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ニシトモの話によると、行商クエストは、北の森に居座るスターブグリズリーを倒さずともノークタウンに行ける唯一の方法なんだとか。
数回程の行商を繰り返し、顔を覚えてもらう。
要するに信用度をそれで上げながら実績を積むと、次は一人で行商に行ってみろという話になる。
「どうも、情報によれば、一人行商のクエストでは、スターブグリズリーが姿を現すらしいです。ご丁寧に、今日運んでいる物資は食料品類です」
やや、額から汗を流しながら。
ニシトモの糸目は、不安そうに更に細くなる。
「助かりました。ローレントさん、スターブグリズリーのソロ討伐してましたよね? 正直、護衛も何もかも一人で準備しなければならないんですが、今日に限って生産チームの男性陣は生産のクエストがあるんだとかで……、あまり戦いは得意でないんです」
「そうなんですね、でもここにぶらっくぷれいやぁがいます!」
俺が返事をする前に。
荷物の上からツクヨイが胸を張って豪語していた。
ニシトモの巧みな話術に乗せられて。
再びスターブグリズリーとの一戦へと。
連れて来られてしまったのさ。
「ドロップ品はお譲りします」
「わーい! いいんですか? いいんですか? 嬉しいですマス!」
「……一人で倒せます?」
「ぬ?」
なんとなく、調子が良さそうなツクヨイに言葉を投げかけてみる。
万歳三唱して喜んでいたツクヨイが固まった。
「正直ローヴォがいたので何とかなったんですが、今回は連れて来ていないので、流石にソロは厳しいかなあ、ツクヨイさんにお譲りしますね」
「え、その……、すいません調子に乗りました。私倒した事無いんです本当は。もっと本当の事をいうと、一戦まみえた事すら、遭遇した事すらありません! ありませぇん!!」
「いやその、私としては皆で倒せれば何でもいいんですか」
そりゃそうだ。
と、言う訳で、来るべきスターブグリズリー戦は、メイン職業剣士であるニシトモと俺が前衛。ツクヨイが後方支援という運びになった。
「そうだ水運について、お話を」
「そうでしたそうでした」
行商クエスト用の道は、別マップに準備されているようで。
周りには聞いてる人もいない。
密会にはうってつけ。
時折出現する魔物はツクヨイの【ダークボール】が仕留めてました。
稀に捌ききれない時は、ヌンチャク投げたり。
六尺棒で打ち殺したり。
「東の川自体は、ノークタウンへと伸びてます。川幅も少し広がって、実際に細々と運航されているようです。最近は森も物騒で、少し落ち着きを取り戻した河原があれば、もっとノークタウンとの関係性が深くできると思っています」
ニシトモもニシトモで、大きなプロジェクトと言うか。
何かしら、受けているクエストがあるんだろう。
拠点製作する生産職とはまた違った目的。
行商プレイヤーともなると、また違った関わりでのゲーム進行になるんだろうか。
「他に、行商やってる人は?」
「もちろんいらっしゃいますよ。ええ、そう言えば、まだレイラさんには言ってませんでした。第一拠点が出来たら、そこでも一つ、何かしらの商いをやりたいものです。実際、公園にみんな集まって風呂敷広げてる景観って、酷くないですか?」
「はあ」
想像してみるが、別に慣れた光景っていうか。
そこまで酷い物ではないと思う。
「うーん、元々プレイヤーの交流場所ではありますが、風呂敷広げて物を売り続けるような場所ではないかと思います。噴水の使用規制も、未だ取れてません。色々と原因があるのではと探っていましたが、どうやらエドワルドさんも、町の住人も、その辺に関して良い印象を持っていないようでした」
「どうするんです?」
「拠点に専用のフリーマーケットでも設けられたらと思っています。ほら、そこだと自由が利くと思いますよ。状況に合わせて、公式サイトにも、公園の使用について無償期間の延長報告と終了後の取り扱いってのが書かれています」
「しりませんでした」
「あうう、私もです。今ちょっと調べてますけど、公園の利用にお金がかかるようになるんですか?」
「どうやらそのようですよ」
そう言ってから。
少し間を空けてニシトモは言った。
「利益を独占するつもりもありませんが、水運に関しては、桟橋付近の使用権を認められた私達の権利があります。ここで一つ勝負を仕掛けてみたい。そう思いませんか?」
「…………」
「出来れば、ツクヨイさん。ここでの話はあまり他言しないで頂きたく思います」
「す、凄まじい現場に遭遇しました! 良いでしょう、表から富を独占するなら、私は裏を統べるぶらっk」
「よく考えておきます」
ツクヨイを遮って発言した。
考えはわかるが、VRゲーがVRゲーじゃなくなる状況は少し……。
水運行商が一つのクエストなら良いけど。
いずれにせよ本格的生産をこなせと言われるなら。
あんまりお金とかも興味ないし。
あくまで自分に必要な分だけ稼げる手段であればいいのである。
「今回、水運のクエストが受けれれば、また、私達の世界は広がると思いますよ?あなた方がエリアクエストを解放しました、でも未だクリアまでは行けてません。何か、鍵となる物が足りてない。そう思いませんか?」
「言いたい事はわかります」
「今日は船を持つ商会へ伺う所まで持って行きたい。出来れば、その日の内に船を借り受けする事が出来れば御の字です。ローレントさんがきてくださって助かります。信用度が違いますから、漁師であり、川のエリアクエストを解放した方ですから——ねっ!」
唸り声が聞こえて、ニシトモが荷馬車を引いていた馬の手綱を引いた。
手合いはわかっている。
スターブグリズリーだろう。
俺達の道を、行く手を阻むように姿を表したスターブグリズリー。
【スターブグリズリー】Lv10
人の血に飢えて狂った羆。
人の味を、町と町を繋ぐ森の道を人が使うことを覚えてしまい。
虎視眈々と待ち続けている。
目は血走って。
口からは唾液を垂らして。
レベルは?
