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■ノークタウン/乱闘イベント/ステージ:密林
「PKいたぞー! かこえー!!」
「んだとこのやろー! てめぇこそぶっ殺してやんよ!! こっちは殺し専門プレイヤーだぞ!」
鬱蒼とした密林ステージで、そんな喧騒が絶え間なく響いていた。
正直な話、いいのだろうか。
乱闘イベントだけど、観客とか大きく置いてけぼりになってると思う。
だって鬱蒼とした密林をどう映し出すと言うのか。
『参加はいつでも可能! 一応一番上がセイフティエリアにはなってるけど、そこからと開場外から見えるカメラが写せるのはあくまで密林中央のぽっかり空いた川の一部分のみだからね〜!』
『参加しろ、と言うことです。戦闘集計はされていますので少しでも参加すれば参加賞。そして取得したポイントにつき景品ランクも上昇していきますから、一応形だけでも出た方がお得ということになりますね』
GMベータとGMデルタがマイクを持ってそう説明する。
乱闘イベントは闘技大会の間に行われるだけ、何時ぞやのタイアップイベントのように一週間の平日を使った継続イベントという形にはならない。
「ま、まじかよ!」
「まあとりあえずまつりごとは参加じゃーー!」
「うおおお! この闘技場ではやられてもデスペナ無しなんだろー!?」
「だからって養分になんじゃねーぞ!」
そのアナウンスを聞いて、上からプレイヤーたちがこぞって乱入してくる。
っていうか降ってくる。
「あひんっ!?」
「おほんっ!?」
「ふぁぁっ!?」
とりあえず落下地点にイシマル謹製の杭を打ち込んでおいた。
「1、2、3、4……」
股間強打で悶絶している所に、六尺棒で横っ面を叩いてぶっ飛ばしていく。
「ひどいことをしますね……」
傍目で見ていたモナカがそう言いながら苦笑いしていた。
そんなモナカも、茂みの中に男を誘い込んで腕ひじきしてるじゃないか。
と、言ってやりたかった。
いや、腕ひじきではなく、腕くじきかな。
「うわああああ!! ロ、ローレントだ! ローレントが下で出待ちしてやがる!!」
「お前ら股間に気をつけろ! 女たちも備えとけ! 容赦なくやられっぞおおお!!」
「SMバッティングセンターとか、どこの二番煎じネタだよいい加減にしろー!!」
ベトコン仕込みのパンジステークじゃないだけマシだと思ってほしいけどな。
まだどこにも晒してないが、罠類も生産組の協力を得て大量に倉庫に眠らせているのだ。
今まで街中対人戦が多かったから今まで使わなかったが、この状況ならうってつけだ。
「ぐわぁ!?」
「こ、今度はなんだ!?」
「網だ! 網が仕掛けられてる!」
「ぎゃっ!? こ、こっちはトラバサミが……」
「なんでそんなもんがここにあんだよ!!」
「くそ、ローレントか!?」
半径二十メートル圏内には基本的にトラップを撒き散らしている。
マルタとミツバシ合作の漁網トラップや、ガストンとミツバシ合作のトラバサミ。
あとはなんだろう。
木に取りつけてワイヤーを貼れば、引っかかったやつに矢が発射されるトラップ。
あとは、踏んだら爆発するうっすいプレート。
──ドガァァァアアン!!!
……これが実はこれが一番強力だと思った。
「ば、爆発!?」
「う、うわああああ!!!!」
どうなっているのか知らないが、ニシトモとトンスキオーネが色々と企てているのだけは知っていた。
簡単に説明を聞いたのだが、裏のルートを使って仕入れたとあるモンスターから取れる可燃性のアイテム。
ツクヨイがそれを錬金スキルで濃縮というか、危ないことをして作られたものらしい。
これらのトラップは一応魔物を引っ掛けて試されているが、まだ対人では使われていない。
テージのマフィアも雑魚以外はだいたいこっちの手勢に加わっているわけだし、ノスタルジオあたりの構成員に迂闊な手出しをできないので、アレな話、今日の対人戦が初披露といった形。
プレイヤーはデスしてもちょっとばっかり痛かったりびっくりするだけ。
なおかつ、PKじゃなくても今日はいい日だ。
なんて、なんて良い日だろうか。
大盤振る舞いして使い心地を試すにはね。
「……あなた様も大概だと思いますけどねぇ」
爆風で髪に引っ付いた枝を取りながら、モナカは再び苦笑いを浮かべているのだった。
「にょわああああ!! な、なんでこのトラップがありやがるんですか!? ほええええ!?」
「あれ、ツクヨイ?」
「声が聞こえましたね」
聞き覚えの声が爆発で飛び交うプレイヤーの中から聞こえてきた。
爆風で飛び散った木やトラップで置いといた石材等をかわしながらモナカとあたりを確認するが、ツクヨイの姿は見当たらない。
……これは、もしや。
「美男子様、まさか妹弟子を手にかけるなんて……」
「許せ、ツクヨイ」
乱闘イベントだからペナルティは発生しない。
ポイントのマイナスはあると思うが、まだ開始されたばかりだから挽回も可能だ。
「──なに勝手に殺してやがりますかぁあああ!!!」
爆風の方向に十字を切って拝んでいると、後方に飛んでいった石材の影からツクヨイが姿を表した。
「生きてたか、さすが妹弟子だ」
「あらあら、すごいですね。スキルですかそれ?」
「殺しかけといてなにナチュラルに話を先に進めてるんですか!? ほんっとに頭のネジ外れてやがりますね!!」
爆風にやや巻き込まれた影響で、ツクヨイの帽子がやや焦げているようだった。
もろに直撃して本当に死にかけたのが見て取れる。
「シャドーホールの次のスキルで、シャドーポイントです! 切り札なのに、一時間に一回しかまだ使えないのにもう使ってしまったじゃないですか!」
スティーブンから物を影に出したりしまったりできる闇属性の空間系スキル【シャドーホール】を貰っていたのは知っているが、まさかもう次の段階までレベルを上げているとは恐れ入った。
シャドーポイントは自分一人だけオブジェクトやプレイヤー、NPCの影に一定時間潜むことができるスキルだという、今のスキルレベルは10で、十秒だけ可能なんだとか。
「便利だな」
闇討ちとかするとき、すっごく便利だ。
「ふふふ、音もなく忍び寄る……それがぶらっくぷれいやぁの真髄、真骨頂。これでまた一つ、最強への一角に近づきましたですよー!」
「おお、なら今ちょうど良い機会だし手合わせ──」
「──拒否します!」
「……」
っていうか、そう言えば。
遊撃部隊である俺とかモナカ、あとどっかでプレイヤーを蹴散らしてるであろうトモガラ以外は基本的に生産組の護衛についてるんじゃなかったのか……?
特にツクヨイなんかは守りの要にもなると思うんだけど。
「ああ、なんか結局ローレントさんとかトモガラさんたちがレッドネーム狩りしたせいで、監視の目がすっかりいなくなっちゃいましてね? っていうかそもそも拠点変えるのに今さらPKたちとやり合ってるのがバカらしいからってみんな上で見てますよ?」
……まじかよ。
遅れてすいません、ちょっと忙しくて><
でも近々みなさんに良いお知らせができると思いますん。




