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PKのニュギーを置き去りにして俺たちは先へと進んだ。
そんな折、三下さんがボソっと言った。
「どうすっかァ……?」
「ん?」
「戻った方がいいんじゃねェの? あくまでこりゃ勘の話だがァ……俺らがこうして乱闘イベントにいる間も、敵の親玉はどこかに隠れて登場の瞬間を待ってるんだろォ?」
「確かにそうだな」
だったら、イベントなんかやってる場合ではなく、そいつらが何か事をしでかす前に潰したらいいんじゃないのかって、三下さんは言っているようだった。
先手必勝は、戦いの鍵ではあるが……しらみつぶしに探すのか?
潜伏している状況は分かっているが、ノークタウンに集結しているレッドネームの数は膨大だ。
「だったらむざむざやられてからやり返すってェ、言ってんのかよォ?」
「レイラたちも拠点替えに賛成してるから、今さら何が起きても覚悟の上だろう」
テンバータウンの第一拠点が生きているなら、迂闊な行動に出れないが、こうして先にぶっ潰して新たな拠点へと移すことにした今、裏から手を回して首謀者を探す必要はない。
レイラやニシトモたちでも、深いところまで探れない連中だ、前に出て殺されるついでに囮りにくらいはなってやろうと思っているのかもしれない。本音はわからんがな。
「だったら情報探ってる意味ねェじゃねェかよォ……ハァ〜」
大きくため息をつく三下さんに言っておく。
「こうして探っているのはあくまで私怨込みだからな」
「……付き合わされる私にも身にもなりやがれください」
ツクヨイが会話に介入した。
面倒だな……。
「それはすまんかった。王都へ連れて行く」
「許す」
よし、許された。
これ、使えるな。
面倒ごと言われたら、王都王都言っておけばちょろいんじゃないの?
「ふふ、ふふふふ……いつか私も……というか、キャラ替えして……おねだりすれば……」
「まあまあ、十六夜さん。そのボソボソ感が墓穴を掘るんですよ。せっかく勝負に勝って可能性が見えましたのに、なんでこうなるんでしょうかねえ……?」
闇を育むダークネス十六夜の後ろからその様子を苦笑いしながら見ているモナカ。
さて、とりあえず話が進まないので無視するぞ。
「で、どうすんだァ?」
「決まっている。イベントももちろんこなすが、俺はまだ諦めてない」
やられたらやり返すことの執念深さで言えば、世界一を自称できるぞ。
イベントももちろん楽しんで、このダンジョンのおそらく最下層にあるお宝は全ていただく。
そしてある種、戦闘力のフィルターがかかるこのダンジョン内で下に行けば行くほど実力を兼ね備えたプレイヤーになって行く。
だった来るだろ?
ニュギー達をトラップの下の奈落の底に突き落とし新手のPK。
「まだ強いPKが残っている、そいつに情報を吐かせる」
フィーとかいう奴だな。
地の利を生かしてあっという間に片付けたが、とっさの判断力は長けていたと言える。
それこそ複数パーティを1パーティで相手取れるだけの実力を兼ね備えていた。
機転が利く、対処ができる。
これは頭で考えるよりも、勘や本能の問題が大きい。
人間あらゆることにおいて、とんでもない天才じゃない限り初見での成功率はラッキーがない限りほぼ失敗すると言ってもいい。
数の概念を知らない奴が、数を数えられるか。
そんな感じだ。
百戦錬磨という言葉がある通り、すべての物事は失敗の繰り返しの中で、徐々に成功に近づけて行く。
世界の法則みたいなもんで、武術もそれに当てはまる。
「フィーとかいう奴は、強いだろうな」
ニュギーの口ぶりから、あっさりトラップに落とされたことに対して、恨み節はあったが悪んじゃいなかった。
認めていたんだろうな。
単騎でそれだけの実力を持つってことを。
「ロ、ローレントさんよりもですか……?」
不安そうな顔をつくるツクヨイ。
「それはない」
「ほっ」
それだけ強かったら現実でも耳に入っている名前が浮かぶし。
