-510-※※※幕間・農地を荒らす大鷹4※※※
「こっちだ、ローレンドさ!」
広い農地を案内されて、一番奥に広がっていたもの。
それは、水田だった。
「すごいな」
稲穂がいい具合に実ってこうべを垂れている。
「わああ、お米ですか!」
水田の光景を見たミアンは、両手を握りしめて目を輝かせていた。
こう言うところがややサイゼと似ているな。
「んだんだ、これの半分を種籾にしてもう少し水田を大きくするだよ」
やや誇らしげに胸を張るブリアンに気になることを聞いてみる。
「この水田はどうなってるんだ?」
テンバータウンの東側には大きな川が流れていることは誰でも知っているが、西側には平原やら草原がただっぴろく広がっているだけで、水田の水を確保するほどの水量は得られんはずだ。
分岐した水路とか地下水でもあるのかと思ったが、南の森に西側へと分岐する水路らしきものがないのは、散々狩りでかけずり回った俺が一番わかる。
まさか、地下水を井戸で汲み上げているとか?
それならばありえるが、水田の井戸を組み上げるとなると……結構重労働だな。
もしくは魔道具のポンプが売ってるとか?
うーん、と悩む俺に、ブリアンが単純明快な答えを教えてくれる。
「水魔法スキルだべ」
「なるほど……」
盲点だった。
魔法スキルは便利だな……。
「それにしても、この規模の水田に水を張るとしても、結構高いレベルの水属性魔法職の方がいないと厳しいんじゃないですか?」
「おら、職業自体は近接向けの職だけんど、一応土魔法も水魔法も持っとるんだ。毎日水やり土いじりをしてれば、スキルポイント制じゃなくなった今、少しずつだけんど、それなりに魔法スキルも使えるようになるんだべ」
うむ、ブリアンの言う通り。
第二弾アップデートで、スキルポイント制から水魔法とボーナスパラメーター制に切り替わった利点として、生産スキル以外のスキルが、スキルポイントの書もしくはレベルアップでしか熟練できないというデメリットが取っ払われた。
賛否両論はいろいろあるが、スキルレベルアップの制限を気にしなければ、誰でもどんなスキルでも取れると、こう言う形である。
「つっても、まだまだおっつかなくて、十八豪さんに手伝って貰ったんだべ」
「なるほどー! 十八豪さんって一応水属性魔法職プレイヤーの中ではトップクラスですもんね!」
「あれ?」
ブリアンとミアンの会話を聞いていて、再び疑問が。
「スキルで出した自然物ってゆくゆくは消えないか?」
そう、火属性魔法スキルを森の中で発動させても大火事にならない理由然り、水魔法スキルだって、使って一旦はビチョビチョになるけど、すぐに消えてしまうのだ。
スキルが直接当たった場所以外に拡散しない、安心設計なのである。
「定期的に来てもらって水の補充してもらってるんだべ」
「……あいつが? ……そんなにマメなやつだったっけな……」
「良い米が量産できたら、日本酒用にいくつか渡す約束してるんだべ」
「なるほど」
それが理由だったのか。
他にも、馬車を持ってるプレイヤーに頼んで、東の川から汲んだ水を持って来てもらいコツコツ貯水は行なっているらしい。
「日本酒ですか、良いですね。料理の幅が広がりそうですし、東遷さんの焼き鳥屋でもたまに欲しいって声があったみたいですし……ブリアンさん、私にもできることがあれば協力しますよ!」
「んだあ、ミアンちゃん。どーもありがとう! いっつも美味しい料理さ作ってくれてるだけでもすっごくありがたいのに、こんなことまで無理して手伝ってくれなくてもいいだよ?」
「持ちつ持たれつです! 真なる料理人は産地にもしっかりこだわるのです! ブリアンさんのところが降ろしてくれる食材はどれもとびきり美味しくて、今後ともよろしくお願いしますね」
「ともあれ米が量産されれば……丼が気軽に食べれるな」
日本人といえば丼だ。
特に俺は肉を豪快に乗せたもんが食べたい。
厳密にいえば、グツグツ煮込んだ牛肉を乗せた牛丼が食べたい。
「ワンワン!」
「ローヴォも米を食べたいか?」
「ワンワン!」
「そうかそうか」
絶対に食わせろと言っているようだった。
なかなかグルメに育ってらっしゃること。
「ローヴォちゃんもお米が食べたくて仕方ないみたいですね」
「んだあ、すっだらおらはもっと稲作に力を入れるだよ!」
「ちなみにどれくらいでできるんだ?」
古来より米は長い年月と農家の愛情をたっぷり注いで作られる。
米という字も然りだ、さもりなんだ。
だからぶっちゃけここまで育っているのに驚きを隠せない。
「うーん、水の維持もあるからわかんねけんど……すぐできるべ」
「農業スキルには農作物の成長促進がありますからね! ちなみに料理にもスキルレベルを上げることで熟成させたり色々なスキルがありますよ!」
なるほど。
それならばすぐにでも米が食べられそうだな。
期待が大いに膨らむ。
「だけんど……もっと水田を広げたいのは農業プレイヤーみんな願ってるだ……だけんど、イーグルズが邪魔してなかなか進まないんだべ……」
「イーグルズ?」
首をかしげるミアンに、俺がどうしてこの農地にやってきたかを説明する。
すると、ミアンは「げえっ」と表情を変えた。
「そんなボスちっくなモンスターと戦うためだったんですね……」
「他に何があるんだ?」
「いやあ……うーん……米どころの視察?」
「……」
「ミアンちゃん、すっだら怖がることはねえっぺ。イーグルズが出てくるのはこことは違う場所だべ。それに、こっちにはローレンドさがいるだよ。なーんも怖くねえ」
「確かにそうですね。ローレントさん、私は本当に戦闘はできませんので、何かあったらよろしくお願いします」
……勝手について来て何を言ってるんだ。
まあ、うまい飯も食わせてくれたし、二つ返事で返しておこう。
「了解」
「その代わり、いっぱい料理は持って来てますから! そうだ、なんなら水田見ながら何か軽いものでも食べますか? ピクニック気分ですピクニック!」
さっきまで大量に飯を食ったからお腹は空いていないのだが、ブリアンとノーチェがサイゼの持って来た定番のサンドイッチに興味を示しているので、休憩しつつイーグルズと戦う時のことでも作戦会議と行こう。
「じゃあ、早速リバーフロッグの革製防水シートを敷きますよ──」
そう言って、サイゼがアイテムボックスからシートを出してばさっと広げた時。
「む!?」
「んだ?」
巨大な鳥が高速で目の前を横切った。
「イーグルズか!? ブリアン!!」
「んだ? っておああああ!! あ、あれが、あれがイーグルズだべ!」
「くっ!」
想定していたより早い飛行速度だった。
大きくても鷹だもんな、甘かったか。
「ロ、ローレンドさ! ミ、ミアンちゃんが!!」
「わかってる!」
状況はさらに大変だぞ。
ミアンが鷲掴みにされて上空に連れて行かれた。
「──わあああああああああっっ!? た、高いところこわっ!! 怖い!! た、助けてええええ!!!!」
日本酒のためにマメに水田に通う十八豪。
そんな十八豪さんは、なんとGSO2巻の表紙を張ってます。
下の方に表示されている表紙の女性です。
そして表紙の裏にはツクヨイが描かれているのですが、お見せできなくて申し訳ないくらい、可愛く描いていただいてます。
また夜も更新します!




