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乱闘イベントが終了し、改変された地形はスッと元に戻った。
俺たち乱闘イベントの参加者は、みんな各々の席へを戻って行く。
場所が砂漠から移り変わり、地中海、さらに太陽が昇らない永遠に夜の歓楽街など。
いろんな地形でのバトルが展開してかなり楽しめた。
ダンジョンのお宝の他にも、歓楽街にはカジノのような場所。
地中海にはお宝が溢れる島が存在するなど、とてもバラエティに溢れる体験だった。
『さてと、先行体験みたいな感じだね? どうだったかな?』
『聞いてねぇぞー!』
元に戻った闘技大会会場で、GMベータにそんな罵声が飛んでいた。
おそらく、乱闘イベントにかこつけた、第二段大型アップデートの先行体験を逃したプレイヤーだろう。
もしくは、そうとは知らずにイベントに参加せずにぬくぬく見ていたプレイヤー。
『言ってないからね!』
『華麗な言い返しお見事GMベータ。声を荒げるのもわかりますので、補足説明しておきますと、第二段アップデートにより、その全てが合わさった街へ行くための手段が新たに構築されます。なので、明日の今頃にかけて各種交通手段が然るべき場所に作られますのでご安心を、──』
そして間を置いてGMデルタは言葉を続けた。
『──行くに値するプレイヤーであれば。ですけどね。普通にレベルを上げていればどんなプレイヤーでも上がっていきますので、ご安心を』
ご安心を、で二回もセリフを締めていた。
それよりも、GMデルタのギロリとした静かな眼力によって、
「お、おおぅ……」
と、野次を飛ばしていた馬鹿達は黙ってしまう。
情けないなあ……。
『今までプレイヤーの開拓に任せたままだったんだけど、小競り合いトリガーも解放されて、みんな各々色々あるっぽいから、ついに公式堂々介入さ!』
「……色々って、なんのことなのかしらねぇ?」
そんなGMベータの声を聞きながら、レイラがため息を漏らす。
俺たち生産組のメンツは、全て闘技場の周りにある出店ゾーンへと戻って来ていた。
なんとも、今から行われるこのイベントのメイン。
闘技大会に出場するのはトモガラだけだと言うのだ。
ちなみにトモガラは別のダンジョンを一人で荒らしていたそうだ。
「十中八九プレイヤーの小競り合いが加熱してるからマップを広げて散らそうって魂胆だろ?」
レイラのため息にミツバシが答える。
俺もおそらくそう思う。
「ま、今更よね。こっちで開拓しなくてもマップが広がるなら、なんでもいいわよ」
「マップというより、プレイヤーの行動できるエリアよね?」
彼らの話にセレクも混ざる。
「そうね。か弱い生産職は徒歩での移動となると、護衛をつけないと未だに狩られる危険があるから、それも考慮するとなかなか拠点移動できないもんだし、ラッキーだわね」
か弱い?
思わず大量に皿に盛ってあった料理を食べる手を止めた。
「なによ?」
「いやなんでもない、もぐもぐもぐもぐ」
なんか睨まれてしまったので大量に食べてる雰囲気を装ってごまかした。
あ、そうだ。
そういえば言っておくことがあったんだった。
「みんな闘技大会終わったらテンバーの公園集合だ」
「え? いきなりなによローレント」
脈絡なしに言いだしたもんだから、みんながキョトンとした表情を作る。
「運営側がアプデで用意した移動手段なんぞいらんぞ。終わったらみんなで王都にテレポートだ」
連れて行ける人数はパーティ単位に限られてしまうが、時間を置いて行えば問題ない。
王都にテレポ、そしてフレンドリストからテレポ。
の繰り返して3時間もあれば主要メンツは連れて行けるんだ。
「ああ、そういえばその手があったわね……私たちには地形無視したアッシーがいたんだったわ」
おい、アッシーってなんだ。
「そういえば、確かに人を移動させる手段を手にいれたんですよね、ローレントさんって」
料理を運んでくるミアンも話に乗った。
「どんな食材でも高品質。サイゼちゃんが聞いたらもうすがるように食材集めてこいって言われそうですねえ」
すっかりウェイトレス姿が様になったミアンは、満天の笑顔を俺に向けながらそんな恐ろしいことを言った。
目下調理中のサイゼが聞いていなかったからいいものの、俺は彼女達に頼まれたら大量の飯を面倒見てもらっている都合上、すごく断りづらいのだ。
「ニシトモあたりが聞いたら、多分こき使われるにちげぇねぇな」
ボソッとイシマルがそんなことを言った。
心配には及ばんよ、すでに倉庫間の荷物の搬入でこき使われている。
こき使われていると言うかコスト削減に大きく関与するから、自発的に行なっているのだ。
勢力を伸ばすためにはお金が必要になってくる、無駄金は使っちゃいられんよ。
「まあ、各自拠点移動のために色々と準備を重ねておかないとね」
「そうだなレイラ。今までずっと拠点にしてきたテンバーが遠くなるのは寂しくなるってもんだ……」
「ミツバシ、たまには里帰り気分でくるのもいいのである。農業従事プレイヤーのブリアン達は、町長からの頼みもあってNPCの人材育成をしなければならないから、居残り組なのである」
「おっと、そうだな。ブリアンの顔も見にたまには戻ってこないと」
名残惜しそうなミツバシ。
ブリアン達には農耕都市を進めてやりたいのだが、あくまでテンバータウンを基軸に活動をするのだろう。
テンバータウン周辺は資源となりうる土地がたくさんある。
二次生産職はすぐに拠点を移すことができるが、一次生産組はおいそれと動けない。
「せっかく外壁を利用したプレイヤー街をテンバータウン外周に作ったばっかりだったのになあ」
イシマルも、自分が削りだした石材が大量に使われているテンバータウン外周を思い浮かべているようだ。
「……すまんな」
これも俺の不遜が原因だ。
もう少し周りに目を向けていればよかったのかもしれん。
第一拠点だって結局は俺が自己満で潰したもんだしな。
「いいのよ、ローレント。いつか絶対取り返す。そんなチャンスがくるはずよ」
呟いた俺に、レイラが珍しく優しく微笑みながらそう言ってくれた。
そう言ってもらえると少しは気持ちが楽になるな。
許した雰囲気を装っていて、地味にまだ許さん。
ニシトモと結託して経済制裁をとことん行なってやるのだ。
そのためにはお金が必要だ。
やってやろう、完膚なきまでに。
レイラの言うとおり、チャンスはくるはずだ。
今回は裏ギルド側に有利なイベントだったらしいが、バランスはどこかで取られるだろう。
そのチャンスを、虎視眈々を待ち続けるのだ。
「そういえば、お前らダンジョンの一番奥のボス倒してたよな? お宝ゲットの瞬間は写せないっぽいから見れてないんだけど、何かいいものあったのか?」
次回お宝回?