それを考えると……、もう少しそのフィーとかいうやつの情報を探っておけばよかった。
失敗したな。
「どんな野郎が来ても、関係ねェよ。正面からはじき返して叩き潰すゥ」
三下さんは相変わらずだった。
さすが三下さん。
「あ、皆さん。ようやく出口です」
一本道も途中から分岐して来たので、ダンジョン探索系のスキルを用つ十六夜に先導を任せて歩いていた。
なんとなく空気の流れとか、諸々もあるだろうが、スキルに頼るのはやはりでかい。
そうやって自分の中の感覚をスキルの答えと照らし合わせながら、奈落の底の暗い道を進んで、そして大きな扉の前に差し掛かったところだった。
これでもしダンジョンがあったとしても、なんとか感覚で出口を見つけることができそうだ。
「あ、フロアマップが切り替わります!」
「ふむ」
今まで“罠の中”とか“奈落の底の通路”とかそんなんだったミニマップの名前が切り替わる。
ここはどうやら“49階層”とのこと。
「……49かァ……ダンジョンの広さを考えれば、えらく深ェなおいィ」
「運営のアナウンスでは一番ギミックがオーソドックスで簡単なダンジョンだと言ってましたねえ。まあまあ、そっくりそのまま同じものを作り出していると言っても、落とし穴を利用したショートカットなんて、想定されていなかったもしくは、想定しているものの魔物が出現しない“今だけの抜け道”なんでしょうかねぇ?」
三下さんとモナカの会話。
確かに、魔物がいるならば、あの白骨の山はどうにもそれらしい雰囲気がある。
生きてる屍なんてこの世界にはない、プレイヤーなんて死なないし、NPCも殺されれば一定時間後に消える。
だから、実は落とし穴に落ちても生存するくらいのしぶとい奴に恐怖を与えて蹂躙するための仕掛けなんじゃないだろうか。
奈落の底で亡者達が襲って来るなんて、実にありがちな設定だ。
魔物が出ないとされているため、ギミックは純粋なトラップとガーディアンのみ。
モナカの言う通り、今だけの安全な限定ショートカットと言えるな。
「49階……なんだか次の階層がボスって感じがしますね。ぶらっくぷれいやぁの『だぁくせんさぁ』にとてつもない強い気配が、強い気配がピンピンしますよ!」
「へェ……どっちからだァ?」
ツクヨイのいつもの中二的なセリフに、三下さんが面白がって乗っかった。
「ふぬぅ……感知成功しました! あっちからです!」
おそらく適当な方向に指をさしただけなのだろうが……
「──ッ!?」
その瞬間、その方向から驚くべきほどの殺気が膨れ上がった。
モナカに目配せすると、いつもニコニコしている表情が一転して真顔になってじっとその方向を見ている。
「……中二センサーもバカにできませんね」
ほう、十六夜も気づいてるか。
「中二じゃなくてだぁくせんさぁ! ぶらっくでもなく、だーくせんさぁですう!!」
「黙れチビ。もうごっこ遊びは終わりだ」
「ごっこ!?」
三下さんも俺たちの纏う雰囲気が変わったことに気づいて、ツクヨイを制す。
「……美男子様、本物ですよ?」
「……そうだな、万全を期す。お前達は先に下階層への階段を見つけて向かってくれ」
「そうしましょう」
モナカは特に何も言わずに従ってくれた。
わかってくれてるんだろうな、このPKの狙いはどうせ俺だから。
「すまんな、あとで追いつく」
中二ごっこに付き合ってくれる三下さんまじお兄さん。
妹属性の周りにはお兄さん、お姉さんが集まるんですかね。
……だぁくせんさぁ(笑)
ツクヨイ「ッッ!?」
新年会の後遺症(二日酔い)により更新が遅れてしまったことを、誠に申し訳なく思っております。
故に、活動報告で未だスペシャルサンクスキャンペーンについての詳細を記載できていないこと。
さらに、未だPKとのいざこざをだらだら書いていること。
に関しまして、五体投地でごめんなさいとの気持ちを、いや寄せては返す、ごめんなさいの波の音ともに皆様に平に謝罪を申し上げます。
(でも毎日更新できてるよねっ)




