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「……おはよう」


「がう」


 ログインしたら、ローヴォがいた。

 餌皿咥えて、ベッドに寝る俺の上に待機している。

 そう言えば食いっ逸れたサンドイッチが……。


「ぐるるる」


 怒られました。

 流石に、鑑定したら悪くなってました。


「作りますか、何か」


「ダメじゃ!」


「え、あ、はい」


 ドアを開けたスティーブンに怒鳴られた。

 俺が一体何をしたって言うんだ。

 今日も今日とて、いつもの公園でサンドイッチを購入して。

 このサンドイッチモンスターに与えるという事実は、覆らないのだ。


「なんじゃ物足りんのか」


「がう」


「多分サンドイッチが欲しいのかと」


「なんじゃ、そんなことか」


 スティーブンの作った薬膳料理のようなものを口に運ぶ。

 ローヴォの餌皿にも当然同じものが盛られているのだが、終始不服そうな表情をしていた。

 スティーブンは適当なパンに薬膳料理の一部を挟んでローヴォの皿に乗せた。

 違う違う、そうじゃ、そうじゃない。


「がぁう」


「……買って来い」


 丁度公園にサイゼもいたので、スティーブンにお小遣いを頂いて、ローヴォの分も買いに行くことにした。

 今日という今日は、精一杯甘やかしてやる。

 それからバトルゴリラだからな?


「おはようございます! わあ! ローヴォちゃん元気になったんですねぇ! よかったですねぇ! わしわし〜!」


「ぐるるる」


 サイゼがサンドイッチをローヴォに与えながら身体を思いっきりもふもふしていた。

 気持ち良さそうに横になってお腹を見せるローヴォ。

 駄犬モードだ。

 こいつも一日のデスペナルティで寂しかったんだろうな。

 今日は許しておく。


「あら、ローヴォじゃない。元気になったの」


 ローヴォを見守っていると、珍しく姿を表したのはセレクだ。


「ちょうど良かったわ、貴方の装備ばっかり良くなってもずるいかなって思って、この間色々ニシトモに流してた素材で作ってみたの」


 そう言いながら新しい首輪を付け替え始めるセレク。

 使ってる素材は、……虫の素材かな?



【合わせ翅の首輪】製作者:セレク

飛蝗、蜻蛉の翅を合わせて繋ぎ合わせた首輪。

軽く、跳躍力、空中機動にやや補正がかかる。

・耐久100/100



「レベルが上がる程の効果は無いけれど、少しは変わるはずよ」


「ありがとう」


 みんな、ローヴォに対して優しくしてくれて。

 俺も嬉しい限りである。

 しかしまた、高そうな装備だな。


「いくらだ」


「代金は良いわよ? 善意で作ったんだから。ね?」


「……」


「なんか空気がここだけ違います。私はローヴォちゃんと遊んでましょうかね」


 そんなことより、サンドイッチ生産工場しろ。

 流石にそれは悪いので、グロウは適当に払っといた。

 一万グロウくらい掴ませとけば足りるだろう。

 今までの分も含めてね。


 手持ちのグロウは?

