-477-※※※カイトー視点※※※
カイトー編はこれでおしまいです。
「おや? 喋ることを許可した覚えはないですが……まあいいでしょう」
今にも崩れそうな音がする地下室内で、ジョバンニはハザードに指示を出す。
「撹乱狙いで、あわよくば地下室崩壊とともに私たちを倒すつもりだったのかもしれませんが、些細なことです。ハザードさん、そろそろ亀裂がうるさいのでなんとかしてください」
「……潰れるのは防げるが、根本的な揺れ自体はどうにもできないぞ」
「それでいいですよ、お話しできる時間が稼げれば」
「……わかった。リペア」
座ってトランプタワー作りを再開するハザードは、杖を片手に持ってコンと床を叩く。
すると、ひび割れていた箇所が戻っていき、ワイが仕込んだ爆発騒ぎ前の地下室に戻ってしまった。
(……なんなんそれ、ありかいな)
メイド長と違ってうろたえなかったのはあいつがいたからなのだろうか。
「ククク、あなたは重要な人物でこれからも私たちに協力していただきますし、少しくらいならおしゃべりしてもいいですよ? 彼らと会うのもこれが最後ですからねぇ?」
ジョバンニはくつくつと笑いながらアンジェリックさんの顔を覆っていた麻袋をとった。
顔があらわになったアンジェリックさんはキッとジョバンニを睨み付ける。
「そっちの提案に協力するのですから、この場で殺めるのはやめなさい」
「命令? ククク、立場わかってるんですか?」
「わかっているからこそ、言っているのです。妾が協力しなければ、あなたたちは精──むぐっ!?」
そこまで言いかけたところでジョバンニが彼女の口元を掴んだ。
「関係ない話は今しないでくださいね? 本当に隙あらばですねえ、この性悪女。でもまあ、フレンドリストも全部消去させて、アバダーも魔人が拘束してますから、闘技大会が終わってこの場から立ち去れば、もうログインできる環境は私たちの拠点でしかありませんし、ククク、立場最悪ですね、クックク」
「あんまり汚い手で触らないでくださる? 臭い薬品みたいな匂いがして虫酸が走りますわ?」
その言葉に「確かに」とリアードドが爆笑していた。
だが、ギロっとジョバンニに睨まれて、リアードドは手で口を押さえた。
「……その声は……アンジェリックの、姐さん……」
「コーサー……」
アンジェリックさんの声を聞いて、コーサーが意識を取り戻したようだ。
顔面血だらけ、そして両足を折られてるのに、痛みに顔をしかめることもせず、強い目でアンジェリックさんを見つめたいた。
「こ、こいつらのところへ……向かってはいけません……」
「コーサー黙りなさい。命令です。もう二度と私の前に現れないで」
ジョバンニから手を離され、俯いたアンジェリックはコーサーと目を合わせることもせずそう吐き捨てた。
「なに言うてんねん! それが命がけで助けに来た人の言うことかいな!?」
勝てない相手でも立ち上がったコーサーを見て来たワイは、そんなことをいうアンジェリックさんが酷く嫌な人に見えて、思わず声を荒げてしまった。
「そ、そういえば……カ、カイトーさん……なんでここに……」
「コーサー黙っとき!」
いえないこともあるはずやから、代わりにワイが言ったるんや。
「コーサーは助けに来たんや! なのに、なのに、なんでアンジェリックさんはそんなことが言えるん……」
「……」
うつむくアンジェリックさんの体が少しだけ震えていた。
ポツポツと顔から垂れる雫が見える。
唇噛み締めて、必死に感情を押し殺すアンジェリックさんがおった。
コーサーもそれを見て、何かを察したように言う。
「カ、カイトーさん……いきましょう……今はもう大丈夫です……」
「へ? 何がやのん?」
「絶対連れ戻しにいきます……もっと強くなって……」
「──あのさあ、なんかこのまま帰宅する流れになってますけど、どうしてこちらがこのまま大人しく逃すとおもっているんでしょうかね?」
ジョバンニがセリフの途中で口を挟んできた。
コーサーのセリフに合わせて、あくまで自然な流れでこの場を後にしようと思っていんやけど、さすがにうまくはいかんみたいやな。
ジョバンニは言葉を続ける。
