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フンガー
『しゃらくせぇ! ハエたたきだ! おら!』
リアードドの攻撃をギリギリでかわしながら、その大ぶりのパワーを目の当たりにしてそう思った。
背筋が、感覚が、なんだろう、刹那的にゾクゾクする。
躱せないことはない。
巨体になればパワーを持つが動きは鈍くなる。
痩せてる方が早い、遅い、の問題じゃなくて。
リーチの長さによって攻撃の回転効率が悪くなるってこと。
一撃に速さ、そして強さ。
それは筋力に比例する。
だが、リーチが長ければ長いほど、力を得るが取り回しが面倒になる。
槍と剣の違いがそうだ。
さらに言えば。
剣と片手剣。
片手剣と短刀。
短刀、ナイフ。
最後素手。
まあ、素手とナイフはほぼほぼ変わらんが。
それを速さと呼ぶのなら、無駄に太ましい筋肉質な体型はウスノロということになる。
だが、連打が許されるのはある種一定のラインまで。
フェザー級のラッシュがヘビー級には通用しない。
それほどまでに、体格というものは戦う上で重要なのだ。
『おら死ね!』
家屋ごと吹き飛ばすほどの横薙ぎの大剣を躱す。
どうする、次の攻撃までのスパンに、刀傷を増やそう。
例えスペル・インパクトが効かなくても、羅刹の効果を持ってすればかなり削れる。
斬ったら回復無効だからな、的がでかくなればなるほど有利に……、
『ふむふむ、リアードドさんに加勢しますかね』
「チッ」
このジョバンニがネックだな。
大剣を躱しても、こいつが別の武器を飛ばしてくる。
装備できる武器に制限はなく、フィーも二つの鎖分銅を扱っていた。
こいつも例によって例の武器をさも当然のごとく意思で操って攻撃してくる。
空飛ぶ武器とか聞いたことないし、見たこともない。
いったいどういう原理なんだろう。
さすがに、これは攻めあぐねそうだ。
『おい、ジョバンニ邪魔すんな』
『邪魔も何も……そもそもリアードドさんの役目はここでの戦闘ではないんですが……?』
『……ああ、頭に血が上って忘れてたぜ』
リアードドがジョバンニに言われ、思い出したように闘技場へと進路を取る。
俺を無視する気のようだ。
「行かせん」
だから石柱をアポートし、その上を飛び移って進路を塞ぐ。
『くそが、邪魔しやがって!』
『はいはいリアードドさん。そういう時は適当に周りをぶっ壊しましょうね』
『はあ? なんで……って、ああ、そういうことかよ』
リアードドはすぐに納得し、顔を凶悪に染めながらノークタウンを手当たり次第に壊し始める。
『確かよお! 人に嫌がらせする時は本人を狙うんじゃなくて、そいつに関係ある奴を手当たり次第にぶん殴ればいいんだったよな!? ヒャハハッ! 全くクズみてぇな理論だぜ!』
『ククク、あまり褒められたことではありませんが、どうせならレッドネームらしくとことん悪に染まってあげましょうか』
クズだな。
だが実に理にかなっている。
俺としては、別にノークタウンには思い入れもないからいくら壊されようが知ったこっちゃないのが本音だ。
だが、さすがにこれだけ目立つとなると、彼らの人質嫌がらせ作戦は有利になる。
もともとプレイヤーバッシングがひどかったノークタウンだ。
それが再加熱するのは避けたいところである。
っていうか、単純にこいつらを好き放題させるのが個人的に気に食わんってのが一番強い。
「関係ない奴を巻き込むな」
『簡単に行かせるほど甘くないですよ? ククク』
「チッ、どうなってるんだ」
『まあ、錬金に関しては大サービスして教えてあげた分、コレに関しては自分で推測して見てくださいね? ククク、ジョバンニ先生からの宿題です。クックク』
「ふざけやがって」
家屋を破壊するリアードドに近づきたくても、ジョバンニがそれを阻止する。
そうして攻めあぐね、俺は徐々に、徐々にと彼らの前進を許してしまっている。
しかも、通り道にかなりの被害を生みながらだ。
くそが。
『ケハハハハッ! 止めてみろよおおおおお!!』
リアードドが叫びながら一つの家を踏みつぶそうとした時──、
「……させねェよ、バァカ」
三下さんが屋根の上に現れてリアードドのフッドスタンプ攻撃をはじき返した。
『なあッ──!?』
さすがすぎる三下さぁん!
俺よりもヒーローっぽい。
いやまあ、俺ヒーローじゃないけど。
ムカつくからこいつらの相手してるだけだし。
「古今東西なァ、巨大化したところで結局負けるのがお約束って奴なんだぜェ?」
そんなことを言いながら三下さんは舌を出して右手親指をサムズダウン。
踏みつける力をそっくりそのまま返されたリアードドは何とか体勢を立て直し着地した。
「三下さん、みんなは?」
「避難してるぜ。早く動ける奴らでここから闘技場までの一直線、できるだけNPCにもプレイヤーにも避難するように言ってある。ハッ、デケェ図体してる分、わかりやすい脅威すぎてみんな一斉に避難に従ってくれて楽だぜェ?」
「なるほど、さすがだ」
ってことは、避難を終えたらもう少し戦えるメンツが揃いそうだな。
ならば、
「ローヴォ、ルビー」
契約モンスターたちを呼び寄せる。
今は少しでも時間を稼げる戦力が欲しいかったのだ。
幸い、近くにいたのだろうか。
狼と兎はすぐに俺の側にきてくれた。
「んァ? おお、レイドボスいたぶった時のメンツ揃ったじゃねェか」
「うむ、こいつは言わばレイド級の敵らしい」
それだけしか言ってないが、三下さんはすぐに理解してくれた。
PKよりも凶悪な表情でニヤつく。
三白眼が四白眼になってぎょろぎょろしてる。
怖い。
「レイドだろうが、なんだろうが、関係ねェ。クズは殺すゥ、ただそんだけだァ!」
……怖い。
ハッピーバレンタイ……タイン
更新3回目。
 




