-474-※※※カイトー視点※※※
カイトー編、まだ続く。
騒ぎに便乗し、扉を少しだけ開けて中の様子を伺う。
「外道……ハッ、それのなにが悪いんだよ? ちょっとだけかくれんぼが上手いからって、調子に乗んな」
突然出現したコーサーを前にして、おもちゃを見つけた子供のような顔をするリアードド。
「かくれんぼが上手? ククク、リアードドさんの冗談は笑えますね。私はいつ出て来るのかと思ってましたけど?」
「俺もだ」
「……チッ、俺の専門はあくまでこっちなんだよ」
ジョバンニとハザードにそう言われたリアードドは、舌打ちしながら大剣を抜いた。
黒紫色の刀身が怪しく光る禍々しい大剣。
ワイのお宝鑑定能力で、かなりのレア度が見て取れた。
「……」
周りを睨みつけ、ジリジリと間合いを図りながら、コーサーも剣を引き抜く。
コーサーの武器は黒鉄製のレイピアか。
見たところ、かなり初期に出回っていた黒鉄武器と同じくらいの価値やな。
(あかんてコーサー、太刀打ちできへんで、それじゃあ……)
だが、コーサーの瞳を見る限り、戦意は全く失われていない。
「リアードド」
緊迫した空気の中、ハザードが呟いた。
「剣の風圧でトランプタワーが倒れる。今、神聖な儀式中だ」
「はぁ……? これから戦闘するってのに、テメェはマジでマイペースだな」
「リアードドさん、神聖な儀式は邪魔しないようにしましょうね」
ジョバンニもハザードの味方につき、そう言う。
リアードドは「くそウゼェ」と悪態をつきながら、大剣をしまうとアイテムボックスにしまった。
「ハンデってことにしといてやる」
両拳を握りしめてガツガツと拳を打ち合わせたリアードド。
そんな彼に向かってコーサーはレイピアを構える。
「大剣持ってた方が楽だったんだがな」
確かに、狭い地下室内での戦いならば、取り回しの易い武器が有利や。
敵さんはそれを狙って大剣を捨てさせたのか、と思っていたが、ハザードはトランプタワーに夢中で、ジョバンニはニヤニヤしながらこの緊迫した状況を楽しんでいる。
要するに、武器はなにであっても関係なく戦えるっちゅうことなんか?
(ローレントはんやないから詳しいことはわからんが……それにしてもコーサーどうすんねんこの状況。なんか身につけている装備一つ取ってもなに一つ勝てる要素ないやんか……?)
もう一つ、気になったので未だフードを被せられ、後ろ手を縛られている女の人をこっそり鑑定する。
(あれ、アンジェリックさんやん……? なんでこんなところにいるんや……?)
別の場所に拉致されました、ってんならわかる。
でも、ここ、ケンドリックの屋敷の地下やで。
なんでこんな場所に、拘束されて、魔人に見張られとるんや。
確か、コーサーはローレントはんのところからアンジェリックさんのところに出向させられとったな。
……なるほど、それで捕まったアンジェリックはんを助けに来たんか。
細かい話はわからないが、地下室にブチ切れたコーサーがいることの理由はこれでええやろ。
でも……、
(コーサーが助けに来てんのに、なんでアンジェリックさんは無言なんや……?)
