアンが呼んだのだろうか、料理人プレイヤーの一人である東遷が姿を現してインナー姿に前掛けハチマキをして、俺の出したバーベキューグリルで炭をおこし焼き鳥を作り始めている。
「うおっしゃ! 俺は付け合わせの野菜持って来るぜ!」
「ならちょっと保存しておいた米取って来る! 炊いて焼き鳥丼にしようぜ!」
「それ好き! 焼き鳥丼好き! でもこの量だといろんな味じゃないと飽きちゃうから、畑からバジル取って来る!」
「ハッハッハ! 醸造まで行ってないが、とりあえず搾りたてのフルーツジュースならあるぜ!」
「バカヤロー! 麦茶にしろ!」
ブリアンに呼ばれた農業プレイヤー達がこぞって退治されたイーグルズを見に来て、そしてそれを食べるということで、一挙に野菜を取りに行った。
そしてすぐに戻ってきて、切り分けた野菜を焼き始める。
俺は追加でバーベキューセットを準備する係だ。
持っててよかったアポート。
「おーい! 石窯持ってきたぜ! ガハハハッ!」
荷車に石窯を乗せてイシマルがやってきた。
「なぜに石窯?」
バーベキューにしては、凝りすぎじゃないか?
そうたずねると、
「ミアンがピザ焼きたいって言ってたからな」
「てへっ」
てへっ、じゃないが。
そもそも味が想像つかん魔物にどれだけ本気を出してるんだか。
だが、なんだろう。
懐かしいな、これ。
「他のみんなは?」
「ああ、レイラ達は裏ギルドとどう戦うかまだ話し合ってるみたいだぜ! まあ、俺は頭を使うより体を動かす方が好きだからな、デケェ鳥倒したんだろ? 俺にも食わせろ! ガハハッ!」
「相変わらずだな」
殺伐としてるのはもめている俺たちだけで、他のプレイヤーとはこうも温度差があるのか。
ここにいる連中は、なんのヒントもなかった状況から自分らで楽しみを見出してプレイし続けていたプレイヤーばっかりだから、なんというか芯が強い。
第一拠点が奪われたと言っても、そこはただの身の置き場にしか過ぎず、別の場所に行ってもたくましく活動を続けていきそうだよな。
「小麦粉よー! コネロコネロー!」
「野菜だぜ! 俺の作ったピーマンな、食べてみ? 普通にそのまま焼いてもうまいんだぜ!」
「果物絞るぞー! わああ、みずみずしいったらありゃしない! のめのめー!」
逆に恐ろしいほど盛り上がる農家達。
そんな中東遷がドンッとツボをおいた。
「は!? 東遷さん、そのマル秘と書いたツボは!?」
「貴重だが俺がずっと隠し持っていた魚醤をアレンジして作ったタレを解放してやる!」
「うおおおおああああーーーーー!! 東遷さんのタレだー! マル秘だー!」
キャラ崩壊してるぞ、ミアン。
御察しの通り、ここまで来ると生産職プレイヤーはもう止まらない。
第一生産組の連中が、なんの指示がなくてもバーベキュー会場を設営して見せたように、テンバータウンの食糧生産を一手に引き受ける農業プレイヤー達は、さらにその数段上をいく自分の生産した格別な素材、そして調味料を持ち寄って、かなり質の高い焼き鳥会を開いてしまった。
そしてイーグルズを倒したということで、真っ先に作られた料理を食べた感想。
「……う、うまい……めちゃくちゃ……うまい……ッッ!!」
「ワォンワォン!!!」
「ブルルルッ!!!」
ローヴォもノーチェも、盛られた料理にかじりついている。
特にローヴォなんか、俺と一緒にたらふく飯を食べた後のはずだ。
だが、鼻をくすぐるタレの香ばしい香り。
これは減る、減るぞ、腹が。
っていうか、不味いわけねぇ!!!
秘密はタレか?
バジルの味付けか?
いや、素材の味もいいのだろう。
「おおおお! こらぁぶったまげるくらいうまいっぺぇ!」
「おお、大味かと思っていましたが、かなり濃厚で東遷さんのタレと口の中で戦っている味がします!」
ブリアンとミアンの感想。
ほうほう、ミアンの感想を耳にした俺ももう一口東遷の作った焼き鳥を味わう。
うむ、イーグルズの鳥のくせに濃厚な素材の味。
それが口の中で東遷のタレと戦って、そして最後は手を取り合って健闘を讃えている。
と言えばいいのだろうか。
「なるほど、料理人もなかなかやるな」
このタレがあれば、俺も再びスティーブンの家の厨房に立たせてもらうことができるのか。
ちなみに今だに厨房禁止令が出されている。
「そうさローレント。お前達は外で戦っているが、俺たちはお前達が持ってきた食材で戦う。それが料理人の宿命なんだぜ?」
「ほう」
素晴らしい。
そうして錬磨し、この味が出来上がるのだ。
「料理か……ふむふむ、料理か……」
一人で唸っていると、ローヴォがやめろと言わんばかりに尻尾で後頭部を小突いてきた。
なんだよ、もし長時間ログインして山越えとか遠くに行く時、絶対にこういう調理スキルは必要になって来るだろうに。
そう、山に生えてるものを使った即席料理。
「あのなローヴォ、これでも修行で生き残ってきたんだぞ? 食べ物もない時だって何度もあった、それでも俺は生き残ってきたから、即席料理スキルは負けん」
「グルルルル」
なんで唸る。
ムカデ、セミ、その他芋虫。
食べなきゃ死ぬんだったら食べるだろうに。
自然の恵みは、全て武術家の薬膳だ。
「いずれ山籠りした時にお前にもまた食べさせてやる」
「クゥン……」
「あ、おい」
ミアンの元に逃げて泣きついていた。
「ローレントさん、他の方から話は聞いていますが、調理にはそれぞれ適切な調理法があるんです! それを知らないうちに料理をしても、それは自分の身を殺すだけですから絶対にやめてくださいね!」
「う、うむ……」
熟練してない剣士は、自らの剣で足を斬るという。
それと同じことか。
なんとなく理解できた。
調理を修行するの一旦止めておこう。
でもバッタとか一回食べればエビなんだけどなあ……。
次回より、再び掲示板回。
そのあとに、本編です。




