-492-※※※トモガラ視点※※※
すいませんトモガラ編次話まで続きます。
でも、次の話でトモガラ決着。2時間後に更新されるんで勘弁してください。
「……俺は生粋の魔法職だ」
「──クッ!」
クソッ、切られた。
(杖の癖にいっちょ前に切れ味あるじゃねーかあれ!)
色々とわけわかんねえことが多すぎて思考が追いつかない。
なんだこいつ、なんだこいつ。
クソッ、クソッ、焦んな、焦んな。
(焦んなよ!! 逝かれた野郎相手は、今まで散々やってきたはずだろうが、リアルでよ!!!)
「……焦ってるのが顔に出ている」
「ぁ? ──ぐっ!?」
思考を読まれていたのか、動きが鈍った俺にハザードは剣を突き込む。
反応がやや遅れて、切っ先が右肩を貫く。
「……硬いな、さすが一時代を築いたトッププレイヤーだ」
「こ、の!!!」
「……どうした? 最初に比べてスピードが遅くなっているぞ?」
「う、る、せえっ!!!」
おお振りになってしまった戦斧は空を切る。
なんとか、なんとか体勢を立て直したい。
だが完全にリズムを相手に持っていかれちまった。
どうする、どうする、どうすりゃいい。
この流れはまずい。
「さらに付け足しておけばだ」
ハザードは言葉を投げかけながら接近戦を仕掛けてくる。
ここまで追い詰められることは、このゲームでは一度もなかった。
強いて言うならローレントと対決した時くらいなんだが……。
不思議なことに、あいつと戦った時は、俺は最後負けを認めていたっていうか。
いや、認めてないが、心の奥底ではこいつには勝てねえのかって思っちまった。
だが、今回は一際違った物が心の中を埋め尽くす。
くそ、一旦冷静に、冷静に。
そして冷静にと思えば思うほど、心の均衡が保てなくなる。
(ああもう、なんだよこれ! なんだよこれ!! ……ハッ、あれしかねえ!!)
「貴様の」
「──しゃらくせえええええええッッッ!!!!!」
ゴッ!!!!
『おおっとおおおおお!!! トモガラ選手、ハザード選手のラッシュ中にも関わらず、自らの拳で自らの顔面を殴りつけたあああああ!! い、いったいどうしたんだ!!!!』
「…………なに?」
俺のこの行動に、ハザードの動きが止まる。
「……いってぇ……」
全力で顔面殴ればそりゃ痛いだろうな。
いくら身体強化で防御も増しているとはいえ、力を増した自分の全力。
口の中の感触を確かめると、奥歯がいくつか折れて出血しているのがわかる。
だが、この痛さで心の中にあった俺の焦りが消えた。
最初からこうすりゃよかったのかもしれねえな。
ローレントも、ジジイも、呼吸を乱されたら自分をぶん殴ってでも息をただせって昔よく言ってたぜ。
「ペッ」
口の中に溜まった異物を全部吐き出す。
「あの時は、自傷行為なんてするわけねぇだろって思ってたが……なんだよ、案外覿面ってやつじゃねーの?」
フラフラするが、さっきよりは全然マシだ。
クリアになった思考回路。
狭かった闘技場が一気に広く見えるようになった。
あれだけデカかった。
脅威に焼き付いていたハザードが等身大になった。
「……言ってる意味がわからんが、面白いな」
口元まで覆っていた顔の包帯を、ハザードはぐいっと顎の下までずらした。
今まで隠れていた顔が露わになる。
ハザードは笑っていた。
「は? なにこの状況で笑ってんの?」
「……そう言う貴様も笑っているが」
「ちげぇし、これ、冷静になった俺が今から勝つから笑ってんの」
俺はテメェらみたいな戦闘狂じゃない。
そうだな、言うなれば。
ただの生産組の木樵で、ただのトッププレイヤー。
(ん? なおさら、負けるわけにはいかねぇな、これ……?)
生産組っていうワードで、一つ頭から離れていた物を思い出した。
今まで背負うもんは全部“あいつ”に追いやってたけど。
元を正せば、全部俺が原因か?
いや、なんで俺、こんなシケた思考回路になってんだ。
自問自答なんか、ガラじゃねえよ。
でもよくよく考えると、俺、あいつの邪魔ばっかりしてた臭いな。
いいや、断言できる、邪魔してた。
(ハァ……なんだかんだ俺も性根が腐ってんぜ)
負けたくなかったんだよな、あいつに。
何か一つでも勝てるモンっつーことで、ゲームやってんだ。
だが、それも抜かれた。
それで、悔しくて、躍起になって。
(だせぇ……だせぇよ、だせぇ)
あいつが、初めてできた俺以外の友達のために奔走してる時に、俺はなにしてたよ。
横目で虎視眈々と叩き潰せる機会窺ってんじゃねーか。
負けたくねえ、その気持ちは大事だ。
となりでずっと、抱えてた俺も大事なもんだ。
だが、それは“勝ちてぇ”じゃねーよな。
自分の気持ちを飲み下すのにえらく時間がかかった。
なんだかようやくスッと降りてきたように感じる。
「俺が勝つ、そりゃ既定路線だ」
アイテムボックスから、乱闘イベントのダンジョンで手に入れた装備を取り出す。
「……む、その籠手が貴様の勝つ秘策か?」
「いいやちげぇよ」
どうせローレントたちもダンジョン最深部でお宝ゲットしてるだろってことで、周りにいた雑魚どもをぶっ飛ばしながらぶん取ったこの装備は【小さな巨人の籠手】。
確か、本人のプレイデータや諸々に合わせてランダムで決定されるんだよな、ダンジョン再奥のアイテムって。
木樵だから斧が来るかと思ってたんだが、どうやら違うみたいだった。
これじゃまるで、俺があいつに憧れてるみたいで嫌だったんだが、仕方ねえ。
それもまるっと受け止める。
「勝ちてぇから、勝つんだよ」
ガストン「はっぴーばれんたいんである」
イシマル「はっぴーばれんたいん! ガハハッ!」
ミツバシ「ハッピーバレンタイン。俺だけだぜチョコちゃんと作ってんの」
トモガラ「はっぴぃばれんたいんー、チョコくれよおい」
三下さん「はっぴィばれんたィんだぜェー、甘いものは……正直好きだァー」
ローレント「おい俺もチョコ作って来たんだけど、なんで誰も見ないんだ、ここにあるぞ」
●←チョコです。ローレントからです。お受け取りください。
真面目な話。
滅多に語られない追い詰められるトモガラ視点でした。
多分もうトモガラ視点になることは来ないでしょう。(多分です、多分)
これ本当に三十路のいい大人か?
とも、書いてて思えたんですが……。
人間、いくつになっても引きずることやしつこく心に残ることは多々ありますよね。
いや特に、自分を変える機会に巡り会えなかった人こそ。
凝り固まったシコリが歳をとるにつれて固まって、ずっとくっつくんじゃないかな。
なんて思いながら書いてました。
嘘です。笑
ちなみにこれを書いてるのが4:00で、感想は読ませていただいてます。
男臭いバレンタインですけど……そんなはずないじゃないですか。
信じて待ってください、きっとハッピーバレンタインします。
ローレント「おい、ちょこくわねぇか<●><●>」




