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「ブルーノ! 待ちなさい! ……あ」


 夜の森から姿を表したのは、革装備に弓を背負った女性だった。

 金髪で、彫りの深い顔立ち。

 髪型は森ガールっぽいね。

 その出で立ちは、ロビンフットを思わせる様だった。


「ども」


「あ、もしかして横殴りしちゃいました?」


 横殴り?

 いやむしろ、厄介なモンスターを蹴散らしてくれたので、助かってる状況。

 ここは丁寧に返しておこう。


「いえ、助かりました」


「なら良かったです」


 そうだ、マジックビートルからドロップを回収しなきゃ。

 内翅すら毟られた無惨なカナブン。

 ドロップは?



【魔甲虫の甲殻】

魔力に反応して堅牢さが増す。



 シンプルな説明の時って。

 結構強い能力持ってる。

 ってか応用力が高いっていうか。


 錬金素材は手抜きだけど。

 こういう魔力に反応して堅牢さが増すって。

 甲殻の丸みとかを見る限り。

 小盾やヘルメットにも使えそうだ。

 肩、肘、膝、すね当て。

 何でも使えそう。


 いいですね。

 これから蜘蛛と共にこの魔物も狙いましょう。


「あの、ソロですか? もしかして、その狼。テイムモンスターですか?」


「はい」


 彼女は俺の駄犬を見ながらそう言った。

 表情でわかる。

 初めて同じテイムモンスターを持った人に出会ったって感じの表情だ。

 ……俺もです。



【十六夜】職業:弓使いLv15

・猟師



 初めて見るコラボレーションでした。

 エルフみたいな恰好、顔して。

 弓を使って、猟師。

 そして夜の森を梟と走る。


 これほどまでにマッチングする職業は無いんじゃないだろうか。

 素晴らしいくらい好条件みたいなのが並んでるぞ。


 え、俺?

 無属性魔法使い。

 スキルは前衛。

 漁師。

 で、夜の森に狼と来てる。


 格差社会を感じた。

 でも気にしない。

 強く生きるんだ。

 ナンバーワンじゃなくて、オンリーワンでいいじゃないか。


「えっと、ローレントです」


 なんか、気まずい空気が流れて来たので。

 とりあえず自己紹介しておいた。

 ってかなんてこの人まだここに居るの。

 獲物横取りされたのは気にしてないんだけどなぁ。


「え? あ、十六夜です。すいません」


 何故か謝られた。


「あ、こちらこそ、すいません」


 謝り返すと、再び沈黙。

 気まずい。


「その、……それじゃ」


「あ! 良かったら! 一緒に狩りませんか! 私も私でその、ソロもそろそろしんどいなあって思ってたので、よかったら、是非一緒に、……すいません」


 美人さんにそう言われた。

 吝かではない。

 もちろん二つ返事で承諾しよう。


「どうぞ、よろしくお願いします」


「ほっ。よかった。テイムモンスターがいると、なんか変な目線で見られたりして、他に野良パーティとか組むと面倒ごとが多いんですよね」


 いきなり独白しだす彼女だが。

 変な目線で見られるのは、テイムモンスターとかじゃなくて、パーティの男達の色目。

 そしてそれを勘違いしたネトゲ女の嫉妬の目線なんじゃないだろうか。


「よろしくお願いします」


 パーティ申請が送られてくる。

 積極的だな。

 まあ、ソロってきついよね!

 俺もローヴォがいなかったらここまでこれなかったもん。


「ちなみに、その梟って一体どこで?」


「あ、ブルーノですか? この子は、第二の町の近場の森に生息するフォレストオウルの子供を助けたら、次の日ずっと後をついてくるようになって……」


「ああ、私も、プレイヤーキラーとの戦闘で死にかけてた狼を助けまして、次の日ずっと後をついてくるようになってたんですよ」


「そうなんですか? ……もしかして、それがトリガーなのかもしれません。私が見つけた時も、プレイヤーに巣をめちゃめちゃに壊されて、雛鳥が木から落ちてたんです。気まぐれだったんですけど、たまたま戻して上げたら、って感じなんです」


