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 フィーの手にあるナイフには、どうやら何かしらの毒が塗ってありそうだ。

 魔物が持つ毒に対しては、あまりにも強すぎるということで大型アップデートの際に調整のメスが入れられている。


 抗体ポーションをすぐに使用すれば解毒が容易になるとか。

 何度か同じ毒を受け続ければ、自然と耐性がついてその毒が効かなくなるとか。


 それでも初見の毒はまだまだ現役。

 知らない魔物の毒なんかが裏で出回っていることを考えると、容易にフィーの暗器による攻撃を受けるべからずといったところなのだ。


「距離を取るんだ?」


「無論だ」


 刀から六尺棒に得物を持ち替えた理由は、リーチによるアドバンテージを得るためでもあった。

 ナイフと刀であれば、刀の方がリーチや威力に於て圧倒的な優位性を持っているかと思いきや、彼女のキャラメイクで絶対いじっただろってくらいの異様な長さの手足でその優位性は失われた。


 むしろ、あの腕からデリンジャーよりも数段早く、そして熟練されたナイフさばきを使う。

 取り回しと毒を鑑みた結果、やや刀は危険だと踏んだのだ。


 万全を期すると言った以上、舐めプはしていられない。


「まあ、一撃貰えばアタシの勝ちだよね?」


「やってみろ」


「うん、今からするけど──?」


 再び、音速での直線的な移動。

 この機動力はかなり羨ましい。

 一体どんなスキルなのか、気になるところだ。


「ほらほら? 二撃目はないよ?」


「スズメバチみたいだな」


「……?」


 例えた俺が馬鹿みたいじゃん。

 戦いの最中、急に素に戻るのだけはやめてほしい。

 そんなこんな思考している間にナイフが目の前に来ていた。


「むんっ」


 六尺棒を手放し手甲で受け止める。

 塗布された毒により滑りがいいが、柄の部分で引っかかって止まる。


 あ、まずいな。

 しぶきが左目に。


「へえ? 的確に片瞼だけ閉じてガードするって、恐怖心とかないのお兄さん?」


 ジュウッ、焼けるような痛みが瞼を貫く。

 それを見て顔をにやけさせながらフィーは言葉を続けた。


「そうだ知ってる? スズメバチの女王って、毒を飛ばしたりするんだよ?」


「くっ」


 かなり多めに毒を塗っていたな?