昔と一緒。
そんなに、強くないように感じるが。
余り油断はせずに行こう。
「目の前にすると、足が竦みそうですよ」
剣を抜いて構えるニシトモ。
「はわわ、初めて見ました。や、やばそうです?」
ツクヨイも【ダークボール】を身の回りに三つ浮かせて。
戦いの準備を始めていた。
闇魔法、不思議な挙動だ。
興味津々だ俺。
「レベル10です。三人でかかれば余裕です、では行きます」
得物の持ち替えはする?
六尺棒をレイピアにしておく。
六尺棒で距離を取ると、流石に剣士であるニシトモが手出しできなくなるだろう。
囮というか、インファイトでこっちに意識を集中させれればいいや。
「ブースト! フィジカルベール! メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」
あくまでサポートに徹しよう。
と、言う訳で。
持ち直してヌンチャク片手に特攻した。
「え、そう言う感じなんですか!?」
「ちょっとローレントさん! 闇属性は相手を異常状態にしてこそ本領発揮なんですう!」
ならさっさとやれよ。
と、心の中で思っておく。
自己鍛錬の足しにでもしてやる。
この熊に単独無双できたら。
バトルゴリラに勝てる筈!
「グルオオオオ!」
咆哮と共に右前足でのフック。
開脚してしゃがんで躱す。
すぐに起き上がって顔面に一閃。
羆の悲鳴が聞こえる。
あの頃の俺のままだと思ったら大違いだ。
左前足のフックと共に、目の前の顔が大きく開かれる。
噛みつき攻撃みたいだった。
「フッ! ハッ!」
ヌンチャクで歯を折りながら、再び顎の下にしゃがんで入り込む。
空ぶった左前足を掴んで、転がす。
かなり重たいが、ここまで事前作りをお膳立てしてやれば。
容易に崩れ落ちる。
「ひええ、おっつかないです!」
ひっくり返った羆に【ダークボール】が連続してぶつかっていた。
打つかって消えるんじゃなく。
バウンドして再びぶつかっている。
面白い性質の魔法だなあ。
「そこそこ良い物を買ったのに! 刃が通ってるかわかりませんね!」
隙をついて、ニシトモも斬りつけている。
毛皮硬いんだよな、この羆。
「刺した方が早いです」
レイピアを投げ渡す。
「おもたっ! ブースト!」
それでも剣士か。
ニシトモは剣を鞘に直すとレイピアを持ち直した。
羆は大きく暴れて、体勢を立て直した。
口を大きく開けて咆哮するが、声は聞こえない。
「沈黙、かかりましたよ!」
「吠えないのはマシですけども」
ニシトモが少し呆れていた。
咆哮をキャンセルするってすごいじゃないか。
闇魔法、侮れないな。
羆への攻撃法は?
鼻先を重点的に狙って行こう。
できればヌンチャクで牙と爪を圧し折っていく。
不意に、前足でのフックが来ると思った。
だが、股ぐらに鼻先が突っ込まれていた。
慌てて金的をガードする。
どうやら急所攻撃ではなく。
鬱陶しかった俺を空中にぶん投げる為だったらしい。
両手で鼻先を抑えたが、力では叶わない。
大きく上に飛ばされる。
掬い上げられる直前。
両人差し指を使って、羆の両目を潰しておいた。
五メートルくらい上に放り投げられた。
前転するように受け身を取る。
ダメージは?
HPにはまだ全然余裕がある。
羆は?