 まだそこそこある様だった。

 伊達に一日中プレイしてるわけじゃないからな。

 虫の大量狩りでグロウもそこそこ回収できてるし。


 そして再びスティーブンの家に戻る。

 貸してもらった部屋でストレージのセットを確認していると、スティーブンが声をかけてくる。


「今日は何をするんじゃ?」


「え? 南の森の奥から山を登ろうかと」


「ほう、バトルゴリラか?」


 そのまま手招きされ、俺はスティーブンの後ろをついていく。

 連れて来られた部屋は工房。

 母屋の隣に作られているその場所は、煉瓦で出来ている。

 夏場は暑く、冬場は寒そうな感じのする無骨な部屋なのだが……。


「順番を覚えておくと良い」


 その剥き出しの煉瓦を、杖でコツコツと叩いて行くスティーブン。

 すいません、覚えきれませんでした。


「覚えました」


「うむ」


 とりあえず適当に頷いておく。

 ガコガコと音がして、煉瓦の配置が変わって行く。

 それは扉程の大きさ。

 どこへ通じているのかわからない、僅かに波打つ黒い皮膜の様だった。


 いや、どっちかって言うと。

 水槽に黒い水を入れた状態かな。

 スティーブンは躊躇無くそこへ入って行く。


「どうした、入ってこんか」


 闇の中から突き出された杖が俺の顔を殴るように向かってくる。

 慌てて躱すと、杖の持ち手の部分を襟首に引っ掛けられた。

 半強制的に、俺も闇の中へと連れて行かれるのである。

 底無し沼で溺れた時を思い出した。

 視界も無いし、息も出来ないし、身動きも取れない。

 でもそれは一瞬だけで。


「目を開けんか」


 恐る恐る目を開けると、小さな山小屋の中でした。

 小窓から外を覗くと、眼前に広がっていたのはいつもの荒野ではない。


「ここは南の山岳、お主がバトルゴリラに挑む前に、一つ手ほどきをしてやろうと思ってな」


「荒野じゃなくていいんですか?」


「今のお主が相手取れるのは、わしが呼び寄せたワイルドベイグランドぐらいじゃろ」


 確かにそうだった。

 もし、ティラノロッキーに遭遇してしまったら、逃げる余地もない。


「もっと魔法に頼った戦い方をさせる為に、石で出来て打撃の通じ辛い手合いを選んどったんじゃが……、それも意味なかったようじゃしな」


「え、そうだったんですか」


「まあ、既にもう終わった話じゃ」


 スティーブンは山岳の山小屋から外に出ると、石で出来た階段を下り始めた。

 どこかの頂きに、塔のようにそびえる小屋。

 マップで確認すると、北には森が広がり、南は岩肌が剥き出しの山岳地帯となっていた。


「テンバータウンはしばらく北へ山を下ると辿り着く事が出来る。移動には一日ほどかかるがな。良い事を教えてやろう、元々バトルゴリラはこの境目に生息しておると言ったのを覚えておるか?」


「はい」


「では、今どうなっとるのか見て回ろう」


 そう言いながら山岳地帯を南へ、進路を取る。

 大きな石が崩れるような爆音と、ケダモノの叫び声が聞こえて来た。

 ウギャアアアと鼓舞するような声である。


「見晴らしの良い場所へ行くぞ」


 視点が変わる。

 階段降りずとも、最初からテレポートで移動すれば良かったんじゃないのかな?

 まあ端からスティーブンのテレポートを見ると、何かしらの制限はあるのではないかと思えた。

 少し高い位置の岩場から眼下へ意識を向ける。



【コンバットエイプ】Lv5

戦闘に長けた猿種。

武器を扱い、集団戦にも強い。


【サイクロックス】Lv6

一つ目の岩石巨人。

粗野で凶暴な性格で悪食。



 バトルゴリラよりも更に手足が長くなって、人に近くなった猿の魔物。

 それが、三メートルもありそうな大きさ一つ目の巨人と戦っていた。

 コンバットエイプの鳴き声で、場には数体のコンバットエイプとバトルゴリラが参戦する。

 見るからにバトルゴリラ従えてます。


「ウギャアアア!!」


 岩石巨人の一撃は重たい。

 振りは遅いが、当たれば一撃でバトルゴリラが瀕死になる。

 その隙を狙ってコンバットエイプが殴り掛かる。

 そして二体のコンバットエイプがサイクロックスの両腕を極める。

 腕ひしぎ……?


