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■ノークタウン/裏通りのバーカウンター
「おい」
「あん? 誰だてめ」
呼びかけると革と鉄の混合軽鎧を身に付けた男が一人、やすそうな酒を煽り訝しげな表情をしながら振り返った。
そのまま刀を手元に転移して首を切りとばす。
「キャアアアア!!!!!」
スーパーデイタイム。
昼夜関係なく、人の出入りはある。
むしろ、薄暗く弱々としたあかりを灯すそんな空間だ。
プレイヤーだけではない、普通のNPCだって夜を感じに利用する。
そんな場所で──、
「よし、お前はリストに載ってる奴だな」
「──く、かっ……?」
──俺は一人PKの闇討ちを行なっていた。
今しがた仕留めたのは、裏ギルドと盗賊ギルドを掛け持ちする“渡し屋”とでも言っておこう。
情報伝達は重要だ、とりわけ盗賊ギルドは情報を何よりも大事にする。
裏ギルドとて、はなっから信用していないだろう。
ただの利害の一致、もしくはどちらかが依頼された。
それか、“同じ依頼主”が付いているか……だろうな。
故に、盗賊ギルドは信頼の置ける子飼いを裏ギルドに入れる。
そして、そいつを介して情報をやり取りする。
性質的には一方通行でもあるだろう、必要な情報を必要なだけ揃えてもらえば、裏ギルド側からすれば十分なのだから。
その情報網をリストと照合し、しらみつぶしに削って行く。
今回の俺の役目でもあった。
第一拠点を潰した後、ノークタウンでログインしてみれば。
生産組のメンツから色々と小言を言われる羽目になった。
リアルでは言ってくれる奴が今はトモガラくらいしかいないので、なんだか懐かしい気持ちにもなる。
ニシトモはトンスキオーネを使い相変わらず裏から適切な手を回しているだろう。
レイラ、ガストン、ミツバシ、イシマル。
それにセレク、サイゼ、ミアン達は、アンジェリックの兵隊が守護する場所にこもっている。
さらなる護衛としてイベント用の仮拠点から出張ってきたツクヨイ、十六夜とブラウの率いるクランが務める。
まあ、万が一、突破されるような手練れがいたとしても……。
三下さんがいる。
さて、今回遭遇した獲物は“二枚舌のフランコ”という男。
生首状態に精神が耐えきれず、白目をむいて舌をだらしなく口から出し気絶している。
二枚舌らしく、その舌はぱっくり二つに別れていた。
……どうやったんだろうか?
まあ、自分の身体を傷つけて二つ名をご所望とは、平和な野郎だな。
背負う名前は勝手に名付けられるもんだ、本人が知らんところで、どんなに不服でもな。
「邪魔した」
「へ? ──あっ」
そこでバーテンダーのNPCが気づく。
フランコの名前が真っ赤なレッドネームだってことに。
「た、助かりました! お、お代は結構ですので……ッ!」
「……? いや、迷惑料払うけど?」
とりあえず賞金首ではないが、殺したPKからは色々と奪えるので金目の物は全部この店にくれてやる。
あくまでスタイルは正義の味方だ、なんだかワクワクして来るな。
「こ、こんなに!?」
そんな反応を見せられるとは、フランコはよほどやっすい酒を飲んでいたと見える。
「良い店だ、潰したくない」
小さい見せながら、置いてあるグラスは全てピカピカに磨かれている。
それにいろんな物資が集まるノークタウンらしい、テージで出回ってる魔銃まで飾ってある。
なんだかしっかりしたコンセプトなので、今度テージシティでもパクらせてもらおっと。
「あらあなた……強いのね」
際どい格好したメスが寄ってきた。
香水くさいなあ……。
「私はエルディア……この店で働いてるんだけど……どう? 一緒に飲まないかしら?」
「遠慮しておく、まだ跡が控えてるからな」
「ああん、せめてお名前だけでも」
面倒だなあ、とりあえず気安く触られないように殺気出しておく。
寄らば、斬る……とな。
「ひッ」
青い顔して腰を抜かすエルディア。
「また来るかもな」
もう来ないけど。
とりあえずこの場を濁して立ち去ることに。
あんまり派手なことはしないように心がけなければ。
あくまでPKを裏で狩るのが今回の趣旨。
激しく店ぶっ壊したり、ノークタウンの住人の恐怖を煽ったりはご法度なのだ。
「……さて、次の店は……」
さっきのPKガチャはなんだかんだただのレアだな。
盗賊ギルドの奴ではあったが……裏ギルドにいる手練れはどうした?
まったく、まったくもってけしからん。
……だが、闇討ちを初めてそこそこ時間が経つ。
そろそろ誰かが連絡を取って俺の動きを感知した頃合いではないか?
プレイヤーにはリアルでも連絡を取り合えるという利点がある。
どっちにしろ定期連絡とかそういう対策とってるだろうし、そろそろ異変に気付く頃合いだ。
それまで食べ歩きしながら討ち取っていこう。
まさに、そう思っていた時だった。
背後に視線を感じる。
その数は……うーん、三人かな。
あ、上に二人いるから合計五人か。
ちょうど良い。
そのまま細い裏路地へと入って行く。
俺の歩く速度と同じペースを保ちながら、尾行する者たち。
いつまでたっても襲って来ないところを見ると、どうやら跡をつけて仲間がいる場所を割り出そうとしていることがうかがえた。
なるほど、単独犯ではない……と思っているんかな。
残念ながら今回は俺一人の行動だ、君たちの行動は全部無駄なんだな。
「クッ!」
そんな奴らを罠にはめるべく、細い路地を走る。
ゴミ箱を倒し、洗濯物を引きちぎり、障害物を作りながら走り角を曲がり視覚を作る。
「上から回り込め!」
相手もいきなり動き出したことに焦ったのだろう。
ぴったり真上をついていた二人を先行させる。
上の注意が削がれたな、次の角で──俺が上を陣どろう。
空蹴を用いなくても狭い路地くらいならてっぺんまで駆けあがれる。
だが、とりあえず便利なスキルは使っとけ精神で一気に上空に駆け上がった。
「ど、どこに行きやがった!?」
「先回りはどうした!」
「おい、待ち伏せしていたが来なかったぞ!」
慌てる追跡者たち。
先ほどまで上を陣取っていたから、無警戒になっているんだろうな。
愚の骨頂とも言える。
ここには絶対にいないと無意識で思っている連中の隙を突くのはいとも簡単だった。
──グシャッ!
一人。
高所から飛び降り、頭を踏みつけた。
脊椎が潰れ、頭蓋が体にめり込む。
そんな壮絶な死に方をした男を踏みつけながら。
羅刹ノ刀で一番近くにいたやつの首を刎ね飛ばした。
「──ッッ!?」
唖然とした表情で、現実を飲み込めていない残りの三人に言ってやる。
「次から尾行はもっと上手くやれ」
電子書籍が出てるぜよ。