にらみ合い、緊迫する状況。
敵は4人。
内一人は魔人っぽいし、そんな中に飛び込んだコーサーは自殺に行くようなもんやろ。
やのになんで、アンジェリックさんはなにも言わんのや。
「……じゃ、手っ取り早く叩きのめすかッ!」
頭の中で状況を考察しているうちに、コーサーとリアードドの戦いは始まっていた。
「くっ!」
身体強化スキルをがっつり積んだリアードドがコーサーに迫る。
コーサーは後方に目を向けながら後ろに下がり、さっきまで隠れていた木箱の残骸を蹴り上げる。
「なかなかやるじゃねぇか」
リアードドが歯をむき出しにして笑う。
そらそうやろ、だってあの人の下で戦いについて回ってたことがあるんやし。
マフィアを潰し回っていた情報なんて、盗賊ギルドには筒抜けやったで。
結構熾烈な戦場に連れて行かされてたらしいから、生き残るだけでそれなりに強くなれるやろ。
「今まで──貴様よりも、もっと強い人を側で見て来たからな!」
黒鉄製のレイピアの切っ先を小刻みに動かし、フェイントを用いながら踏み込んで、一閃。
「見てて強くなったら誰でも最強じゃねぇか、馬鹿が」
コーサーのレイピアは半身になったリアードドに躱される。
そして、そのまま顔面を鷲掴みにされ石造りの床に思いっきり叩きつけられた。
「ぐはッ──!!」
「ったくよぉ、掠っちまったぜ? 見てるだけでもそれなりに強くなれんのかもな?」
顔面を掴む手に力が込められ、地下室にメキメキとした嫌な音が響く。
「ぐっ、この……ッッ!!」
叩きつけられた衝撃で、レイピアは手元から離れて地下室の片隅に転がっている。
それでもコーサーはなんとか抗おうとするが、基本的な腕力の差で手も足も出ないようだ。
「おっと、目潰しか?」
「……貴様たちは……絶対に……」
コーサーは顔面を地で染めながらも、リアードドの腕を握りしめる。
戦意はまだ消えていなかった。
(正直ワイが今行っても、なんの解決にもならへん……)
あらかじめ“用意しとったモン”はあるけど、それはあくまで逃げるための撹乱用。
(あかん、なんか体が震えてきたわぁ……)
ここで助けに入れたら、かっこいい。
ヒーローになれるやろうけど……ワイはそんな器じゃないねん。
「ああん!? なんだって? 絶対にどうすんだよ!!」
ゴッゴッゴッゴッ。
硬い地面と後頭部がぶつかる音がなんども響き、リアードドの腕を握るコーサーの手が力なく垂れ下がった。
「……リアードドさん、そろそろやめましょう」
「ああ? もう止まんねぇよ、身体が勝手に動いちまうんだよ」
決着はついていると言うのに、リアードドは目を赤く血走らせながら叩きつけ続ける。
「キレるのは悪い癖ですよ、リアードドさん? 彼、泳がせてましたけど“あの人”に繋がる一応重要人物なんですから、できればこちらのカードとして捕らえて置きたいんですよねぇ? そちらの姫君と一緒で──」
クツクツと笑うジョバンニは、セリフの途中で気持ちの悪い笑顔をやめた。
「──だから、そろそろやめましょうね?」
「……チッ、すっかり身体が高ぶっちまったぜ。なんとか熱を冷ますもんは……」
ギィ……。
静かになった地下室内に、重たい音が響く。
ワイが隠れとる扉の音。
(あっ、し、しもうた。恐怖で手が震えて、扉に触れて……)
「なんだ?」
「おや、ケンドリックさんには、この場所に誰も入らないようにしろと言っているはずなんですけどねえ?」
「馬鹿の事だから、伝え忘れてたとかじゃねぇの? 適当に指示だけ出してたんだろ?」
「ククク、みんな彼を馬鹿にしてますけど……本当に知らないんですねぇ……」
あかん、身体が震えよる。
さっきの戦いを見ていて理解した。
どうやって逃げるか考えるより先に、この男はワイを殺せる。
「あ、えっと……」
「おいおい、なかなか俺好みで可愛いじゃねぇの。まあ震えんなよ嬢ちゃん。とりあえず中に入れよ」
「え……」
「リアードドさん、ナンパですか? でも、あなたの表情がすでに怖いから無理だと思いますよ? 確実に」
どうやら、中身が男だとはバレてないらしい。
コーサーはバレてたみたいやけど、ワイはバレてなかった。
職業的に、感知もされにくいみたいやな。
なるほど、怪盗職の三次転職を済ましとるワイの変装も見破れないみたいだし、本当に迷ってしまったメイドやって思っとるなら……、
──まだ勝機はある。
かっこいいコーサーを想像した方すいません。
さすがに側にいただけじゃ、強くなれないのです。
最初はただのチンピラだったのですよ。
ちなみにローレントは、コーサーに武術の才能は無いと評価しています。
でも、それ以上に熱い物を持っていると、評価しています。




