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更新遅れました!


「両手両足……両目両耳……?」


 俺を見下ろしながらそう告げたフィーの言葉を心の中で反芻する。

 それ拷問じゃん……何かの間違いじゃないか?

 リアルでやられたら、当然のごとく廃人になりかねないけどな。


「うん」


 尋ねると、フィーは疑問で返すことなく大きく頷いていた。

 ガチか?


「よく、思い出してみたら?」


「ふむ……」


 ……海外武者修行中に死闘を演じた手合いはなんとなく覚えている。

 だが、そこまでひどいことをした覚えはない。


「ヒントをくれ」


「第三次中東内紛」


「む」


 海外武者修行中、中国から中東を経由してアフリカやらなんやらまで回ったその帰り道に偶然かち合ったものだな。

 あの時は、ただただ死地へ、死地へと高みを目指したような、そんな中二くさい時代だった。

 死線を超えることで人は強くなれると狂信的に思っていた、時期である。


「あなたからすれば敵側だったアタシの父は、あなたに作戦を潰され、市民に捕縛され拷問を受けた。その結果、失ったものが両手両足、そして両目両耳だけど?」


「…………」


 …………しらねぇ……。


「か、関係ないくね?」


「そんなことはない」


「命あっての物種じゃないのか、それ」


 昔っから世界の悪として報道されていたとある組織。

 その組織を援助しているリストが明るみに出たことで大規模な戦争へと発展。

 連絡手段すらまともに持ち合わせていなかった俺は、「なんか中東大変なんだなぁ」と思いながら、日本政府がレッド指定する危険地域を単身で渡り歩いた。


 だから、だ。

 戦争に関しては俺は全く持って関係ない、むしろ逃げ遅れた一市民。


「思い出したぞ」


 その折に、すっごい偉そうな軍人みたいなのに捕縛られそうになって返り討ちにした記憶があった。

 ついでにお世話になったアフリカの原住民から、お別れの時作ってもらったすごく怪しげなお守り人形を破壊されたから、仕返しに武器置いてる場所を爆破して、その場に居合わせた兵士全員をゲンコツ制裁して火をつけたんだった。


 結論。


「俺、悪くないだろ」


「悪い」


 断言された。

 話通じねぇなおい。


「アタシの父はもともと情報提供役として連合軍に身柄を拘束される予定だった。それを台無しにしたってことはわかる?」


「……」


 彼女の話によると、内紛は連合軍によって瞬く間に抑え込まれて、戦火の広がりはずっと昔にあったとされる二度の世界大戦よりも小さなものだったらしい。


 フィーは、その頃よりだいぶ前から中国の方へ留学という形で逃がされていたんだとさ。

 で、中国で父が迎えに来るのを待っていたのだが、来ず。

 戦争も集結し安全になったということで、業を煮やして帰ってみると、だるまになった父親がいた。


「それで、俺に恨みを向けるのか?」


 っていうか、ぶっちゃけ情報残さず制圧して、そのまま放ったらかしでその日のうちに国外に出たわけだが、どうやって追って来れるのだろうか、それが謎だった。


「個人的に集めた情報がいくつか参考になった」


「ん?」


「まず、武神の怒りを買った。と怯えた父が言ったことと……」


 そう言いながらフィーは大きく首を刈るのに適した湾刀をアイテムボックスから取り出して俺の首に当てる。


「中国で護身術を習っていた師匠が、よく貴方のことを話していた」


「……ええ、それってまさか」


龍嶮ロンイェン


 なんと、現実方面での妹弟子みたいなもんだったのか。

 それだけで決めつけないで欲しいけどなぁ……。


「武術界隈で、貴方がこのゲームにのめり込んでるのはいっぱい広まってるよ? だから私もこのゲームを初めてみて、丁度いいことに敵対していたPK側に身を隠して力を蓄えた」


「ご苦労なこったな……」


「父と師匠から仕返し禁止って言われてるけど……ゲームの中なら問題ないよね?」


 フィーは湾刀を振り上げ、


「本当はリアルで貴方を切り刻みたいけど、これで勘弁してあげる」


 振り下ろした。


「リフレクト」


「──ッ!?」


 カキンというカウンターが決まった音が響いて、彼女の刃が俺の首を刎ねるには至らず弾け飛ぶ。

 そして俺は魔装を発動させると、彼女の腹部に向かってスペル・インパクトをぶつけた。


「ぐはっ!」


 衝撃で吹っ飛び、数十メートルほど転がるフィーを見ながら俺は立ち上がる。


「毒が効いてない!?」


「残念ながらその毒は俺が手に入れたもんだ」


 強力な毒の大部分はツクヨイに作ってもらった大きな強化瓶に入っているのだが、それが全てだと限った話ではない。

 俺はこう見えてケチくさいからな、倉庫以外にも小分けにしてアイテムボックスに入れてあったりする。

 さらに毒を使って抗体を作成したり、その身に受けることで毒耐性がつく仕様になっているんだから、あの毒が倉庫から奪われた時点で、毒を使ったPK行為がどこかで行われるのは自明の理。


「耐性つけてないわけないだろうに」


「……眼球を抉ったのはブラフ? とことんドMなおじさんだね?」


「こっちにも色々と事情はあるからな」


 ニュギー達PKを戦った後から、捕まえて拷問するよりも、逆に倒される振りをして勝手に情報を喋ってもらう方がいいと判断した。

 こういう手合いは、自分が一番有利な状況で偉そうに自分語りをしてくれる。

 もっとも、得られた情報は全く別物で少し損したけどな。


「仕返しに来ることは百歩譲って受け入れてやる」


 だが、


「お前の父に言っておけ、今の有様も受け入れろってな。俺がお前の父親がしてきたことが自分の身に返ってきた結果だってな」


 人の命を粗末にしたら、結局それは全て自分に返って来る。

 戦う人は戦って死ぬ。

 そう、俺もいずれ老死ではなく、戦いの渦中に命を失うだろう。

 そんなもんなんだよ、人生ってな。


「今の有様は過去にやってきたことが全て繋がってくる。死に際が人生を表すぞ。よかったじゃないか、まだ死ななくて?」


「父は関係ないバカにするな! これはあくまでアタシの独断による私怨行為だ!」


 激昂を露わにしながら、斬り落ちた腕を鎖分銅で操ったフィーが音速で迫る。


「なおさらいかんだろ」


 風属性の魔装なら、音越えの領域に足を踏み入れることが可能かもしれんが、俺にはまだ無理だ。

 だが、今までの経験則やら慣れをもってしてそのタイミングに合わせることは大いに可能。


 この領域までプレイヤーの人外化が進むと、未取も使えんしなあ。

 なんて思いながら半歩横に移動し彼女の攻撃を躱す。

 そして分銅の鎖を握り動きを止めて、引き寄せると脳天にゲンコツをかます。


「ぎゅうっ!?」


「千歩譲って謝ろう。だが、武術をそんなくだらんことに使うのはダメだな」


「……散々私怨でPK蹴散らしてきたおっさんが何言ってんの?」


「……」


 …………。

 ……。




 返す言葉が見つからなかった。

 黙っていると、フィーが武器を構えて言葉を続ける。


「まあいいよ、探りたかった情報は別なんでしょ?」


「む」


「PK倒して情報かき集めてるらしいけど、特別に教えてあげる」








シリアス回と思わせといて過去因縁のギャグまがい、すいません。

とりあえず次回予告。




なにい?ローレントがピンチ?

PKの新装備、誰が作った悪魔武器。

その攻撃力は、魔装状態のローレントを一蹴する。

もう、舐めプは許されない……。






で、お届けします。





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