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「やられちまったァ? いったい誰にだ?」
三下さんはそう言いながら仰向けに倒れた男の鎧をひっつかんで引っ張り上げた。
「……一応怪我人ですよね」
だなんで、十六夜が真顔でツッコミを入れているが、それでも誰にやられたとか詳しい情報を聞いてやってるあたりが、三下さんの優しさだと思う。
「……うぐ、PKだ、たった5人のレッドネームだった……」
「おい、他に情報はねェのか? 名前は? 容姿は? おいィ、なんとか言えよォ」
「うぐ、ちょ、話して、マジで……異常状態痛いから、痛覚マックスでやってるから俺も……」
「チッ」
必死にそう言われて三下さんは大人しく舌打ちしながら手を離した。
そして、男は少し咳き込みながら話す。
「臨時パーティの盗賊は先にやられちまった……そして次々に仲間も……畜生……」
「いいからさっさと情報を吐け」
「ぐ、すまん……名前は……」
この男の話によると、5人のPKの名前はいち、に、さん、よん、ご……というどう聞いても隠蔽されてるとしか思えない名前だった。
だがしかし、それでも赤く光る名前を隠さないあたり、どうなっているのだろうか。
「ふざけてんのかァ?」
「お、俺らもそう思ったが……レッドネームを隠さない意味が……ぐふっ」
そのまま三下さんが額に青筋浮かべながら鎧を掴んで激しく揺さぶると、そのまま男は血を吐いて光の粒子になって消えていった。
「……チッ、とどめさしちまったか」
あ、わかってたのか。
話を聞くあまり、ついつい言動と態度が同時に出てしまうものだと思っていたのだが、本人はわかった上であえて隠していないようだった。
それでこそ三下さんだ。
「わ、わかっててやってたんなら余計に凶悪でやがりますなぁ……」
「ハァ? そこの巨悪はハナっから見捨てる気だったから、聞いてやっただけでもありがたいだろうが」
きょ、巨悪?
一体誰のことだ?
「ああ、まあ、それはなんとなくわかりますねぇ……確かにダークヒーローというか、傍若無人の権化というか、幼馴染のトモガラさんも同じように“良い人”ではないですから、いやいい人ですけど……」
どっちだ。
「うふふ、人間誰しも善人ではないのですね。私はそういう黒い部分は高校時代にたくさん経験して、たくさん味わって、たくさん仕返ししてきましたから、よくわかります。ふふふ」
「まあまあ、率先して悪い行いをしなければ人類みな善人ですよ」
どういうことだ。
なんだかみんなの視線が集中して立つ瀬がないとはこのことである。
ちなみに俺は自分のことを善人ではないにしろ、やられない限り仕返ししないからまだマシな部類で自己分析している。
世の中、自己中心的な欲求で世間を騒がせる奴が多いからな。
プレイヤーキラーをやるのも、そういった欲求を出せない奴らがゲームの中では羽目を外せるからってのが大きい。
別に悪いことではないと思うが、やられたらやり返すのが筋だよな。
「恩があれば返す、やられたらやり返す、それが究極的な人のあり方だよ」
「極論ですけど、それを地で行く感じがローレントさんらしくも思えますねぇ……」
難しい顔してそう頭をひねるツクヨイは置いておいて、まずはその五人についての情報をまとめておかないといけないのだが……。
「まァ、結局罠に落とされてって感じなら、奴らはその罠の前でやってくるプレイヤーを待ち構えてんだろうなァ……?」
「それに一票」
だったら、答えは一つ。
「「無視しよう」」
「へ?」
ツクヨイがずっこけた。
インナー見えてるぞ、もう何も言わないけど。
「か、仇を取る流れじゃないんですか!?」
「ハァ〜?」
立ち上がってそういうツクヨイに、三下さんが耳をかっぽじって面倒臭そうにしながら言葉を返した。
「仇をとってやる義理はねェ。だが、面倒な奴らがいる情報は大事だろォが」
「そうだな」
三下さんは「仇を俺がとってやる」とは一言も口にしていない。
ただ情報を聞いただけだった。
「むしろトドメ刺しましたしね、うふふ、えげつないですね」
「敵が罠前で張ってんなら、逆に好都合だぜェ?」
「ど、どういうことです?」
ゴクリと喉を鳴らすツクヨイ。
「そいつらより強い奴が出てこねェ限り、先に進むプレイヤーはいねェってことだよ」
「ああ! なるほど! ガーディアン以上に質が悪いガーディアンですね! そしてその裏をついて、私たちダークアンドブラック海賊団がこのダンジョンのお宝を根こそぎ……」
と、ツクヨイが言い出したところで。
再びガゴガゴと天井から激しい物音がして、ドサドサドサとプレイヤーがなだれ落ちてきた。
「ひょえっ!?」
「……レッドネーム?」
鑑定すると名前は赤文字で、しかもいち、に、さん、し、ご。という件のふざけたプレイヤーネームである。
「十六夜、鑑定できるか?」
「はい、看破可能ですね。とりあえずリストに名前が載っていないプレイヤーキラーです」