 もしかしなくても。

 テイムモンスターのトリガーが見つかったのかもしれない。

 かといって、これ以上テイムモンスターを増やすかと言われれば、わざわざプレイヤーが倒す敵を助けてあげるなんて。


 そんな状況あるわけない。

 ローヴォがいてくれるので満足なり。



 十六夜との夜の狩りは、特に話が弾む訳でもなく。

 淡々と行われていた。


 モリフクロウのブルーノと、グレイウルフのローヴォ。

 全ての索敵を行ってくれる。

 これは中々に便利だった。


 敵は十六夜の遠距離攻撃によって大きくHPを減らす。

 それに、俺もヌンチャクを投げてます。

 猟師の動きに合わせる為に、敢え無く大剣と六尺棒を交換した。

 流石猟師、夜の森をスイスイ進んで行く。


「スクロール、便利ですね」


「ええ」


 夜目のスクロールの妖精さんがクルクルと俺の周りを飛んでいる。

 お陰で視界には困らなかった。

 カンテラと松明の灯りは消した。

 灯りを付けると、虫がよってくるし。


 パーティを組むと、スクロールの補助魔法はパーティ単位でかかるみたいだった。

 便利過ぎ。


 六人のフルパーティでスクロール持ってたら、六個まで重ね掛けが出来るってことだよな。

 いやでも、流石に一時間しか保たないものを一気に消費するのは馬鹿のやることか。

 ボスとの戦闘でも無い限り、クールタイムを利用すれば。

 三個同時掛けが効率良さそうだ。

 その分、生産できる人が限られてて、高価なんだけどね。



「モンスターです。モスチートが木に密集してとまっています。あと頭上に蛇が、そこそこ大きいです」


 十六夜が教えてくれる。


「騒ぎをだすと、そろそろこの辺りはゴブリンの生息域に入るみたいです。あと、傾斜を南西に進むと、厄介な猿が湧きます。ちなみに、蛇は多分チェインバイパー。出血毒を使って来ます。血清、毒消しを持って無いとまず生き残れません。気をつけてください」


 現状、噛まれたら詰む。

 それがチェインバイパーの恐ろしい所。

 頭上からの一撃。

 気付けば肩を、上半身を噛まれている。


「わかりました」


 お互い気を引き締めて行こう。

 作戦は、頭上はモリフクロウのブルーノに牽制してもらい。

 モスチートは出来るだけ木に張り付いた状態でそのまま殺したい。


「標本にしてやりましょう」


「ですね!」


 弓をつがえる十六夜。

 俺もアイテムボックスから銛をあるだけ出す。


「じゃ、同時に。せーの」


 俺の合図で、お互いが攻撃を開始する。

 木には合計何体のモスチートがいる?

 五体でした。

 あぶねぇ木だな。


 巨大な蛾が沢山。

 玄関のドアに、ドアノブにとまっているのを想像してみてほしい。

 なんか追い払った後も、鱗粉とか残ってそうで。

 すっごく嫌だよね。


 奇襲でどんどん標本にして行く。

 即行で五体張付けにしたら、十六夜が弓でどんどんダメージを与えて行く。

 まれに大きくHPが減ることがある。

 これがクリティカルか。


 弓使いの初期って何だっけな。

 ぱわーしょっと、もしくはクリティカルだった気がする。

 急所攻撃にダメージ上乗せ?

 ……取ろうかな!

 前向きに検討したい。


「グルルル!!」


 倒し終えようという所で。

 ローヴォが吠えた。

 上か?

 ブルーノが縦横無尽に旋回しながら蛇の相手をしている。

 ならゴブリンか?


「うっ!!」


 十六夜のうめき声が聞こえた。

 隣を見ると、肩と脚に矢が刺さっていた。

 ……矢?