「そこの悲劇のヒロイン気取りは、まだ自分の立場が上だって思ってるみたいですけど、もういいですね面倒です。元々、プランを早く進めるための材料に過ぎませんし、リアードドさん、この二人はワンコロでどうぞ」
「よっしゃああああ! ツーコロだな! でも一人死にかけてるし1.5コロってとこか?」
「この、外道者!」
約束を目の前で破られたアンジェリックさんは、ジョバンニを睨みつけてそう吠えるが、彼はニタニタ笑って知らん顔している。
「……カイトーさんだけでも……逃げてください」
「あかんてコーサー! 両足ボキボキに折れてるやろ!」
「でも……この状況は……」
コーサーはリアードドに目を向ける。
「逃すわけねぇだろ? 発散させてもらうぜ? テメェら二人でよ」
だ、そうや。
絶体絶命ってこのことやな……って思っていたら、不意にハザードが立ち上がった。
「ジョバンニ」
「なんでしょう?」
「魔人に人質を抱えるように指示しろ。今すぐこの場を離れるぞ」
「はい? 一体どうしたんです?」
「神聖な占いの結果、リアードドは死んで、こいつらは助かる運命にあると出た」
「そうですか……」
ハザードからの言葉に、先ほどまでニタニタとふざけた笑いを浮かべていたジョバンニが急に真剣な表情になる。
それに対して、リアードドが返す。
「はあ? どう見ても、俺がこいつら二人を殺す状況だろ? もう許可が出たんだしこれ以上寸止めお預けはきかねぇからな、無視するぞ」
「なんでもいいが、俺は先に行く」
「なら私もハザードさんといきましょうかね。悲劇のお姫様に殺されるお仲間を見せつけられないのが残念ですが、まあ殺すならどっちにしろ一緒でしょうし、リアードドさん後はよろしくお願いしますね」
ジョバンニはアンジェリックさんを抱えるように魔人に指示すると、ハザードの後を追ってこの地下室をそそくさと後にした。
助かったのか、と一瞬思ったが、目の前には依然として昂ったリアードドがいる。
一人残されたリアードドは、
「ごめんなあ、ぬか喜びさせちまって。でもあいつの占いはだいたい外れるから、テメェらが俺に殺されるのは既定路線なんだ? だからああああ、今から殺おおおおす!」
「ひっ! か、かんにんしてぇな!!」
ケダモノのように殴りかかってくるリアードドをかわすが、かえって逃げ場である扉から遠くなったしまった。
「ス、スキルは使えんし……ど、どないしよう……」
「カイトーさん、私を置いて逃げてください!」
「それはあかんねん!」
ここで逃げても、ローレントはんやったら仕方なかった。で済ませてくれるかもしれんけど。
(しれんのやけど……逃げたらワイの中の何かがおしまいになる気がするんや)
ワイはデスペナルティになっても復活するが、ただのNPCであるコーサーはどうなるんや。
だったら、何としてでもコーサーだけは逃す方法を考えなければいかん。
だが、
「こんな狭い部屋で鬼ごっこはすぐ終わっちまって楽しくねえだろおお! もっとなんか面白い遊びを考えろよおお!!」
無理や、正直単純な戦闘力はコーサーよりも下や。
そんなコーサーを赤子同然にひねるリアードドに勝てるわけないやん。
でも、逃げへんかった……。
最後まで頑張ったんや……。
コーナーに追い詰められた。
「くっそおおおお──!」
状況をどうにもできなかった歯痒い思いや悔しさが声になって出るが、どうにもならん。
この状況ひっくり返すような奇跡は起こらんし、ワイはそんな物語のヒーローでもなんでもない。
(本当に為す術がない、ほんまごめんな、コーサー……)
リアードドの拳がすぐ目前に迫り、ワイは目をつぶった。
(……あれ、いつまでたっても殺されへんのやけど……?)
ひょっとして、もうとっくに殺されてデスペナったのかと思うが、痛覚設定マックスにしてるから、この状況はかなり違和感を感じた。
そして恐る恐る目を開けると……。
「いきなりなんだ……?」
目を真っ赤に狂わせて殴りかかるリアードドの拳を片手で受け止めるローレントはんが、目の前に立っとった。
次回いよいよローレント回。
そして次々回より、“いつもの”です。
GSO二巻のスペシャルサンクスキャンペーン2/9までなでなので、何卒よろしくお願いいたします。詳しくは下の特設ページよりより。