残り三割と言った所。
「ブラックスタッド!」
ツクヨイの【ダークボール】が変化した。
黒い球体にトゲが生えて、羆にアタックする。
トゲの生えた球体。
くっつき虫のように纏わり付いて。
地味にダメージを蓄積させてます。
「むふふ、こっから与えたダメージ分の爆発攻撃が出来るダークバーストを覚えるですよ! 一撃必殺のぶらっくぷれいやぁへの道ですます!」
なるほど。
ニシトモは纏わり付いた【ブラックスタッド】に気を取られている羆の後ろから。
背中を刺し続けていた。
地味だがナイス判断。
一気にかたをつけてしまおう。
ヌンチャクをしまって、大剣を出して、その辺においとく。
そして、六尺棒を使って頭上へ跳躍。
空中で天地が逆になった。
下には、羆。
アポート。
そして大剣・羆刀と共に。
ニシトモに振り返った羆の首を叩き落とした。
素材もゲットだぜ。
「相変わらず、魔法使いとは思えない動きですね」
「仕方ないですよ」
スキル構成はほとんど近接。
というか攻撃スキルに一切振ってない。
まあ今までギリギリ一杯で何とか戦えて来た。
これからもそのスタンスを貫いてみようとも思っている。
そう、攻撃魔法スキルは師匠スティーブンのあれ。
【スペルリジェクト】しか興味ない。
それまで、プレイヤースキルで我慢だ。
補助魔法で我慢だ。
【茶毛羆の皮】
重たいがかなり丈夫な皮。
あくまで革装備での重量級。
【茶毛羆の爪】
鉤状になっていて、かなり丈夫。
研ぐにはそれなりの技術が居る。
【茶毛羆の手】
珍味。煮込みにすると美味。
滋養強壮に良いとされる。
【茶毛羆の胆】
漢方に使われる。
【茶毛羆の骨】
太くて丈夫。
様々な武器の素材に使われる。
ツクヨイがドロップアイテムを見ながら言う。
「あ、胆と手が欲しいです」
「どうぞ」
「なら私も大丈夫です。あまりお役に立てませんでしたから」
俺の顔色をうかがったニシトモはすぐに辞退した。
もっともクエストが上手く行けばそれで十分何だとか。
それでは忍びないので、皮素材と骨は全て上げた。
「いいんですか?」
うむ、いいのです。
ぶっちゃけ爪があれば良い。
今度、魚鉤をもう二つでっち上げよう。
馬車は進む。
時折、遭遇するモンスターを蹴散らしながら。
ツクヨイはその間にレベルが上がったようで。
「わひー! ブラックスタッドがマックスになりました! ダークバーストに振ろうか、それともメディテーション系上げようか迷う所ですね! でもぶらっくぷれいやぁの心境と致しましては、攻撃魔法一択なんですが……」
【ツクヨイ】職業:闇属性魔法使いLv14
・錬金術師
嬉しい悲鳴を上げるツクヨイがチラ見してくる。
おい見るな。
攻撃魔法は【エナジーボール】しかもってない。
そして、俺は補助魔法しか今の所上げるつもりは無い。
「マジックプロテクトは取ってるんですか?」
「……悩みどころなんですねぇ。1ポイントでも振っておけばかなり使えるんですが、闇魔法は何ぶんじわじわMPを消費する事が多いのです!」
「ならメディテーション系に振っておくのも」
「おお、どちらにせよ威力の底上げにはなる模様ですね! 決めました、今回前衛にローレントさんいるので、マジプロではなく、ダークバーストとメディテーション・ダークを上げて行こうと思います!」
決断したツクヨイは、荷物の上でほくそ笑んでいた。
こうやって私利に溺れ笑った顔は、ブスだな。
普通にしてればミステリアスなのに。
ーーー
プレイヤーネーム:ローレント
職業:無属性魔法使いLv19
信用度:65
残存スキルポイント:0
生産スキルポイント:4
◇スキルツリー
【スラッシュ】※変化無し
【スティング】※変化無し
【ブースト(最適化・補正Lv2)】※変化無し
【息吹(最適化)】※変化無し
【フィジカルベール】※変化無し
【メディテーション・ナート】※変化無し
【エンチャント・ナート】※変化無し
【アポート】※変化無し
【投擲】※変化無し
【掴み】※変化無し
【調教】※変化無し
【鑑定】※変化無し
◇生産スキルツリー
【漁師】※変化無し
【採取】※変化無し
【工作】※変化無し
【解体】※変化無し
◇装備アイテム
武器
【大剣・羆刀】
【鋭い黒鉄のレイピア】
【魔樫の六尺棒】
【黒鉄の双手棍】
装備
【革レザーシャツ】
【革レザーパンツ】
【河津の漁師合羽】
【軽兎フロッギーローブ】
【軽兎フロッギーブーツ】
【黒帯(二段)】
◇称号
【とある魔法使いの弟子】
【道場二段】
【復讐者】
◇ストレージ
[スティーブンの家の客間]
セットアイテム↓
[カンテラ]
[空き瓶]
[中級回復ポーション]
[夜目のスクロール]
[松明]
※残りスロット数:7
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ※デスペナルティ
【グレイウルフ】灰色狼:Lv5
人なつこい犬種の狼。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき][引っ掻き][追跡]
[誘導][夜目][嗅覚][索敵]
[持久力][強襲][潜伏]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
ーーー
今仕事終わりました。
帰って来ました。
間に合いました。
よっしゃああああ。
書きダメが無くなって行くよ。
書くよ。
沢山の感想ありがとうございます!
デスペナはテイムモンスターが死んでも、テイマーの信用度が下がりますよ!




