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-431-※※※ケンドリック陣営※※※

■ノークタウン西/ケンドリック騎士団本部



「ぐむむ、むがーー!!!」


「ど、どうされました……ケンドリック様……」


 真っ白に塗られた鉄の鎧を身につけたケンドリックは、わめき散らしながら物に当たっていた。


「この僕が、遅れをとるなんて……ッッ!」


 部下の一人がなだめようとも、この男の癇癪は止まらない。


「クソども相手に対等な取引や、色々な物資を融通してやったのはどこのどいつだと思っているんだッ!」


「確かに……ここまで手を尽くしたケンドリック様を裏切るなんて、愚行です。今すぐ騎士隊の物たちを派遣しますか? ノークタウンに滞在する今がまとめて叩ける貴重な時です」


 ケンドリックがこうなってしまえば、ある程度鬱憤を吐き出すまで止まらない。

 周りの者たちはみんな兜を被り表情を隠して、嵐が過ぎ去るのをじっと待つしかなかった。


 彼の家柄は海外の富豪ランキングにも名を連ねるほど。

 そしてその下で働く者たちに取って、ゲームの世界でも主従関係は変わらない。

 普段は私生活の面倒やら、護衛やらを全て行なっている者たちだ。

 GSOの世界でも、配下の騎士として主人の命令を全うするだけ。


 内心金持ちのお戯れにやれやれで付き合っていると思いきや、実は部下たちもノリノリなのである。

 動員数はすでに五十を超え、いろんなしがらみのあるリアルを忘れるひとときとして、交代制でゲームの中でも職務にあたるのだ。


「いや……いい、カスどもはカスどもらしくお互い潰し合えばいいさ……」


 ひとしきり暴れた後、やや落ち着きを取り戻しつつあるケンドリックに部下は尋ねる。


「では、今回のイベントには参加しないおつもりで?」


「ああ、今回僕たちはイベントの参加を見送ることにする」


 そう言い切ったケンドリックの言葉に、周りの部下たちが少しざわつく。

 裏切ったPK陣営も、ライバルである第一拠点陣営も。

 敵対と言えるプレイヤー勢力が一様にして今日と明日。

 このノークタウンに集まると言うのに。


 動かないのか? と。


「僕が、僕が奪う予定だったあの拠点……それを奪ったのはPKだよね」


「はっ、セイスとシエテを潜入させ、盗賊ギルドと裏ギルドを用い接収させる予定でしたが、どちらにも裏を切られて横取りされた形になります!」


「それで、あいつが……あいつが……その拠点を壊滅させたってことは……本当だよね……ぐぬぬぬッッ……! 思い出すだけでも腹立たしいぞ、ローレントめ……ッッ! まるでッ! 僕がッ! ピエロじゃないかッ!」


 再び癇癪が怒り出しそうだと、部下は思う。

 だが、ケンドリックは一度息を大きく吐き出すと、目を細めた。


「前向きにチャンスと捉えよう」


 それは久しぶりに見る、叡智に満ちた主人の顔だった。

 周りでお馬鹿ボンだと呼ばれているのは部下たちも知っている。

 ただ、口にしていないだけで。


 ゲームにこれほどまでに人員を投入するレベルの思考回路の持ち主だ。

 ログインするときも、していない間の職務中も、全て給料が発生しているので、バカにならないほどのリアルマネーを課金がないこのゲームで費やしている。


 だが、たかが金払いが良いだけの理由で、部下たちは従っているわけでもなかった。

 損も大きい、だが、それをリカバーするほどの発想を、このボンボン主人は時たま見せる。

 御門ミカド一族のパンドラボックスとして、こうして自由を許されるほどの利益を生み出して来たのだ。


「どちらも疲弊しきってるし、あの拠点を潰したってことは、もう放棄したとみていいだろう。ならば再出発には時間がかかる。そしてPKたちに物資の融通は二度とするな、ノークタウンも裏とは手を切る……情報によれば、どいつもこいつも裏を用いて搦め手を使って来ているみたいだし……そういう時は正攻法に限ると、僕は思うんだ。なあ、宇野ちゃん?」


