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行くでガンス
『リアードドさん、敵ですよ』
『んああ? ケッ、しつこい虫だぜ』
リアードドの張り手が肩に。
後ろに飛びのいて躱し、再び空蹴で肩に飛び乗った。
『……流石の芸当ですね』
『この……ハエが』
さてと、このまま闘技場まで向かってゼンコロとか言ってたな。
どうしようか……。
デビルクリスタルの効果がある状態だと、バッドステータスが入らないが、時間経過によってどんどん効果が切れた時のバッドステータスは重くなる。
それと引き換えに、一部スキルの使用待機時間の制限解除と魔人の力を持った装備を扱えるようになる。
まさに諸刃の剣。
ならば……時間をできるだけ稼ぐ。
それが一番良い手だろう。
フィーの説明によると、それを作ったのがこの隣にいるちょろちょろしてる毛細血管目玉野郎ジョバンニ。
薬だ何だと言っていたが薬師ではなくおそらく錬金術師だ。
錬金スキルでもポーション系は作れることは初期の頃から分かっている。
ふむ、錬金スキルか。
確か“等価交換”が基軸にあるんだったな。
コボルトクリフからかき集めた金貨をツクヨイに延べ棒にしてもらった時のことを思い出す。
等価交換のくせによくわからん手数料みたいなものを支払わないといけないとか愚痴ってたっけ。
そこで思い至ったのだが……。
「……この巨大化は、ドッグプレーリーの物に似てるな」
『……ご明察、よく気付きますねえ? 勘が良すぎて恐ろしいですよ』
そう溢すと、ジョバンニがやれやれと言った口調で肯定する。
『おいおい、俺も詳しい話はしらねぇけど、ネタバレしていいのか?』
『ククク、初期からあるアイテムですから調べれば誰でも気付きますよ。まさかこんなに早くネタバレするとは思いませんでしたけどねえ、ククク』
「それにしては、この巨大化はとんでもないな」
『あれ? 褒めてるんですか? やったあ嬉しい〜!』
……何だこいつ。
まあ、話が間延びしていいんだけどよ。
リアードドも、ジョバンニがしゃべっている間は手出ししないみたいだし。
とりあえず話を合わせておく。
「敵ながら、すごい、あっぱれ」
『ククク、まあ気づくのも時間の問題ですし、ローレントさんあなただけには教えておきましょう』
「うむ?」
『制約と代償。錬金スキルの“等価交換”の中にはもう一つのルールがございます。等価交換には相場の天秤がございましてですねえ、システムに価値が決められてしまうと厄介なんですよ〜』
「はあ?」
『そちら側のおチビちゃんは何も知らずにひたすら“普通の錬金スキル”をさも“普通”に使用しているみたいですがねえ……まあそれはおいおい自分たちで勉強してくださいね? ククク』
「そうか」
普通の錬金スキル。
何とも含みをもたせた言い方だが、彼の作るアイテムは確かに普通じゃない。
そう言うことを言っているのだろうか?
『話は戻りますが、それに左右されない物が一つだけ存在しています。それこそが──手数料ですよ』
「それは知ってる」
ツクヨイが愚痴っていたし。
『クク、それが制約と代償ですよ?』
「なに?」
『さてと、リアードドさんに渡してるものでもそろそろ時間が惜しいですね。そっちの時間稼ぎにも十分乗ってあげたことですし、とりあえずみなさんまとめてデスしてくださいね』
どうやら時間稼ぎはバレていたようだ。
ふわふわとリアードドの体近くを漂う目玉がニヤリと笑った気がした。
その瞬間、ケンドリックの街がある方向から禍々しい大剣が俺に向かって飛来する。
ミサイル並みの速度で突っ込んでくる大剣をしゃがんで避ける。
「これは!?」
『あなたが戦った一人の達人娘に持たせていたものと同じですよ。ただし、少し特別製でね?』
ジョバンニの言葉の後、飛来した大剣がボコボコと音を立てて大きくなっていく。
『おいおいおいおい、俺もしらねぇ機能だぜこれ』
『くく、リアードドさんには映えある“巨人”役をやっていただく予定でしたしね? まあ、言ってませんけど』
『へえ、この体に合わせられてんのか。ってか巨人ってなんだ?』
『そうですねえ、大いなる野望の足がかりの一部。とでも言っておきましょうか……』
『……よくわかんねぇけど、テメェと一緒にいると飽きなさそうだぜ』
「俺も何が目的か知らないが、阻止するぞ──エナジーブラスト」
二人の会話の中に割り込みながら、空蹴にてリアードドの頭に張り付いてスキルを放つ。
ジョバンニも一緒に巻き込みたかったが、アイテムに成り下がったこいつを破壊できるのだろうか。
とにかくやってみるべし。
レッドネームの好きにはさせないし、何かしらの目的があると言うならば、
「徹底的に邪魔してやる」
『おーこわいこわい』
「チッ」
ジョバンニを破壊することはできないみたいだが、リアードドには至近距離で大火力を与えることに成功した。
『あっづあああああああ!!! テメェ!! よくも……やりやがったなァアア!!』
「黙れ」
巨大化したリアードドの頭の同じく巨大化したボツボツ髪を引きちぎりながらスペル・インパクト。
脳に直接ダメージを与えれば、人は簡単に止まるはずだが……
『いてぇなちくしょー!』
思ったよりもダメージが入っていないようだった。
『今のリアードドさんは一応レイド級なんですが、さすが湿地帯のレイドボスをいたぶった御仁は一味違いますね。普通誰だって恐れると思うんですが、勇猛果敢に殺しにくるなんて』
身体強化スキル勢はトモガラのように人外化が進むやつばかりだ。
それに追加して巨大化と言うアドバンテージを手に入れたリアードド。
文字通り、
「……化け物だな」
『くく、言ったでしょ? 人外相手には人外を』
俺の言葉にそう返しながらジョバンニはくつくつと笑う。
ふむ。
さらに言えば、ドッグプレーリー単体はかなり弱い魔物だが、巨大化によって凶暴化し、大きく戦闘力を上昇させることができる。
だいぶ前にだが、見た。
今はあの場所、農地に開拓されつつあるけど。
なるほどなるほど、身体強化にそれも合わさったリアードド。
……超強いじゃないか。
『とりわけ巨大化なんてロマンですよ、ロ・マ・ン』
俺、なんだかワクワクしてきたぞ。
リアードドの攻撃をギリギリでかわしながら、その大ぶりのパワーを目の当たりにしてそう思った。
背筋が、感覚が、なんだろう、刹那的にゾクゾクする。
ハッピーバレンタイ……ン
更新2回目。