 なかなか相手の裏をつく。

 ナイフを振るっている時に気づけるかと思いきや、途中でナイフを変えたか、毒に付け直したんだろうな。


「フフッ! チェックメイトかな? 溶解系に追加してテンバータウンで一時期猛威を振るっていた出血毒よりも更に凶悪なムカデ毒だってさ?」


 フィーの言う通り。

 毒は蛇の出血毒とかそんな類ではなく、溶解系の毒。

 焼け付くような痛みは瞼を浸透して眼球に届きうるな。


「羅刹、食え」


『──やった、いただきます』


「──ッ!? 刀がひとりでに動いた?」


 アポートもアスポートも使っていない中、六尺棒に持ち替えた折、その辺に投げ置かれていた羅刹ノ刀がスッと動き出して俺の左目に突き刺さった。


 いってー。


 だが、瞼とともに左目がごっそりなくなって、そして状態異常も消える。

 痛みはあるが、まあ毒に犯されるよりいいだろう。


 羅刹ノ刀のあの切れ味。

 よほどの名刀なのかと思いきや。


 人体に関してのみ捕食みたいな効果が合わさり、あの切れ味を生み出していると言う。

 チェーンソーみたいに超高速で削り取ってるのだろうか。

 PKを斬って斬って斬りまくって、それに伴ってパワーアップするとともに、こんな芸当も可能になっていた。


 なんにせよすごく強いからなんでもいい。

 深くは拘らないのだ。


「交換だ」


 右目で睨み付けると、そのまま左目に突き刺さった刀を引き抜いて切りつけた。

 迂闊だな、目の前で何が起こっても、相手にとどめをさすことを忘れないことだ。


 俺の自爆とも見て取れる光景に、唖然としていたフィーは、なんとか対処しようと身をよじる。

 だが、一手遅かったな、そのまま右腕を肘から斬り落とす。


「ッ!! やっぱり話に聞いていた通り、とんでもないくらいクレイジーなお兄さんだね?」


 ふむ、話に聞いていた通りとは……


「……やはりリアルで会ったことがあるのか?」


「いいや、会ったことはないよ。でも話には聞いてたよ?」


「ならば、裏ギルドから話を聞いていたとか?」


「いいや、リアルだよ?」


 ……話がこじれてる。

 なんか本当に最近話が通じない奴らばっかりだな。

 問答無用で殺しにくるから俺はその火の粉を払うだけで、言いたいことがあるなら言えばいい。

 クラフトはそう考えるとやはり理路騒然とした(?)プレイヤーキラーだったのだろう。


「もういい、とりあえず叩きのめして吐いてもらうぞ、お前らの親玉の情報をな」


「……へえ、自分が優位に立ったからっていきなり強気になるんだね、おじさん」


 ……おじさんだと?


「そんななりして、お前も一緒だろうが」


「わっ、怒っちゃった?」


「怒ってない」


 でも少しカチンと来た。

 こうやってまともに対峙して幾合もの打ち合いができていることが年食ってる証だ。

 それだけの実力を持っているやつは、ゲームに長けた学生ニートか。

 暇を持て余した武術家連中、そう武術系ニートだけだ。


「もしお前がリアルで俺と会っているならば、どこを壊されたか言ってみろ」


「…………」


「同じ場所を再び壊してやる」


 そう言うと、フィーの纏っている雰囲気がガラリと変わった。

 刀を正眼に構えてジリジリと距離を詰めると、再びボッと音速で動いた音が聞こえた。


 左か──。

 潰された左側は確かに死角が大きくなる、そこから狙われたらまずいな。

 体の向きを変えると、鎖分銅が飛んで来た。

 それを手甲で弾くと、次は彼女の投げたナイフが目の前に。


「マナバースト」


 ナイフも全部弾くが、警戒されていたのだろう。

 彼女は少し距離を取っていた。


「チッ」


 舌打ちとともに肉薄する、フィー。

 動きを冷静に予測して、肉薄して長い左腕を駆使して大きく抉りこむような暗器による斬撃を躱す。


「撹乱からの一撃か?」


 通用しない。

 そのままその気持ち悪い左腕に下から右手掌底。

 弾いて、骨を砕いて、関節を増やしてやる。


っ!?」


「さらばだ、名も知らん刺客」


 ラストは首を刎ね飛ばす。

 話は戦いが終わってからこいつの生首に聞くとしよう。


 ……む?

 フィーが笑っている。


「逆に言えば、交換狙いだったのはアタシの方かな?」


「ッ!?」


 背中に鋭い衝撃。

 彼女の右腕につけられた鎖が、俺の後ろにある斬り捨てたれた自らの腕に向かっていた。

 死角と、左腕を気にするあまり忘れていたな。

 と、言うよりも、斬られた腕を使って攻撃するなんて、俺くらいなものだと思っていた。


 ジュウジュウと肉を焦がしながら、毒が回る感覚。

 抗えずに膝をつくと、それを見るフィーが言った。


「両手両足、両目、両耳……全部かな?」









ー本編とは全く関係ない話ー


……不思議な帽子をかぶるローレント。


ローレント「舐めプはしてない、舐めプはしてない、舐めプはしてない」


帽子(本当に舐めプはしてないのか? 大人しく舐めプ認定された方が楽じゃないのか?)


ローレント(こいつ、直接脳内に!?)


ローレント「してない。絶対にしてない」


帽子「舐めプーーーーーー!!!!!!」



──ワアアアアアアアアア!!!!!




………………





…………





……






次回、舐めプかそうじゃないか、判明します。




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