-490-※※※トモガラ視点※※※
『ハザード選手! トモガラ選手の強烈な一撃を無傷でしのいだあああああああ!!!』
『──ウオオオオオオオオオオ!!!』
『相変わらず歓声がすごいですね』
『ちょっとGMデルタ! サボらないで解説お願い!』
『解説するほどのものでしょうか……? GMベータ』
『新規勢は攻略見てきてる人多いから、マジックプロテクト知らないんじゃないかな〜? って、別に知ってる知らない置いといて、解説はちゃんとやって! ネタバレにならない範囲で! GMデルタっ!』
『ネタバレにならない範囲で……って、また難しいことを言いますね。そういえば、あれはどうしたんですか、GMベータ?』
『あれって?』
『観客席から解説を集めて、それで一番説得力がたかそうなものを解説として流す機能AIです』
『……予選では使用申請おりなかったんだよね……あれ、今戦闘データの蓄積に使ってるから……』
『そうですか。では解説ですが、ハザード選手が使用したのはマジックプロテクトというGSO初期に魔法職の間で流行ってすぐに廃れたクソスキルです。スキル掲示板を見ればクソ認定リストにあがっていま──』
『──セイセイセイセイ! そういうネガティブなことは言わないの! GMデルタぁぁ!!』
『……チッ』
『舌打ち!?』
『まあ解説しますと、良き利便性を持っているものの、GSOの使用と歴史的な背景を原因に廃れてしまったかなり古いスキルというわけです。クソスキルオブザアワーにも永遠のナンバーワンとい──プツッ』
『とりあえずハザード選手がトモガラ選手の攻撃を防いだあああああああ!!!!』
……マジックプロテクト。
初期GSOにて、魔法職には必須と言われたお手軽防御魔法スキル。
ダメージをMPで肩代わりするそのスキルは、どんな近接職の攻撃でも、即死級の攻撃でも防ぎ、防御の立ち回りなんて一切関係ない、魔法職一強を作り上げるか……、
……と思われたほどのスキルだ。
思われたってことは、結局クソ認定されて誰も使わなくなったというのが正しい。
クソ認定その理由はいくつかある。
まずHP回復系ポーションに比べて、MP回復ポーションの制作は難易度が高く、価値が高騰したことだ。
これによって、MP消費による魔法攻撃に依存する魔法使いたちは、一挙としてMP節約をしなければならなかった。
さらに、GSOでは道具屋が無限に品物を売ってくれるわけではない。
他の街から、生産地から商品を仕入れて来なければならず。
行商人プレイヤーすら、そもそも生産系プレイヤーすらあまりいなかった初期では、制作はおろか街のお店にもMPポーションは存在しなくなっていった。
言わずもがな、さらなる高騰を引き起こす。
そこにプレイヤーバッシングが起こり、辛うじて手に入っていたノークタウンも使えなくなった。
確か、レイラがイベントエリアに入る方法を発見し、そこで手に入る素材でMPポーションを安定して生産することに成功してから、薬師プレイヤー総出で供給し、なんとか持ち直した。
そんなMPポーション革命が起こるまで。
MPの回復方法がスキルを使わず待つ、もしくはログアウトして8時間待つ。
くらいのもんだったんだから、GSOの魔法職は前半の方でかなり虐げられてきた。
“最強じゃね?”
とはやったマジックプロテクトは、実は攻撃を受けるたびにMPで肩代わりする超ド級の消費量。
さらにHPを大きく超えた致命傷を貰えばMPはほぼ全損。
MPがなくなった魔法職はさらに肩身をなくす羽目になり、ベール、アーマー系の軽減防御型の魔法スキルが出てからというもの、マジックプロテクト派は確か完全にいなくなった。
そして、時代に取り残されたクソスキルとしてスキル掲示板に名を連ねている。
物資が豊富になり、等級が高いMPポーションが安定供給されるようになった今、改めてマジックプロテクトの見直しのようなものが行われたっぽいが……。
結局のところMPポーションにはカットタイムが存在し一日に何度も使えないので改めて再びクソ認定。
クソクソクソのクソスキルってことだ。
軽減系ならば装備を防御力が高いものに切り替えればマシだが、マジックプロテクトは装備の防御効果関係なしに、ダメージの肩代わりを行うから強い装備が出る度にさらにクソになっていったのだ。
「んなクソスキル、よく使ってんな……」
「……便利だぞ、死亡回避系はな」
確かにそうだが、今ではミサンガもちょくちょく出回るようになっている。
闘技場ではミサンガ適応外みたいだが、そのアイテムの出現でわざわざマジックプロテクトを使う必要はない。
一日一回であればノーリスクミサンガ。
その分、作れる人が限られて、えらく高級品なんだけどな。
「便利? それでMPすっからかんになっちゃ世話ねぇだろ」
後ろに下がるハザードに追いすがって戦斧を振るう。
するとハザードは、
「……MP回復が可能だから、使っているだけだが?」
「──ッ!?」
俺の戦斧を再びマジックプロテクトで防いだ。
「……テメェそれ……どうなってやがる?」
「そうだな……教えるのは俺は構わんが、作った奴がうるさいからな」
ハザードは闘技場への入り口に一度目配せすると、
「……作った奴はきっとこういうだろうな──」
すぐに視線を戻して言った。
「──当ててみろ」
「ッ」
視線から蔑まれているのがわかる。
テメェ、舐めやがって。
実はこっそり廃れたマジックプロテクトの話でした。
ローレントの先見の目はあっていたのですね。
あ、本日7回目の更新でした。
大量更新中は、話が間延びしますね……。
少しだけ展開を早めたいと思います。