-489-※※※トモガラ視点※※※
今日中にこのいざこざを書き切って投稿したい。
「……貴様の意見には賛成だ。ぜひ一対一でやろう、一時代を築いたプレイヤー……トモガラ」
全てのプレイヤーを蹴散らして目の前に現れたのは、目から下をバンテージか包帯かよくわからんもので覆い隠したフードの男だった。
「ああん? 誰だ?」
「ハザード」
「ふーん」
どうやら、予選にとんでもない野郎が紛れ込んでたらしい。
風貌から察するに、明らかな強者の匂いがした。
そもそも、ある一定の実力を兼ね備えていないと、さっきの芸当はできない。
わりかしレベルが高いプレイヤーの情報は個人的に集めているのだが、こいつは知らなかった。
鑑定するか。
【ハザード】上級五属性魔法使いLv:85
・プレイヤーおよびNPCキラー
……おいおいおいおい。
なんだこの職業、見たことないぞ。
魔法職って言えば、普通一つの属性にしか就けないはずだ。
「ああもうハザードさん、また偽装つけてない……と、いうよりもハザードさんまで悪い癖が……」
身体強化スキルで強化された聴覚が、予選開始前に耳にしたきもい男の声を拾う。
本当にきな臭い奴らだな。
「テメェら何もんだよ?」
「……戦いを前にして、相手に何者かを問うのか?」
質問に質問で返すとか、なんだかあいつにそっくりな奴だった。
『うおおおおおおおーーーーーーッッ!!!! 99対1が繰り広げられるかと思った矢先の大惨事だあああああああーーーーーッッ!!! まったく無名のプレイヤーが、トモガラを狙うプレイヤーを全て串刺し、そして焼き尽くしてしまったあああああーーーーーーッッ!!!』
『まったく無名って……GMベータ……まあ、いいですけど』
『──ウオオオオオオオオオオ!!!!』
「まあいいか」
いろいろと聞きたいことがあったのだが、運営の煽りとそれに触発された観客どもの大声によって興が冷めた。
単純な話、ボコって聞けばいいんだよ。
しかも相手はレッドネームのプレイヤーキラー。
倒したついでに情報収拾する。
あいつは、ローレントは未だに情報探り続けてるみたいだからな。
この辺で恩を売っておくのもいいだろう。
一石二鳥だ。
「何者でも倒せば俺より弱い雑魚でしかないからな」
杖を持ったまま佇むフード男に向かって、俺は戦斧を構えた。
「……面白い」
そう言葉を返すフード男だが、動きはない。
立ち振る舞いは素人か?
いや、そうでもないかもしれない。
俺はローレントやあいつのジジイをそばで見てきたから。
だから、なんとなくだがわかる。
(ありゃ自然体だ)
モナカがニコニコ笑顔のままでよく使う構え。
杖を持って佇む状態が、奴の自然体のようだ。
(んー、この場合どうするんだっけな)
すぐに攻め手を考える。
魔法職に対してのセオリーは近接戦闘。
さらに言えば詠唱する余裕が生まれないくらいの速攻を仕掛けるのが一番いい。
だが、何しろ情報が少ない。
速攻仕掛けるよりも、慎重に安全マージンを取った方がいいはずだ。
「……こないのか?」
「うるせえ」
俺は後ろに飛びのいて一度距離を取ると、すぐに持ってる情報を頭の中で吟味する。
普通の魔法職ならば戦闘が始まるとすぐに詠唱を始めるだろうが……こいつはちげぇみたいだな。
無詠唱って線もありえなくないが、こいつの場合さっき詠唱していた節がある。
スキルってのは一長一短。
単純な効果を持つスキルは重ねて持つことが可能になるが、無詠唱レベルのものになると取得難易度もそうだが、そのスキルを取ると他に選べないスキルも出てくる。
それがブラフで、実は今も思考の中で詠唱している可能性も存在する。
が、床から飛び出した石の棘は土属性。
そのあとプレイヤーを焼き払ったものは火属性。
(……重複詠唱? いや、ちげぇ)
それだと二つの詠唱が同時に発動する。
プレイヤーの頭上に詠唱マークが出るはずだが、戦いが始まる最中に詠唱していたプレイヤーはいなかったはずだ。
雑魚ども、おしゃべりに夢中でまるで戦闘の準備をしてなかったからな。
戦いが始まった瞬間に詠唱を開始する奴が大勢いたが、それよりも先にハザードの攻撃が襲った。
ローレントみたいに詠唱にボーナス使ってんのか。
それも、違うな。
一言で二つの魔法が同時に使えるわけはない。
(めんどくせ)
考えれば考えるほど、厄介に思えてきたぜ。
でも一つだけ腑に落ちたのは、奴が無詠唱保持者ではないってことだな。
重複と無詠唱は共存できない。
詠唱系スキルで。
さらに共存が可能なスキルで、俺が知ってるのは長詠唱、短詠唱。
「……来ないなら、こっちから行くぞ」
「あーわかったわかった。今から相手してやるよ」
急かすハザードに、俺は斧を担いでゆっくりと、一歩一歩近づいていく。
うん。無いな、無い。
依然として棒立ち状態のハザードは不気味だ。
その不気味は自信に繋がるスキルを持っていることは大前提で初手を決める。
「鬼滅」
全力だ。
こういうわけがわからんねえ相手には、全力に近い攻撃を初手でぶつけるに限る。
それが相手の実力を探る一つの手段でもあるからな。
「一撃で決めちまうぞ?」
「……好きに──し──」
ハザードが言葉を返す前に、大きく一歩踏み出した。
音が間延びしたように感じる。
身体強化スキルを全てかけ終えた俺は亜音速に至る。
適当に言葉を交わしながら近づいたおかげで、亜音速の一歩があれば戦斧が首に届く距離でもあった。
“詠唱が必要”
その事実だけをよく噛み砕けば、だ。
相手が一言を発する前に切り倒せば、ごちゃごちゃ余計な思考はしなくて済む。
「──じゃあな、レッドネーム」
そう言って、身体を上下真っ二つにしてやろうと戦斧を振り抜いた。
だが、
「……じゃあな? まだ戦いは終わっていないぞ」
ハザードの身体を真っ二つにする前に。
何かが割れるような音がして、俺の戦斧の攻撃が止められた。
「マジックプロテクト? んなもん、だいぶ前のクソスキルじゃねーかよ」
はっぴ〜ばれんたい〜ん(涙
本日更新6回目です。
がんばれ私、がんばれ私。
やればできる私、やればできる私。
と、そう自分自身を鼓舞しながら書いております。
ってことで、珍しいトモガラのジックリ思考回でした。
抜け目が無い奴だ、とローレントから言われてましたね。
こういう感じで頭の中では思考しながら戦っています。
ローレントと戦っている時も、頭の中は多分こんな感じだったのでは無いでしょうか。




