-508-※※※幕間・農地を荒らす大鷹2※※※
あのブリアンでも、掴まれて持ち上げられるほどの大鷹。
なかなか想像がつかなかった。
彼女は、一部の農家プレイヤーとともにイーグルズの討伐を続けている。
だが、制空権を取られてどうしようもなく。
さらには、上空まで持ち上げられるほどの力ともあって、難航しているらしい。
高所から落とされればなすすべはない。
ブリアンの落下によるデスは、せっかく育て始めていたフルーツ農園をめちゃめちゃにしてしまったらしい。
かわいそうだな、素直にそう思った。
「ローレンドさ連れてきたら、農家のみんな喜ぶだべ」
プールエリアを出て、お互いがいつもの格好に戻り西の農地を目指す。
その折に、ブリアンに尋ねてみた。
「ブリアン、農地は重要な産業だから、レイラ達に言えばすぐに人手を集めてくれそうなもんだが?」
「おらはあんまり詳しくねぇんだけんど、みんな今すっごく忙しそうにしてるみたいだべ? 戦いとか、プレイヤーの揉め事は……おらあんまり好きでねぇ……」
悲しそうな表情を作ってブリアンは言葉を続ける。
「おらができることは美味しい野菜さ、いっぱい作ることだべ。まずいもんとか、みんな腹空かしてるから争いごとが生まれるだ。だからとびきりうめえ野菜さ育てて、おらはおらのやり方でみんなの笑顔とか、取られてしまった第一拠点を取り戻すだ」
そう語りながらニコっと笑顔になるブリアン。
初期の頃からブリアンは愛情たっぷりの野菜を提供してくれている。
信用度の危機に陥ったプレイヤーバッシング事件。
NPCとプレイヤーの間をずっとつなぎとめていてくれたのは彼女だ。
彼女がいたから、最悪の事態にならずに済んだとも言っていい。
これは畑を荒らすイーグルズとやらを確実に仕留めなければいけないな。
その風貌から色々と勘違いされやすい彼女だが、誰よりも優しくまっすぐとした心を持っている。
忌々しいPKめ。
第一拠点とテンバータウンを挟んで隣にある農地に手を出したら許さんぞ。
完膚なきまでにやっつけてやる。
「つっても、家の街だって無人販売から野菜とられるこたいっぱいあったべ。でも、腹空かしてるからとるのは仕方ないだべさ、そんな人たちにもおらは腹一杯にさせたらみんな笑顔になって仲良くなるだ」
「そうだな」
ブリアンの言葉に頷いて道を進み、西の農地へとたどり着いた。
「とりあえず納屋を広げて作った喫茶店があるから、そこで待っててくんろ」
サイゼミアンよりもカントリーチックに作られた建物に案内され、そのままブリアンは畑の方へと向かっていった。
農地も割と大きくなったもんだ。
第一拠点の壊れた桟橋より少し後に、地味にエリア開放されて拡大が続けられている農地。
麦の他に様々な作物が育てられ、農業プレイヤーや農業に従事するNPCが朗らかな表情で作業をしていた。
平和だ。
なんだろう、全ての喧騒を忘れてしまうような気持ちになる。
心が洗われるっていうの?
楽園は、ここにあったんだな。
とりあえず喫茶店に入ろう。
ブリアンは納屋が本体みたいなセリフを言っていたが、どう見ても喫茶店が本体だ。
からんからんと押し戸を開けるとベルが鳴る。
客がほとんどいない中。
「はーい」
というどこかで聞いたことある声とともに、
「あれ? ローレントさんいらっしゃいませ! 珍しいですね!」
なんとミアンがいつものウェイトレスの格好で姿を表した。
「む? なぜここに」
第一拠点が奪われた今、サイゼ達はプールサイドで屋台引っ張って営業してるはず。
「ふふ、臨時バイトのようなものです! 狩りをしないプレイヤーは、地道にグロウ稼いで食いつなぐのです!」
「なるほど」
狩ればいいのに、なんて思ったけど。
プレイスタイルは人それぞれかな。
このゲーム、最近わりかし狩るだけじゃなくて別の目的でゲーム始める人も多いから。
なんとなく見なくなった顔ぶれはいるけども、世に出ているVRゲーの中でもまた別格だからなあ。
新しく始めるプレイヤーってのもまだまだ多い。
「時間加速とかあれば、もっとこのほんわかした生活に浸って入られるんですけどね〜」
「学校か」
「そうです! 専門学生は時間を削ってゲームをするのです! っといっても……バイトで来たのはいいんですけど……お客さんがみんなプールエリアの方に行っちゃって……」
手持ち無沙汰だーと呟きながら、ミアンは俺の目の前に腰を下ろして、ローヴォをもふもふし始めた。
「サイゼの屋台は大繁盛してたから、そっちを手伝えばいいのに」
「それもいいんですけど、なんですかね……こういう日に限ってここを切り盛りしてるプレイヤーさん達が全員ログインできないらしく、さらにNPCの従業員も休暇だとかなんとかで……ローレントさんが来てくれて助かりました。とりあえずお客さんが十人くらい来た売り上げを稼げます!」
「……そうか、大変だなあ。とりあえずいつもので」
戦い前の腹ごなしをしよう。
ローヴォも何か食べたそうに息を荒くしているし、ミアンにいつものと言っていつも提供してもらっている牛ステーキを注文する。
「ふふふ、めったに料理を作らない私が今回は大盤振る舞いしちゃいますからね!」
ローヴォをひとしきりもふもふしたミアンは、パタパタとキッチンに入って行った。
サイゼミアンは厨房と客席が完全に分かれているが、ここの喫茶店は調理スペースがカウンターの目の前になっている。
ジュウジュウ。
熱した鉄板に西の平原で取れる牛肉が乗せられ香ばしい匂いを立てる。
思わず立ち上がって、俺とローヴォはカウンターの前に腰を下ろした。
「サイゼちゃんが基本調理担当で、私はサブと接客担当ですが、今回は特別に腕前を披露しますよ!」
「楽しみだ」
「付け合わせは超新鮮な野菜です! ローヴォちゃんには鉄板で焼く新鮮野菜のホットステーキサンドです!」
「ワンワン!!」
ローヴォが興奮しすぎだ。
尻尾振りすぎて俺の腕にバシバシ当たってる。
でもまあ……。
こうやって調理を見ながら楽しむのもいいね。
食材ドロップが大量にあった日は、ここを借りて俺自らみんなに振る舞うのもありかも知れん。
夜もたぶん更新します。




