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■ノークタウン/乱闘イベント/ステージ:密林(半壊)
「エナジーブラスト」
トモガラものとも蹴散らしてしまえ、と思ったのだが、放射が命中する直前でモナカが飛び出して、なんと俺のエナジーブラストを巴投げしてあらぬ方向に受け流した。
「……まったく、ツクヨイさんを守ってるんですよ。美男子様」
「ああ、そういえばそっちに隠れてたっけな」
「なに冷静に納得してやがりますか!」
茂みから真っ青な顔して立ち上がり叫ぶツクヨイ。
そんなことより、エナジーブラストって受け流せるものなのか……?
そんな疑問はさておいて、トモガラ砲の直撃を免れたPK達は、俺を警戒しつつツクヨイとモナカに狙いをつけて取り囲んでいく。
ちなみに、俺の放ったエナジーブラストは観客席に突っ込んで、何人かを強制出場させていた。
正直すまん。
「ひえっ、バレてしまいました! 囲まれてますよ! モ、モナカさん!」
「大丈夫ですよツクヨイさん。すぐにまた大乱闘になりますから」
ニコニコとツクヨイを宥めるモナカのいう通り。
後方では激しく人がぶっ飛ぶ豪快な音がして、強烈な怒気を持ったトモガラが立ち上がった。
血走った両目、額に青筋を浮かべてピクピクとさせている。
戦斧が亜音速で風を切った瞬間、鋼鉄製の鎧を身につけていた彼の周りのPK達が、腰から真っ二つになって散らばっていく。
「……これはちょっと場所を移動したほうがいいっぽいですね」
黙って敵を殺すトモガラの形相に、モナカもさすがに苦笑いしてツクヨイの手を握る。
「いや、俺は今極めて冷静だぜ」
トモガラはそう言いながら、ドッと土が敷かれた闘技場の地面が陥没するくらいの力で動き回り、PK達を跡形もなく血祭りに上げていく。
「……説得力ないですね」
「ひ、ひいい! ひいい! グロ耐性はついたはずなのに怖いいいい!」
「ああん? 説得力? 顔面と行動が違うのはあいつも一緒だろーが」
密林に生い茂る樹木諸共、蹴散らしながらトモガラは言葉を続ける。
「まず先に外野がうるせぇのを何とかしてからだな」
なるほど。
まだ気を抜くことはできないが、とりあえずトモガラの意思は汲み取れた。
ひとまず怒りの矛先は、裏ギルド所属っぽいこのPK集団に向けられるらしい。
「そうだ、ふざけてる場合じゃないぞ」
トモガラの後ろから隙をついて弓を向けていたPKの首を切り落としながら言ってやる。
こいつの相手をしてやるのは構わんが、時と場を考えてほしいものだ。
「……へいへい、とりあえず俺の邪魔だけはしねぇようにしろよ? うっかり殺したら申し訳ないからな」
「……どの口がそれ言ってんだ」
今後に及んでまだ事故死がありうるとの自己申告に思わずため息が出た。
もうトモガラのことはほっとこう、とりあえず警戒だけして今は目の前の敵を倒すのだ。
敵の人数は目算で50人くらいだろうか。
ノークタウンの闘技場は、バイオームを生成する機能が付いているぶんクソでかい。
いったいどこにこんなもん作ったんだってくらいの規模だ。
聞けば、建物内は拡張されているとかされてないとか……。
やはり運営が介入するとなんでもありだな。
上空のモニターを設置した飛空挺もそうである。
「オラオラ、ぼーっとしてっと轢き殺されるぜ!」
「……お前もな」
事故死の自己申告から、積極的に俺を狙いながらPKを器用に狩るトモガラの元に手榴弾を投げた。
「……ほっ? うおおおおおおお! ほっっほっっほッッ──、あっぶねぇ!」
斬ったとしても中の魔力に反応してが可燃物に爆発を起こす仕組みになってるから爆発する。
そんな仕様と威力をよく知るトモガラは、転がる手榴弾を手につかんでかなり巨体なキャラメイクを施したPKの口の中に突っ込んでいた。
「モガッ──ッッ!?」
涙目になった巨デブのPKは、窒息したような表情を浮かべながらなんとか喉に詰まった手榴弾を取ろうとするが、アゴを砕かれ、さらに両腕を切り落としていたため、どうすることもできないようだ。
そして泣きながら周りのPKにとってほしい意思表示をするが、見捨てられ爆発。
『汚ねぇ脂肪シャワーだあああああああああ!!!!』
『ちなみに、グロ描写が苦手な方は描写処理のレベルを落とすことを推奨します。あと、補足ですが年齢が18歳未満のプレイヤーには血しぶき愚か、プレイヤーが爆発とともに光の粒子になる描写になりますので、ご安心ください』
愉快そうにテンションを上げて実況するGMベータに対して、GMデルタがそう補足説明をしていた。
もちろん俺は痛覚設定やらその他諸々のすべての設定をレベルマックスにしている。
とことんリアルを追求したのがGSOだぞ、楽しまなきゃね。
「チッ、一度引け。順次、密林に身を潜めろ」
誰かが言ったそのセリフに頷いたPK達は散り散りになって逃げていく。
「第二班、第三班は怪我を負ったものの回復と、もう少し連携をとって望め。あの人が言ってただろ、この二人を相手にする時はレイドボスと戦う時を想定し──ゴハッ!」
指揮をとっていた一人が盾持ちを十人ほど集結させて、逃げるための防壁として使おうとしたところで、後ろから先に逃げていたプレイヤーが飛んできて直撃した。
「おい、大丈夫か!?」
「チッ、気絶の異常状態か。指揮取りするやつをしばらく別の奴に引き継がせ──ッ!?」
盾持ちの一人がそうやってジリジリ後ろに下がったところで、もう一人飛んできた。
さらに、もう一人、もう一人と。
後ろに散って逃げたPKが白眼を向いて飛んでくる。
「な、なにが」
あまりの状況に目を疑う盾持ちの男。
PKが飛んできた方向から、ゆらゆらと肩を揺らして歩きながら、小盾を左手に装備した男が現れる。
「そこの二人がレイドボスゥ? 三人の間違いだろーがバァカ」
三下サァン!
三下サァン!




