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うおおおおお!遅れてしまって申し訳ございませぬ!
■ノークタウン/乱闘イベント/ステージ:密林(半壊)
『前闘技大会のスペシャルプレイヤー同士の争いだあああ! 戦斧を持ったヤンキー面の木樵は、前回のベスト4トモガラ選手! 対して彼の攻撃を巧みに躱しながら意図的に被害を拡大させて行くのは、前大会覇者のローレント選手!』
唐突に始まったGMベータの実況に、上で見ていた観客達が沸く。
意図的に被害を拡大されて行くとかなんとか言われているが、俺はそんなつもりは毛頭ない。
避けた先に漁夫の利を狙うプレイヤーが多いだけだ。
『今回はプレイヤー間の闘争にかこつけてのイベントです。プレイヤーの皆さんはどんどんPKを狩りましょう。そしてレッドネームの皆さんはガンガン一般プレイヤーとPKK指定プレイヤーを狩りましょう』
GMデルタは真顔で今回の乱闘イベントの概要を説明している。
無機質な説明口調が、より一層猟奇的な雰囲気を感じさせて、聞いていた観客達が呆れかえっていた。
『参加に関してはいつでも自由です。今回は映像ではなく、獲得ポイントの順位が頭上のモニターに表示されていますので、逐一ご確認の上で是非トップを狙ってください』
『今回も上位%で獲得できる特典が違うからみんながんばって敵を狩れよ!』
頭上のモニターに表示されている特典を確認する。
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上位10%──スキル経験値とスキルポイント10。
上位5%──スキル経験値とスキルポイント20。
上位1%──スキル経験値とスキルポイント30。
上位十名──スキル経験値とスキルポイント50。
上位三名──上位十名特典に追加して特典プレゼントクーポン。
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これらのアイテムをイベント終了時にもらえるようだ。
特典プレゼントクーポンが気になるのだが、貰って見てのからのお楽しみらしい。
そんなことより、スキルポイントだなんて随分と懐かしい響き。
昔はスキルレベル制じゃなくて、面倒臭いスキルポイント制だったからな。
その名残として今はボーナスパラメーターというものがスキルのパラメーターの代わりとなっている。
スキルごとにではなく、一纏めに総括されたのだ。
「──よそ見してんじゃねぇ!」
「むっ!?」
紙一重でトモガラの戦斧を避ける。
モニターを見ながらしみじみ考え込んでいると、トモガラと戦っていることをすっかり忘れていた。
どうやら無意識下でこいつの攻撃を避け続けていたみたい。
「トモガラ、お前と戦うのもいいが……今は味方同士で争ってる場合ではないんじゃないか?」
「トップ取るには、おめぇを殺さなきゃ始まんねーよ」
「……相変わらずだな、ほんと」
上位三名まで良い特典が準備されてるんだから、互いにワンツーフィニッシュじゃダメなのか。と思う。
もちろん、一位は俺で、二位はトモガラ。
そう、
「二位じゃダメなんですか?」
って奴だ。
その言葉に、トモガラは鬼の形相で戦斧を振るう。
「ダメに決まってんだろ! なんでおめぇがしれっと一位なんだよ!」
身体強化を重ねに重ねたその振り速度は、なんかもう亜音速を超えていそうだった。
「だが、そろそろ疲弊した俺らを付け狙うハイエナどもが動き出すぞ」
「あん?」
攻撃を太極拳の退歩で躱しながら、トモガラの後ろに目配せした。
俺が爆破した更地の周りには、まだ草木が生い茂る密林エリア広がっている。
そんな茂みの中から、多種多様の武器を抱えたプレイヤーがぞろぞろと湧いてきていた。
「チッ、全員がレッドネームじゃねーか」
「それも、さっきまでの野良PKではない」
統率の取れた動きを見るに、どうやら虎視眈々と機会を窺っていたことがよくわかる。
もしかしなくても、こいつらは裏ギルドの勢力かな。
「そういえばローレント」
「なんだ?」
「裏ギルド内で、俺たちトッププレイヤーに賞金がかけられてるらしいぜ?」
「……賞金か。NPCキルしたPKにかけられる賞金みたいなものか?」
「いや、おめぇの子分に聞いた話だと、プレイヤー同士がかけてる賞金らしい」
「なるほど」
トモガラの説明によると、PKしか見れない掲示板があり、そこでは日夜プレイヤーを狩った動画が証明としてアップロードされ、そしてそれに応じて賞金を払う物好きプレイヤーがいるとのこと。
趣味が悪いな……。
子分、もといナガセの情報によれば、もともとレッドネームに賞金がかけられるシステムをPK達が独自に真似ていたようだが、いつのまにか裏ギルドも介入しお金の規模が一気に膨れ上がったそうだ。
「さらに言えば、裏ギルド介入後から、NPCの要人暗殺とかいうクエストも受けれるんだとよ」
なおさら質が悪いな……。
奴らが第一拠点を奪ったのも、面白半分ではなく裏で大きく金が動いたクエストがあったからなのかもしれない。
ぶっちゃけて言えば、今回の抗争はいろんな思惑が紛れ込んで、話がごちゃごちゃしていて何がどうなのかわからなくなってきてる。
特にケンドリックの手勢を利用したおかげで話が大きくこじれた感。
だから第一拠点を完膚なきまでに破壊したのだが、やはり大元である裏ギルドを叩いておかなければ、決着は付かなそうだった。
「賞金がないレッドネームはなんの旨味もないが、今はキルすればポイントを取れる。だからトモガラ、共闘しよう」
俺がそういうと、トモガラは珍しくサムズアップしながら頷きを返した。
「おう、ボーナスステージってことだな。集団でかかればなんとかできると思ってる雑魚どもに蹴散らしてやるぜ」
「うむ。では──」
一度六尺棒をストレージに戻すと、羅刹ノ刀を握りしめた。
その時だった。
急に隣のトモガラが戦斧を俺に振るう。
「──おめぇが囮になってこい! そしてやられてる間に俺があいつらぶっ殺して一位も獲得して万々歳だぜ!」
「マナバースト」
「──ぐおっ!? くそっ、俺の完璧な作戦が読まれていたのか!?」
幼馴染をあまり舐めないほうがいい。
トモガラのひねくれ具合は俺が一番わかっているし、前回のイベントでも同じことしてただろう。
こういう自分の順位がかかっている時に珍しく乗り気な場合は、だいたい腹に何か企んでいる。
真っ先に俺を殺しにきた時点で、お察し。
それを読んでいた俺は、亜音速に達するほどの斧撃にマナバーストを備えていた。
弾かれ怯むトモガラをスペル・インパクトの威力を用いて後ろから蹴り飛ばす。
「お前が囮になれアホ」
「くっそがあああああああああ──!!」
秘技、トモガラ砲が徒党を組んだレッドネーム達に炸裂した。
一方その頃、茂みに隠れていたツクヨイは……。
ツクヨイ(ひっ!? なんか上を通り抜けた……ってトモガラさんが飛んできやがりましたあああ!?)
モナカ(まあまあ、敵を前にしても仲違いなんて、むしろ逆に仲がよろしいですね。ほほほ、そういうの好みです)
ツクヨイ(!?)
断じて冬眠していた訳ではなく。
クリスマスも素敵なあの人と過ごしていた訳でもなく。
ひたすら仕事をしていたのですよ〜。(忘年会も)
『ぶっちゃけて言えば、今回の抗争はいろんな思惑が紛れ込んで、話がごちゃごちゃしていて何がどうなのかわからなくなってきてる』
この一文に私の全てをかけました。笑
\更新再開ッ!/