「ギャアア!」


 何かの能力を使ったのだろうか。

 コンバットエイプの動きが格段に上がった気がした。

 抜き手で心臓がある部位を貫きにかかった。


「ゴアアアアアア!!」


 サイクロックスから初めて悲鳴が上がる様だった。

 胸に手を突っ込んだコンバットエイプは、どうやら胸から心臓に近い臓器をえぐり出した様だった。

 それでもサイクロックスは猛烈に暴れている。

 力は圧倒的に弱まったようで、極めから解放したコンバットエイプの二体が飛びかかってマウントを取り、散々ぶん殴って終了した。


 狩りの成果は上々。

 と言う風に心臓のようなものを掲げたコンバットエイプが咆哮を上げていた。


「見つかっては厄介じゃ」


 再びテレポートで階段へ戻ると、山小屋に向かって登りだした。

 言葉が見つからなかった。

 と言うか、山を越えた先になんつー化物がいるんだ。

 動画、もちろん撮りましたよ。


 スティーブン、いや師匠。

 なぜ、俺にこんな光景を見せたんでしょうか。


「テイムモンスターを犠牲に冒険をする事は、個人の信用を著しくさげる。調教師の組合が黙っとらんじゃろう……」


 それはこの間ローヴォを死なせたことを怒っている様だった。

 言い返す言葉も無い。

 だが、過失が大きくあるかと言われれば。


「色々と事情があってのことです」


「心しておけ、いつまでも一人と一匹では無理じゃ。仲間を集めろ」


「……」


「ならテイムモンスターを増やします」


「ろくに上げとらん調教スキルで何ができる、それに、今のままでテイムモンスターが増える訳が無かろうが」


 師匠にそう言われてしまえば。

 そうなのだろうな。

 なんとなく納得してしまった。

 正直テイムモンスターを増やした所で、わらわら集まるモンスターを俺が管理できるとも思えん。


「レベルを上げます」


「うむ、多少の基礎能力は上昇するじゃろ、じゃが、全てはスキルで決まる」


 一つ、戦ってみるか。

 スティーブンはそう呟いた。

 転位で少し開けた場所へ。

 そして、指のなる音がして、魔物が姿を表した。



【サイクロックス】Lv9

一つ目の岩石巨人。

粗野で凶暴な性格で悪食。



「グルルル」


 今まで黙って後を突いて来ていたローヴォが、出現した魔物に唸り声を上げた。

 少し後ずさっている所を見ると、流石に物怖じしている様子だった。


「そこの狼がビビっとるのも、お前のスキルが足らんからじゃ」


「どうしろと」


 いい加減イライラして来たものをぶつけたい気分だった。

 別に、調教スキルが無くてもローヴォと一緒に冒険できるなら。

 それでいいじゃないか。


「それでは旅の供をみすみす死なせるぞ」


「戦いに集中したいので黙っててください」


 ご丁寧に、さっきより格段に強い個体をご準備してくれて。

 岩石巨人が大きく駆け出してくる。

 ワイルドベイグランドとは比べ物にもならない程のスピードだ。


「ブースト! フィジカルベール! メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」


 大振りのサッカボールキックが飛んで来た。

 それくらい、今の俺はコイツに取ってとるにたらない存在なのかもしれない。

 横跳びに躱す。

 すれ違い際に、ヌンチャクを踵に叩き付けておいた。


 効いてる様子は無い。

 相手のHPもミリ単位でしか減ってないように思える。


 勝負所は?

 コイツが人型である限り、やりようは幾分あった。


 弄ぶように。

 再びサッカーボールキックが飛んでくる。

 すり足気味に、岩石巨人の内側に向けてそれを躱す。

 軸足がすごく遠い。

 全身を使って脚を刈る。


「せい!」


 巨体が地面に倒れる。

 すごい音がした。

 激痛が脚に走る。


「ぐっ」


 こいつ、ケツが。

 軸足を刈った時、上手く倒したい方向へ力を加えることが出来ず、そのまま俺の脚の上に尻餅をつく形になった。

 当然、右足は変な方向に曲がっていた。

 ストレージから急いで中級回復ポーションを取り出す。


「部位破壊、欠損は専用のポーションじゃないと意味ないぞ」


 痛みは無くなりHPは少しずつ回復している。

 だが脚の感覚はなかった。

 絶体絶命か?


