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さぁ始まるザマスよ
「こんなのってありかよ!」
「いいから早く出なさい!」
喚くミツバシの背中を押すレイラ。
巨大化するリアードドの体によって崩壊する家屋。
その瓦礫の合間を縫って急いで建物から抜け出す。
「戦えないのが先に出ろォ、特に生産専門の奴ゥ」
「こ、これはいったいどう言うことですか!?」
「ああもう邪魔!」
間が悪いことに、未だ外で待機させていたケンドリックの騎士隊のメンバーが入ってくる。
「邪魔とはなんだ! ブランド隊長はどうした!」
「ここだ! 倒壊してる最中の建物に入ってくるな! 外に出ろ馬鹿ども!」
「は、ハッ!!」
リアードドのキャラクターアバダーは約2メートルほどの大男。
目測で、20メートルほどになっているところを見ると、体の大きさを十倍くらいにするものなのだろうか。
一体全体、そんなアイテムなんてどこにあるんだろうと思う。
明らかに、ゲームバランスが崩れる代物なのだが……まだ解明されていない部分も多い。
俺の羅刹ノ刀とかもそんなバランスブレイキングを果たす武器だったりする。
巷では俺たちがトッププレイヤーだなんて言われていたこともあった。
だが、そんな声に埋もれて、隠れて牙を研いでいたプレイヤーは他にもいるだろう。
それは至極当たり前のことだ。
「うーん、そう考えるとこう言う奴らが出てくるのは……さもありなん」
「何ぶつくさ独り言ぼやいてんだ! 耄碌かァ!」
三下さんにケツを蹴られて俺も外に出ようとするのだが、上から声がする。
「ひ、な、なに!?」
「チッ、NPCがいやがったのか」
うら若き乙女の声。
崩壊するこのバーの上は民家になって偽装されている。
だから、ノークタウンに住むNPCがいるのも当然。
「御構い無しかよォ……許せねェなァ……」
どう猛な顔つきで巨大化するリアードドを睨む三下さん。
「それより先に、救出するぞ」
「あァ」
生産組の安全に関してはローヴォに一任する。
ついでに相変わらず姿が見えないルビーも呼び寄せてローヴォと連携取らせるように指示を送る。
「私も加勢します!」
十六夜もブルーノを呼び寄せて上に飛び立った。
「モナカさんはツクヨイさんを連れてください! 皆さんの護衛に!」
「はいな、子守まかされました〜」
ニコニコと手を振りながらツクヨイを肩に担ぐモナカ。
「むぐぐ! また子供扱い!? こう言う拠点防衛こそ、私の闇属性が活躍する機会なんですけど! ──ダークサークル!」
ツクヨイを起点に、大きな闇の円が広がる。
エピックアイテムの武器を介して、今までよりもさらに深い闇が崩壊する建物を包み込んだ。
それによって、崩壊する建物のまだ残っている部分がきっかりと固定される。
「でかしたツクヨイ」
「ローレントさん! 真上に一人、そして別の部屋に小さい子供のNPCが二人です!」
いいぞ、ツクヨイ。
ダークサークルのおかげで索敵可能になっているのだろう、十六夜よりも先に人を見つけ出すなんて、兄弟子としても嬉しい限りだ。
「ガキは任せろォ」
「はい、私もそっちに行きます!」
ってことは、俺は真上にいる女性NPCを助ければいいんだな。
「きゃ!」
と、思っていると女性自らが上から降って来た。
崩壊してぽっかり空いた穴から落ちて来たのだろう。
受け止める。
「大丈夫か?」
「は、はい……でもまだ子供が二人!!」
目に涙を浮かべて不安そうにする女性。
「そっちは大丈夫だ」
安心させるように笑いかけると、上から声が聞こえた。
「こっちはオッケーだぜェ」
「こちらも確保しました! 脱出します!」
無事に三下さんと十六夜は子供を救出できたみたいだ。
「な?」
「……うぅ……た、助かりました……あなた方は命の恩人です……」
目に涙を溜める女性。
うむ、とりあえず今は安心できるようにこうしておこう。
と、思っていると、ツクヨイと目があった。
「……………………」
「な、なに?」
「……………………なんか扱いが違う」
え、何が?
緊急事態だからさっさと避難して欲しいんだが、モナカとツクヨイが黙って俺を睨んでいた。
「自然な笑顔でしたねえ」
「本当ですねえモナカさん。私が酷い目にあってる時は仏頂面で鬼畜じみた視線を向けて来るくせに」
「ええ、ええ、まったくですねえ。あんなに自然に、かつ包容力のある笑顔は私も初めてですねえ」
「レア中のレアをNPCの人に見せるとは……何がトリガーなのかわから──ほげっ」
「いいから脱出しろ、この人を連れて行ってくれ」
「ほ、ほおおお、ほおおうううう……は、はいわかりました。ってかなんで街中でも自然にぶん殴れるんですか、乱闘イベントとか裏ギルドイベントとか、セーフティーゾーンがなくなるイベント本当に嫌です。嫌いです」
俺のゲンコツに頭を抑えるツクヨイは、ぶつくさ文句を言いながらも女性を連れて外へ出た。
あとは三下さんと十六夜が子供二人を連れて脱出すれば問題ないんだ。
あの二人であればたとえダークサークルを切って崩壊する中でも簡単に脱出できるだろう。
「ならば俺は……」
視線を上に向ける。
巨大化したリアードドがフヨフヨと周りを漂う小デビルジョバンニとともに何やら話している最中だった。
『……高い装備だったのによお……』
『まあまあいいじゃないですか。そんなもの、いくらでも作ってあげますから……とりあえずプラン変更です。もうすでに私たちは闘技場の予選会場に潜伏してますから、とりあえず大きくなったその足でそこを目指してください』
『ん? おうおう、それで?』
『その後は自由です。怪獣になったお気持ちで、闘技場にいるプレイヤーも、NPCも、レッドネームも、誰彼構わずワンコロではなく全殺でお願いします』
……ふむ、プランとやらはなんのことかわからん。
そして尋問しようにも、こいつらはなかなか口を割らんだろう。
だったら、阻止してやるだけだ。
こいつらの自由には絶対にさせん。
テレポートを唱えてすぐにリアードドの肩に転移した。
ハッピーバレンタイン。
更新1回目。