 ローヴォの唸り声は矢が飛んで来た方向へと向けられている。

 上位種のゴブリンかと思ったら。

 声が聞こえて来た。


「はやく次撃て! 犬来てる!」


「わかってるよ」


 プレイヤーだった。

 夜目のスクロールがあるからよく見える。

 相手は灯りを消して暗闇からこっちを窺っている。

 気付いてないと思ってるのか。


 身を低くして接近しよう。

 流石に、早めに蹴散らさないと毒蛇だっているしな。

 と思ったら、別方向から矢が霞めた。



【ゾエ】職業:見習い暗殺者Lv12

・レッドネーム

[プレイヤーキラー]


【ざけんなよ】職業:野盗Lv12

・レッドネーム

[プレイヤーキラー]


【モレスト田中】職業:見習い暗殺者Lv12

・レッドネーム

[プレイヤーキラー]



 やっぱりレッドネーム。

 プレイヤーキラーだった。

 話し声で注意を向けて、クロス射撃とか。

 ローヴォ、迂闊に攻めたらダメだ。


「っしゃ!」


 ローヴォの悲鳴が聞こえた。

 思わず舌打ちしてしまう。

 木の陰に飛び込んで、射線から逃れる。


 十六夜は?

 同じように木の陰に隠れていました。


 ローヴォは?

 脚を引きずるようにして俺の方へ戻ってくる。

 対策を考えようとしてる時に、状況が更に動いた。


 ローヴォが思いっきり俺の方へ飛んだ。

 ドッという身体に矢が刺さる音が聞こえる。

 ローヴォの首筋に、矢が刺さっていた。


 そして、ローヴォのHPが全損。

 光の粒子になって消えた。

 …………庇われたのか。


「ちっ!」


 舌打ちが聞こえる方向。



【ヘジー】職業:野盗Lv15

・犯罪者、レッドネーム。

[強奪、強盗、プレイヤー及びNPCキラー]



 あいつ。

 なんでこんな所に。


「おまえ!」


 囲まれているのにも関わらず。

 叫んでしまった。

 キレそうだ、いやキレたわ。


「ひゃははは! 運がいいぜ、またお前に会えるなんてよッ!?」


 そう言えば、コイツは口うるさい奴だった。

 喋ってる暇があれば止めを刺しにくれば良いのに。

 アイテムボックスから釣り竿を出すと、ヘジーに向かって一投。

 漁師スキル舐めんなよ。

 狙ったポイントは逃さない。


 釣り針はヘジーの革鎧にがっちりと引っ掛かる。

 小さいし、蜘蛛の糸にしてある。

 夜だと余計見辛いし、丈夫だ。


 勝利を確信したのか、迂闊に無防備を晒したヘジーを思いっきり引き寄せる。

 前のめりにバランスを崩したヘジー。


「スティング!」


 若干距離があったが、六尺棒ならギリギリ届く。

 狙いは?

 喉だ。


「ごばっ」


 結果は口に当たる。

 歯が折れる音が響く。


「危ない!」


 十六夜の声が響いた。

 倒れたヘジーの襟を持って盾に使う。

 ドドっと彼の身体に矢が刺さる。


「あ、う、」


 とりあえず目を潰して放り捨て、ヌンチャクで頭を殴打しといた。

 失神ペナルティだな。

 これでしばらく動けまい。


「十六夜! 矢で支援!」


「は、はい!」


「やべぇ! 逃げろ!」


 ヘジーのやられっぷりに戦いたプレイヤーキラー達が逃げ出して行く。

 逃がさん。

 森の魔物にすら殺させてたまるか。


 走りながら得物を変える。

 ヌンチャクからレイピアへ。

 そして、ビンに保存しておいた蛇の出血毒。

 レイピアへ塗っておく。


「うぐっ」


 ナイス十六夜。

 転んだのはモレスト田中。

 レイピアを脚にさす。

 これで脚が懐死して逃げれんだろう。


 次!