「グァオ!」


 岩石巨人が顔をにやけさせながら、体勢を立て直して俺を潰そうとした時。

 ローヴォがその顔に向かって飛びかかった。

 目に思いっきり噛み付いている様だった。


「信頼関係は、良好みたいじゃの」


 スティーブンはその様子を見て呟く。

 指を鳴らすと、弾き飛ばされたローヴォを自分の傍までテレポートさせていた。

 ついでに俺も隣に転位させられる。

 そして、獲物を奪われた岩石巨人は奪った相手。

 スティーブンを標的とした。


「あんまりMPを消費しとうも無いんじゃが、一つ、こういう戦い方もある事を見せておこう」


 指を鳴らすと。

 サイクロックスは、遥か上空へ。

 そして落ちて来て、碌な着地も出来ずに背中を打った。


「ゴオ! グオオ! オオオ!!」


 何度も何度もサイクロップスを叩き落とし続けた。

 激しい地響きが南の山森に、この山岳地帯に響き渡っていた。


「これが、スキルの長所でもある。お主の得意としとる対人相手にはややオーバーキルな力かもしれんけどな?」


 どんどんHPを減らして行き。

 そのままサイクロップスは動かなくなった。

 当然、素材をくれることはしない。

 ケチな師匠だ。


「レベル20になって、バトルゴリラを倒したら、工房からのポータルは好きに使え」


 引きずられて家に戻ると、スティーブンはそう言ってどこかへ転位して行った。

 えっと、右足の骨折、そのままっすか?



プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv19

信用度:65

残存スキルポイント:0

生産スキルポイント:4

※部位破損(大腿骨骨折)



 デスペナみたいな経験値、ドロップの半減効果はないけど。

 完治まで六時間ってふざけんなよ。

 な、治りが早くなる所とか、治療してくれるところないんか。


 これはアレか?

 一人で挑むな。

 そう言ってるのか?

 ちくしょう、意地でも一人で進んでやる。


ーーー

プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv19

信用度:65

残存スキルポイント:0

生産スキルポイント:4

※部位破損(大腿骨骨折)


◇スキルツリー

【スラッシュ】※変化無し

【スティング】※変化無し

【ブースト(最適化・補正Lv2)】※変化無し

【息吹(最適化)】※変化無し

【フィジカルベール】※変化無し

【メディテーション・ナート】※変化無し

【エンチャント・ナート】※変化無し

【アポート】※変化無し

【投擲】※変化無し

【掴み】※変化無し

【調教】※変化無し

【鑑定】※変化無し


◇生産スキルツリー

【漁師】※変化無し

【採取】※変化無し

【工作】※変化無し

【解体】※変化無し


◇装備アイテム

武器

【大剣・羆刀】

【鋭い黒鉄のレイピア】

【魔樫の六尺棒】

【黒鉄の双手棍】

装備

【革レザーシャツ】

【革レザーパンツ】

【河津の漁師合羽】

【軽兎フロッギーローブ】

【軽兎フロッギーブーツ】

【黒帯(二段)】


◇称号

【とある魔法使いの弟子】

【道場二段】

【復讐者】


◇ストレージ

[スティーブンの家の客間]

セットアイテム↓

[カンテラ]

[空き瓶]

[中級回復ポーション]

[夜目のスクロール]

[松明]

※残りスロット数:7



◇テイムモンスター

テイムネーム:ローヴォ

【グレイウルフ】灰色狼:Lv5

人なつこい犬種の狼。

魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。

群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。

[噛みつき][引っ掻き][追跡]

[誘導][夜目][嗅覚][索敵]

[持久力][強襲][潜伏]

※躾けるには【調教】スキルが必要。

ーーー






気付けば50話でした。

早いもんですね。



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