-481-
「予言……未来視……」
とりあえず、色々とありそうなものをあげて見たが、言葉からして胡散臭い。
武術でいう先手を取る、とは、相手の動きを見て、予測してのことだ。
テレポートを使う俺は、まさに言伝で誰かが来るとかそんなことも不可能。
きな臭いが、それもさもありなんという形になってきそうだった。
「占いねぇ…」
呟くレイラに聞いてみる。
「女はみんな好きだし、詳しくわからないのか?」
「確かに女性はみんな好きだけど、それを全部信じてる人なんかいないわよ……?」
そうなのか。
でも占いの結果が良かった~とか言って、ルンルン気分で歩いている人はいるよな。
なんとも難しいものだと思っていると、三下さんが会話に混ざる。
「ああいうのはなァ、人間都合の良い部分を信じて悪い部分を信じないから成り立つもんだぜェ」
「なるほど」
確かに、それはあるかもしれない。
いいことが起きたら自慢したくなる。
ずっと覚えている。
でも悪いことが起きたら気にしないようにする。
何か他のことを考えて忘れようとする。
「理想のネカマ理論だぜェ」
「なんだそれは」
「昔よォ、古いネトゲでネカマやってる時に気づいた」
三下さんは言う。
「──人はわずかな可能性を夢見る生きモンだ」
と。
昔のゲームでは男が女の振りをすることができたようだ。
それを通称ネットオカマ、ネカマと言って。
可愛く着飾ったキャラクターで男に媚を売ってアイテムをもらう。
そんな画期的なシステムが構築され、まかり通っていたらしい。
「よく憧れの先輩とか、容姿だけで勝手に全てを判断して素敵だとか勘違いするのがいんだろ?」
それに関してはあんまり学生時代、同級生と絡まなかったからわからないが、多分そうなのだろう。
無理やりにでも納得しておく。
「人間は度を越してそれを拗らせんだよォ」
彼は言う。
昔、買った装備が女性アバダーようだったから、仕方なくネカマをやっていたんだと。
で、アイテムもらえるから適当に男の相手をしていたが、度を越してしつこい粘着行為をされて、たまらず男だと暴露してその場を去ろうとした。
だが、中身が男であると公言しても、本当は可愛い女の子なんじゃないか説が流れ。
粘着は治らず、たまらずそのネトゲをやめることになったらしい。
「もう仕方なくだろうがなんだろうが、ネカマはやんねェ」
そう、遠い目をした三下さんは振り返る。
なんか大変だったんだな……。
そこで気づいたんだと。
「人は、たとえ0.0001%でもわずかな可能性があれば、そこにすがるもんだァ」
「悪魔の証明ね……」
三下さんに、レイラがそう返していた。
原理はこうだろう。
本人が中身は男だと言った。
その時点で100%ネカマであるというのに、それは嘘かもしれない。
という謎の理論を展開し、それにすがってしまうのだ。
もしかしたら、もしかしたら、という、人の欲望なのである。
「難儀だな」
「ってか、話ずれてるわよね、それ? いまネカマの話じゃなくない?」
「ォお?」
珍しく三下さんがボケた瞬間だった。
「まあ、あれだァ。そういうもんをコントロールしてまかり通る商売だから、現実で占いなんかありゃしねェよ。だから、タイミングがかぶったって思うのは、たまたまそれを気にしてる時にそれが来ちまった。そうなっちまった、って自分で思い込んでるだけなんじゃねェの?」
「物欲センサー理論ね」
「なるほど。それはわかるぞ」
欲しいと思ったものが来ない。
だが、欲しいと思ってないときに前欲しかったものが来る。
GSOで狩りをしてると良くあった。
楽しいと感じる時間とつまらないと感じる時間のズレ。
なんだっけ、相対性理論とかいうの?
レベル上げを重点的に狩ると辛いけど、ドロップはめっちゃ手に入ったり。
ドロップ目当てで狩るとドロップ落ちないけど、レベルはめっちゃ上がってたり。
そんな感じだな。
「うーん……」
「納得してた割には、腑に落ちない表情ね」
「なにが気に食わねェんだ?」
俺の思い込みだと言われても、それでもやや気になる。
だって、
「俺が来る前に、ハザードはリアードドが死ぬことになり、カイトーとコーサーの二人が助かるってはっきりと明言したんだよ」
リアードドは殺しちゃいないが、それは二人に止められたからで、止められなかったら首を刎ねていた。
だから、占いはあながち間違っちゃいないのだ。
それをたまたまだとか、タイミングだとか、そんな問題で片付けるのはナンセンスではないだろうか。
「なるほどね……そこが腑に落ちないのね……でも確かに……」
グググっと頭を傾け思考するレイラは、首を振ると一気にグラスを煽った。
「また降り出しじゃないの! もう!」
「俺に当たるなよ……」
「だったら、せっかく生かして連れてきたアイツに話聞いてみりゃいいんじゃねェの?」
三下さんの指す方向には、縄で縛られたリアードドが気絶している。
「そうだな、起こすか」
そう告げると、三下さんは持っていたジョッキに入った中身を全てリアードドにぶちまけた。
「おら起きろォ! ボコボコ頭ァ!」
やることが豪快すぎるぜ、三下サァン。
三下サァン