 アイテムボックスを探る。

 銛が無い。

 転位で全部引き寄せると、全部に毒をぬった。


 そして、投擲。

 最後の一本が何とかゾエに命中した。


「うぎゃあ!」


 ついでに少し先から、もう一人のプレイヤーキラー。

 ざけんなよ、とかいうふざけた名前の男の悲鳴が響く。

 どうやら弓が命中して【クリティカル】も発生したらしい。

 追いかけてひと突き。


 彼等をロープで縛ると。

 揃って集めることにした。


「うぐぐ」


「あ、ひ」


「…………」


 彼等のHPは?

 かなり減ってるみたいだった。

 余ってる初級回復ポーションをかけてやる。

 それで毒が消えることはないが……。


「すいません、私のせいで」


「……いえ」


 回復ポーションを飲んで、HPを回復させた十六夜が駆けてくる。

 その手にはチェインバイパーが握られていた。

 そうか、猟師だから素材として扱えるのか。

 持ち運ぶの怠そうだな。

 俺も魚いちいち運ぶの面倒だったし。


「蛇、貸してください」


 蛇の牙をこいつらに向ける。

 もはや毒が回ってもはや喋れもし無いと思うが。

 とりあえず言っておく。


「蛇って、頭を切り落としても噛み付くそうです」


 と、いうことで。

 適当にゾエでいいや。

 荒く息をするコイツ。

 木を背もたれに座らせると。


「ぐ、う、ッ」


 股間付近に蛇の頭をおいて。

 包丁で切り落とした。

 HP全損してる筈なのに。

 蛇、口を大きく開くと噛み付きましたよ。


「ごっ! ッ!」


 声にならない叫び。

 もう放っといたら死ぬな。

 たが俺の手で殺す。

 目に対して、ゆっくり毒を塗ったレイピアの切っ先を近づけて行く。

 捻りながら。


 はい、終了。


 とりあえず蛇はもういないので、視覚的に一番恐ろしいやり方で仕留めて行く。

 痛覚上げてなくても、恐怖は宿る。

 目を片方ずつ潰して行けば早いよね。


 ヘジーはとっくに意識が無かった。

 放置して夜の魔物にやらせりゃいいか。


「……あの」


 プレイヤーキラー達のドロップアイテムが散乱する中。

 十六夜がこちらをみて何か言いたそうにしている。


「言いたいことはわかってますよ」


「いえその、私は何も言えません。すいません」


 そういって頭を下げていた。

 今日はやる気が削がれた、もう帰ろう。


「……今日はこの辺で町に戻ります」


「え……、ああ、はい。あの、また一緒に」


「では」



[プレイヤーのレベルが上がりました]

[スキルポイントを獲得しました]

[称号”復讐者”を獲得しました]



 これ程までに、インフォメーションメッセージが虚しく感じることはあるのだろうか……。



プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv19

信用度:60

残存スキルポイント:2

生産スキルポイント:4


◇スキルツリー

【スラッシュ】※変化無し

【スティング】※変化無し

【ブースト(最適化・補正Lv2)】※変化無し

【息吹(最適化)】※変化無し

【エナジーボール】※変化無し

【フィジカルベール】※変化無し

【メディテーション・ナート】※変化無し

【エンチャント・ナート】※変化無し

【アポート】※変化無し

【投擲】※変化無し

【掴み】※変化無し

【調教】※変化無し

【鑑定】※変化無し


◇生産スキルツリー

【漁師】※変化無し

【採取】※変化無し

【工作】※変化無し

【解体】※変化無し


◇装備アイテム

武器

【大剣・羆刀】

【鋭い黒鉄のレイピア】

【魔樫の六尺棒】

【黒鉄の双手棍】

装備

【革レザーシャツ】

【革レザーパンツ】

【河津の漁師合羽】

【軽兎フロッギーローブ】

【軽兎フロッギーブーツ】

【黒帯(二段)】


◇称号

【とある魔法使いの弟子】

【道場二段】

【仲間の復讐者】


◇ストレージ

[スティーブンの家の客間]

セットアイテム↓

[カンテラ]

[空き瓶]

[中級回復ポーション]

[夜目のスクロール]

[松明]

※残りスロット数:7

ーーー








ローヴォオオオオオオ!!!!

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