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■ノークタウン/闘技場/乱闘イベント
『──さぁて、久利林さんどうでしたか、今回の予選!』
GMベータがありのままのハイテンションで、隣に頬杖ついて座る久利林にマイクを向ける。
『あのさぁ、朝からずっとそのテンションで疲れない?』
『今日の実況席についての感想じゃなくて、様々なギミックが織りなす闘技大会予選の感想ですよ!』
『無駄ですよ、SP久利林』
SPとはなんなのかと思ったが、どうやらスペシャルプレイヤーの略らしい。
今回、前大会入賞者の一部が闘技大会決勝本戦シード枠として選ばれている。
十八豪は辞退したみたいだが、恐らくそれ以外の奴らはいるだろう。
あとは、GMが個人的に良いと思ったプレイヤーを推薦してるらしい。
『GMベータはGM定例会でも常にこのテンションです。どんな厳格な場所でも、常にこのテンションでいることがもはやデフォルト、そう、常にバカなんです』
『ッッ!? バカって言った!?』
『なるほどねぇ〜……まあ、バカは嫌いじゃないけどな……?』
『そっちに反応するの!? ってか、普通に感想早く言ってくれないと! 次に進めないからさ!』
そんな慌てっぷりを見せるGMベータを笑いながら、久利林はそのまま闘技会場を一瞥する。
『感想かぁ〜……そうだな、面白いやつは数人いたけど……基本的にただの雑魚しかいねぇな!!』
『うおっと〜〜!!! まさかのみんな雑魚発言だあああ〜〜!!』
久利林の発言と、それを助長するように煽るGMベータの言葉。
観客席が大いに沸き立った。
『SP久利林、随分と言い切りましたね』
『まっ、前回は徒党組んで決勝のし上がろうとするアホがいたけどよ。今回は自分の力でちゃんと壇上に登ってきてるみたいじゃん? ──だから楽しみだよなあ、ローレント!!』
久利林が俺を指差した、そしてそれに合わせてカメラが動き、闘技場のいたるところに設置されているモニターに俺の顔が映る。
ちなみにモナカは背が低くて写ってない、頭のてっぺんで縛った髪がぴょんぴょんと映らないことに対して抗議していた。
「……あのバカ」
なぜか歓声が上がり、そしていろんなところからの視線が突き刺さる。
一人はまるで天然記念物を拝むような視線。
もう一人は恨みが篭ったような視線。
他にも色々な視線があるのだが、時折それに紛れて突き刺すように感じる物騒なものがあった。
……殺気か。
カイトーのストリーミングで覚えていた位置を照合して特定してやる。
物騒な視線向けたやつはいの一番で殺さないとね。
『おっとーーー!!! 前回大会優勝者ローレントがいたーーー!!!』
『GMアルファが心配してましたけど、しっかり来てくれるようで安心ですね』
『あいつトイレで泣いてたもんな〜! またローレント係かってさ〜! いや〜笑っちゃったね!』
『GMベータ、その情報で観客がやや引いているようです』
引いているというか、そのとばっちりが俺に来ている気がする。
GM泣かせのローレントだ。とか。
何人も女囲ってるローレントだ。とか。
人を斬るのが大好きなローレントだ。とか。
実は女には興味ないらしいぜ。とか。
根も葉もない声が出ているのをなんとかしろ。
まとめて切り倒すぞ。
『これから乱闘イベントだろ? 俺たちスペシャルプレイヤーは例によって大きく点数を与えられてるからな、より良い得点を稼いでイベントアイテムゲットしようぜみんなぁ!』
『うおおおおおおおお!!!』
『いや、盛り上げ役は僕が……』
『GMベータ、完全にお株奪われましたね。ぷくくく』
『何笑ってんのッ!?』
っていうか、スペシャルプレイヤーが餌って、久利林もその中に含まれてると思うんだけどな。
そうか……あいつ、俺をスケープゴートにしやがった。
感じていた殺気は、俺を狙う物の数が増えたことによって掻き消えた。
これじゃ追えないだろうに、何を考えてんだ久利林。
『こっちのが面白いだろ? ニシシシシ!』
恨みがめしく睨むと、久利林はそう言いながら表情を崩した。
そして、
『俺も一閃天も、まだ諦めてねぇんだぜ? ──じゃ、俺はこっそり乱闘に参加するわ!』
それだけ言い残し、実況席から姿を消してしまった。
『ああもう! 言うだけ言ってどっかいっちゃったよ!』
『GMベータ、SPたちを拘束しようと思ってもダメですよ。それがGMの常識になってます』
『そうだねぇ、どっかの誰かさんがGM泣かせだから、ほんとにもう……、まあ、僕ちん面白いの大賛成だからいいんだけど〜!! ナハハハハハ!!!』
『そうですねぇ、まあGMアルファに一任しているので私たちは放っておきましょう』
……今度からGMアルファに優しくしてあげようかな。
GMベータの調子を見て、そう思ってしまった。
一応フレンドリストには追加してあるので、ゲームの中だけど飯とか誘ってみるか?
来るかわかんないけど、なんか、本当に不憫に思えて来た。
『それでは、すべての演目も終わり、みんなのバトルゲージも上々みたいだから! 早速PKもPKKも一般プレイヤーも関係なしの乱闘大会をスタートするよ! 上位入賞すれば素敵なプレゼントがあるから、みんな頑張ってねぇ!』
『はい、それでは、最初のステージの抽選といきます──ふむ、密林ステージですか。参加したくないプレイヤーは闘技場の外、もしくは一番上の立ち見席までご移動ください。二階席、三階席はそのまま収納されて、密林ステージとなり、強制参加になりますので──』
乱闘イベントは、開始もいきなりだ。
GMデルタのセリフに感づいた物見遊山プレイヤーがこぞって最上階の立ち見席へ向かおうと長蛇の列ができる。
だが、そんなことは御構い無しに……。
『『それでは、スタート!』』
二階、三階席が消えて下から木々が出現する。
逃げ遅れたプレイヤーは足場を失い、密林の生い茂った森の中に落ちていった。
頑張って毎日更新したい。