「はっ」


 ケンドリック騎士団。

 親衛隊序列1位のウノがケンドリックの言葉に頷いて返す。

 ちなみに本名も宇野といい、ケンドリック騎士団の序列がスペイン語あたりから来ているのは彼が宇野であるからだったりする。

 どうでもいいことか。


「僕が公爵騎士団と話をつけに行く、準備は整っているかな?」


「クエストの進行は騎士団のものが持ち回りで合同演習などを行なって進めております!」


 レイドボスイベントの時より、ちらちら顔を見せるようになった公爵の騎士団達。

 規律を重んじて、厳しい指導、巡回を行う何かと制限の厳しいクエスト。

 ケンドリックの人海戦術を用いれば、すぐに先へ進めることは簡単だった。

 そして信用を勝ち取り、どんどん内部へ食い込んで行く。


「まだ団長とは話してなかったからな……よし、今のうちに話をつけ、そして遠征隊を組織し、テンバータウン以南の森を、山を、根こそぎ狩り尽くす。人員を配備しておいてくれ、宇野ちゃん」


「はっ、山狩りとなるとやや人員が不足すると思うのですが……」


「クエストを出せ。プレイヤーへの名目は騎士団遠征で信用度とグロウ、そしてドロップアイテムや素材の一部を報酬としてだせば飛びつくだろう」


 こうなれば我らが主人ケンドリックの行動は早い。

 それが有利不利、どちらに作用するかは考えてないだろうが、基本的にこの時のケンドリックの行動はイレギュラーがなければ利益に結びつく。


 そうじゃなければ、このプレイヤーズ拠点が町と認められることもなかっただろう。

 信用度度外視して、初手で自由一の封鎖を行なったのだ。

 NPCの信用度なんか地に落ちたも同然と思われがちだが、表向きは仲良くやっているのだ。

 裏で何をやっても、お互い様だということをケンドリックやその陣営はよくわかっていたからである。


「貴族どもの関心が今、南の森に傾いているのはわかるな?」


「はっ! 公爵からの情報によれば……ですが、辺境伯がテンバーに騎士を駐在している模様です」


 レイドボスイベントの際、王家側からは公爵の持つ騎士団が。

 そして地域一帯を管理す辺境伯側からその息のかかった騎士団がそれぞれ派遣された。

 どちらも辺境地を守る名目であるが、その本音はわからない。


 他のプレイヤーにはただ騎士団が来るということしか伝えられていないのだが、騎士団のクエストを進めて行くうちに、その騎士団も一枚岩ではないということをケンドリックたちは掴んでいた。


 最前線には辺境伯。

 そしてその一つ手前のノークには公爵の騎士団が、それぞれ控えている。


 最初は、テージシティのレジテーラと辺境伯が手を結び、第一拠点の連中を繋がって独占でもするのかと思っていたが、調べて行くうちにその予想は大きく変わった。


「ふん、ノスタルジオとかいうマフィアがペンファルシオをたぶらかして、テージシティの貴族を一人殺し、そこへ介入しようとしていたとも聞く。辺境伯あたりがちょっかいをかけたとみて良いだろう」


 レジテーラは何も知らない坊ちゃんで、辺境伯が裏から手を回し資源を根こそぎ奪い取る算段を立てている。

 同時に、公爵家も辺境伯が余計な力をつけないようにと監視の手を回しているのだと。


「だからチラつかせてやるんだ、プレイヤーはどこへ向かっても自由だ、僕たちの遠征に加わるという形で餌をチラつかせれば公爵は乗る。裏ギルドも、盗賊ギルドも、そしてあの憎っくきローレントたちもみんなまとめて地に落とす」


 そしてケンドリックは腕を振るう。

 その合図に従って、部下たちはそれぞれ自分のやるべきことに最善を尽くす。


「僕をさんざんコケにした報い……受けてもらうからな! っと、その前に……内部に色々と探ってる奴がいるだろう? 我が最愛の妹だよ、あいつの部下たちもろとも、みんなまとめて追放しておけ」








セレクの表記忘れについてはすいません><


セレクはですねぇ、ローレントの装備を一任されている時点で、お察しください。


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