ナガセのリストはあくまで下っ端が知らされる情報をまとめたもの。
ここに載ってないとなると、本当に雑魚か、もしくは一定以上の実力を持つPKということになる。
その判別装置としてしかもはや機能しないのだ、このリストは。
それだけ、情報戦では裏ギルドの奴が強い。
ニシトモの情報網は表に強いが、まだまだ裏には疎い。
トンスキオーネも裏ギルドまではまだ介入できず。
なんだかんだ、いろいろ知ってるケンドリックに裏からいろいろと探れるアンジェリックは、不思議なことに闘技大会が始まる少し前から顔が見えない。
「レベル的にそこそこ強いんだろうな」
そう呟くと十六夜が返してくれた。
「ですね。単体で3人以上相手できる腕がないと、さっきの一般プレイヤーの方々がより一層弱かったってことになりますから」
「そもそも、このダンジョン自体、ガーディアンを倒せるレベルのプレイヤーじゃないとついてこれませんから、さっきの鎧男さんは決して弱くはありませんよ?」
十六夜の言葉に、モナカも同意。
「ってことは、このふざけたPKレンジャー達はPKの中でも上位に位置付けられる奴らだってこったなァ?」
「そうなりますね。雑魚PKほど名前にはこだわり、強くなると殺し以外興味なくなってそれ以外の部分は全くこだわらない傾向になりますから……ええ……」
ゲーム開始初期から、PKに粘着されてきた十六夜はその辺りに詳しい。
ちなみにこいつのせいでローヴォがデスしたのはまだ覚えている。
と、いうか忘れないぞ。
「……ってことは、強い一般プレイヤーを蹴散らせる強いPKをさらに蹴散らせるプレイヤーが、このダンジョンにいるってことですね?」
すっごいややこしいけどそんな感じか。
厳密に言えば割と平均以上の強さを持ったプレイヤー以外は弾くような仕組みになっているこのダンジョンの下層まで降りてこれるプレイヤーを単騎で3人以上蹴散らせる実力を持ったプレイヤーをさらに倒せるプレイヤー。
うわ、ほんとにややっこい。
「まァ、袋叩きにされたって可能性もあるし、もしかしたらへまうってガーディアンに倒された線もありうるぜェ?」
「うーん、謎は深まるばかりですね」
首をひねるツクヨイ。
だが、そこまで深く首を捻る必要もないと思った。
だって、まだレッドネーム達生きてるからな。
「……うぐ、ぐ……ちきしょう……」
「あの野郎……タダじゃおかねぇ……」
「──ひっ!?」
短い悲鳴とともにうごめくPK達を見て俺の腕にしがみつくツクヨイ。
「まあもう半分死んでるようなもんだから、そこまで怯えるなツクヨイ」
「……イイネェ、直接話を聞いちまえば手っ取り早いってことかァ?」
すぐに状況を理解した三下さんは、肩を回しながらPK達より凶悪に満ちた表情をしながら、接敵する。
「チッ……って、おい……ローレントじゃねぇか? テメェら立てよ、待ち焦がれてた大物が目の前にいるぜ?」
「ん? ハハッ、フィーのクソ甘、抜け駆けしようと俺らをハメやがったが……やっぱ良い行いするとツキが回ってくるもんだぜ?」
「良い行いなんてしたことねぇだろ、ハハッ」
「バーカ、PKがわざわざ待ち構えて正面切ってやり合うんだぜ? 十分良い行いだろうが」
傷を受けた体をなんとか起こしながら、PK達はそれぞれ武器を構える。
そんな彼らを見ながらツクヨイが叫んだ。
「何を悠長なことをいってやがるですか! 瀕死の傷を負ったPKなんぞ、このぶらっくぷれいやぁ様がけちょんけちょんにしてやるですよ! べろべろばー!」
「ほお……やってみろクソチビ」
全てのPKが、アイテムボックスから回復薬を取り出して服用する。
それだけでHPが大きく回復するあたり、割と良い回復ポーションを持っているな。
どこから、奪ったんだろう。
「え……?」
「ったりめェだろォが……普通回復ポーション持ってんだろォ……」
あの鎧の男は持ってなかったが、状態異常が酷すぎて使っても意味ない。
いずれ空腹のペナルティやら失血のペナルティで死に戻りだっただろうな。
「ひええ! ちょ、だったらなんで早くとどめ刺さないんですか!?」
「ふふふ、ローレントさんなら、回復持ってなくてもわざわざ回復させて情報吐かせるでしょうし? まったくツクヨイさんもそろそろローレントさんのことをよく知った方がいいですよ? うふふ、ふふふふふ、私の観察力は伊達じゃありません、ふふふふふふふふ」
「……十六夜さんがえらく怖いですが……私もその考えを進言しようとは思ってましたからねぇ……? 敵さんが丈夫でいてくれてありがたい限りですよ?」
ツクヨイの叫びにそうあっさりと言葉を返す十六夜とモナカ。
それを聞いたツクヨイは「ぐわぁああ、なんでこんなに厨二以上に頭おかしい人間ばっかり集まってやがるんですかあああ!!」と地面を激しく転げ回っていた。
そんなわけで戦いがスタートする。
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新潟がいます。




