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■ノークタウン/路地裏の空き地/決着


「──くっ……なッ!? き、消えたッッ!?」


 先を読むには相手に初動を読ませない。

 たったそれだけのことで、こいつの目はごまかせる。


「くっ、それでもあんたの極意は僕を目を合わせる必要があるだろう!」


「そうだな」


「上か!」


 空蹴を用いて大跳躍し、上から刀を突き立てる。

 エナジーブラストの反応速度を見るところ、これでもタフは躱しそうだ。


 先の先よりも、さらに先を読む。

 それだけで適当なやつらはまず、太刀打ちできないだろう。


 ──だが。


「ッ!! やっかいだな“それ”!」


 無動作からの石柱転移。

 読むどころか、何もないところから降って湧いてくる石柱。

 これはいかにしても先を読むことは不可解だろう。


 魔法は便利だ。

 武術の垣根を越える代物である。

 両手両足以外の手数が増える。

 それだけで、相手を後手に置き去りにできる。


 驚異的な“観の目”で動きを予測して、攻撃を当てる?

 人の動きを読み切れるのはせいぜい三手が言動だろう。


 何十手、何百手。

 将棋や囲碁、チェスだったり。


 ボードゲームのプロの世界では、そんな驚異的な頭脳戦。

 それが日常茶飯時だなんて、よく聞くことだ。


 だが、それはあくまで盤上の物。

 駒の動き方が決まった世界の話だ。


 相手がどう動くかなんて、現実では到底計り知れないのだ。

 個と個がぶつかり合う、そんな死合いの局面で、相手の動きを数十手先まで読むことは不可能。


 ならば簡単な話だ。

 相手が読み切る前に、俺はその二、三手先にを進むのみ。


「一手目は俺の勝ち」


「くっ、まだまだ!! ここからだって、先読みは──」


 高度な戦いは読み合い、そして陣取り合戦へと至る。

 武器を構えた剣客同士が、動かずに長らくの時を過ごすのと同じだ。


 石柱をアポートさせ、目を眩ませる。

 もしくは回避行動に回らせることで俺が一手、先取り。

 タフはここからでも巻き返しを図るつもりだろうが、


「──未取」


 一手後出しになった時点で、勝敗は決する。

 呼吸、瞬き、無意識下での死角を捉える絶技。


 俺を常に捉えていることが、唯一の対象法だったな。

 まあ、今回はこちらに魔法スキルというアドバンテージもあったし。

 面白いものも見れてそこそこ楽しめた。


龍拳ロンケン


 後ろから頭部へ、スペル・インパクトを無詠唱で用いながらの攻撃。

 殺気を感知し、なんとか俺の方を振り向くタフ。


「まだ、ミサンガがッッ────!!」


 その目はまだ諦めていなかった。

 確かに、ミサンガがあれば、戦いは一度振り出しに戻る。

 初手を奪われた状態でも、なんとか巻き返しを図れる最後のチャンス。


 でもそれは俺もわかってることだ。

 今回は、舐めプせずに対策してるぞ。


「マナバースト」


 死亡回避から即攻撃に移る、直前に弾き飛ばす。


「ぐうッ!?」


 同時に、空蹴を用いて同じように飛ぶ。

 そしてそのまま抜刀状態の羅刹を右手に呼び、首を切り落とした。




「……あーあ、また負けちゃったかぁ」


 事前に情報を得ていたのだろうか。

 首を切り落とされても、タフは平気そうな顔をしていた。

 そしてそのまま熱い視線を俺に向けて言う。


「魔法……かぁ……実際ありだよねぇ……?」


「ありありのありだぞ」


「うん、ゲームの中でまで得意分野に依存するのもなんかあれだと思うし、僕も魔法職取ってみようかなあ」


「そうだな」


「あんたは……ここではローレントって言うんだっけね……すごいよ、また違う畑の分野を初めて、ここまで使いこなす。なんだかんだ武術界隈のこともそうだけど、いろいろ先取りしてるよね、時代を牽引してるって言うか……」


 たまたまだと思うけどな。


 タフの話を聞く限り、俺がパイオニアというか、俺の周りにいるゲーム廃人たちがいろいろとことを勧めるのが早くて、アレヨアレヨというまに拠点ができてってそんな流れだ。


 っていうか、魔法職を取ったことすらも、たまったまというか、なんというか。

 慣れないゲームの単純ミスから、ここまでなんだかんだやってこれた。

 運が良かった、まさにたまたまだったんだ。


「なにナチュラルに話してるんですか?」


 裏路地においてある適当な箱の上にタフの生首を置いてそんな話をしていると、モナカが奥から姿を表した。


「……まあ、死に際の問答だな」


「そうですか、まあ、この様子じゃ危害も加えられることもないですしね」


「あっ! ちょっと、なんで僕の身体に勝手に座ってるのさ!」


「まあまあ、いいじゃないですか」


 死体蹴りとは、俺よりとんでもないな、と思いつつ。

 モナカのニコニコとした表情にため息をついたタフは、


「兄さん……負けたんだね……」


 そう呟いた。

 まあ、無理もないな。


 俺はモナカが負けるとは万に一つも思っちゃいなかった。

 弟よりも兄の方がまず弱い。

 そしてモナカは唯一、俺と同レベルの強さを保持していた柔道家である。

 目の前の柔道着娘姿のモナカが、俺の知る三船最中であるとするならば、だ。

 技を見ている限り、その線は濃厚である。


「達人の中でも達人、十回に一回は俺を負かすだろうしな、モナカは」


「あらまあ、十回に十回の間違いではないですか? まあまあ」


「ん? ……十回に十回とも俺が勝つ?」


「何言ってるんですか? 十六夜さんもツクヨイさんも言ってましたけど、さぞかし耳が悪いんですねぇ?」


「いや、十回に〇回だな。モナカが勝つのであってるけど十回に〇回しか勝てない、うん」


「……言葉がおかしいですけど……まあいいです。とりあえず、この美少年の方に聞いておきたいことが一つありましたんで……」


 タフの表情がややかたくなる。

 モナカは相変わらずのニコニコ笑顔で、そういえばさっき合流した時からなぜか右手に持っていたロープを【闘志】を詠唱したのち引っ張った。


 すると、ロープの先から、紐に繋がれた男たちがぞろぞろと姿を表す。

 腕にも、足にも、口にも、ちゃっかりロープを当てられて、そして関節という関節を全て外しているようだった。


「えぐ」


「美男子様ほどではございませんけどねえ……少なくとも五感を奪う類ではありませんし」


 それもそうか。

 納得しておく。


 モナカは、苦痛に蠢くその男たちの塊を見ながら、変わらぬ笑顔のままタフに尋ねた。


「この小競り合い、いつまで続くんでしょう?」


 笑顔が怖い。

 おそらく盗賊ギルドから監視の目として派遣された男たち。

 今回はプレイヤーではなくNPCの集団である。


 NPCも敵対した時点で反撃許可が可能になるのだが、一応モナカは殺さず連れて来たようだ。

 それでも一思いに殺した方が、苦痛から解放されると思った。


「……うーん、それはわからない」


 タフは少しだけ困った顔をする。


「負けた以上、そこの彼に情報は別に喋ってもなんでもいいんだけどさ? 僕らは彼と戦いに来た、それだけだったから居場所以外は特に教えられてないし、それ以外の情報は必要なかったんだよね。金もたんまりもらってたしさ」


「面倒ですね……私も対敵戦力のために雇われるしがないネトゲ傭兵みたいなもんですけど……長引くと睡眠時間が……ああ、美容の敵です」


「君の美容とかは知らないけど、同業者はいっぱいいるよ? 誰だって彼とは戦って見たいと思っているからね、ミヤモト君を筆頭に集った有象無象がいっぱいさ」


 タフは残りヒットポイントがもうないことを確認すると、言葉を続けた。


「そろそろ時間だね。じゃ、今回は負けたけど……次は負けないから」


「……また挑んでくるのか、懲りないやつだな」


「懲りないし、しぶといから今まで生き残って、強くなって来たんだよ」


 タフはそう、達人としてのもっともらしいことを一言告げた後。

 デスペナルティの光に包まれる、そして、


「まあ僕もあんたに勝つために経験値つまないといけないからね? どっちにつくかは……、その時次第さ……ふふふ、またねローレント」


 そんな捨て台詞を残し、死に戻って行った。


 なんだろう。

 最後は、いろいろと吹っ切れたような目をしていたなあ。






再登場の予感。

その時、必殺技に名前がつきますね笑


あ、電子書籍出てます。

年末から年明けにかけて、忙しくなって来ました。

もちろんクリスマスの予定は一切ありません。


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