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「とりあえず、寝るの邪魔したやつは殺したし、そろそろローレント仕留めるか」


 流動するマーダーアントの中で、ギジドラがポツリと呟いていた。

 なるほど、すがる子犬のような目をしてギジドラの名前を読んだPK。

 あいつがログアウトしたこいつを起こしてログインさせたわけだな。


 リアル時間では、金曜早朝。

 ここから夜が明けるとともに金曜夕方に差し掛かり、そしてスーパーデイタイムとなる。

 土曜日、日曜日はゲーム内時間がリアル時間とリンクするからな。

 そして二日かけてノークタウンに作られた会場で闘技大会という運びになっているのだ。


 あす明け方から事を起こすつもりで準備していたPK達には、この時間での仮眠が重要になってくる。

 そこへ俺がPK狩りを行って、更に言えば、蟻を従えて逆侵攻をかけたのでてんやわんやといったところ。

 どうりで、明日に備えて強い奴らはみんなログアウトしてるからか、骨がない雑魚ばっかりが集まっていたのか。

 この手応えのなさ、納得といったところ。


 差し詰め、ギジドラがPKを殺したのはただの八つ当たりか。

 森に来た時点で色々とめんどうくさそうにしていたから、今のやつは眠気でイライラしている模様。


 眠気は脳の疲労によるもの。

 ゲーム内の自分にももろに影響するから、倒す隙を捉えやすいのだが……、


「兵隊集合〜、雑魚は撹乱〜、だから死ぬ気で女王連れてこいってダボ」


 そんな言葉をつぶやくギジドラの周りには、攻撃をやめたマーダーアントたちがうようよと集合している。

 これでは近づけない、いったいどうなっているんだ……。


「……調教スキルの上位でしょうね」


「む?」


 明らかに異常な状況に目を向けながら、十六夜が一言。


「プレイヤーは一人一体分のテイムキャパシティがあり、調教スキルがなくても条件トリガー次第でモンスターをテイミングすることが可能なのは知ってますね?」


「ああ、多分俺が一番最初にテイムしたっぽいしな」


 あの時、条件は良く分かっていなかったが、だいたい解明されたそうだ。

 悪称号持ちのプレイヤーに瀕死にされたモンスターを助けるとトリガー解放。

 たしか、相棒との出会いイベントってことでそれを狙ってPK情報のある場所へ狩りに向かうプレイヤーも多いんだとか。

 まあ踊らされてPKに会うリスクもあるわけだが……。


「調教スキルのレベルによって、テイム可能になるモンスターの範囲が広がり、スキルの方向性によっては一体までの上限が変わってくると聞きました」


「どこ情報?」


「アンジェリックさんです」


「なら信用できるな」


 アンジェリック達はノークタウンの調教師を囲っていたしな、なんとなく信用が置ける。

 それにいつもどこかのポジショニング争いをしている彼女達は、それでいて妙に仲が良く、こういったときの結束力が強い傾向にある。

 いったい女同士で何をやっているのかわからないのだがな……。


「で、上位の調教スキルになるとモンスターの範囲か、量か、その采配が自分で選べるようになるらしいです。さらに、調教系の称号や、その他それに準じたスキルによってその範囲は拡大する……という見解があると」


「へぇ……」


 ならば、このあり得ない状況は、悪徳調教師であるギジドラのなんらかのスキルや称号が密接に関わっていて説明がつくということか。


「まるで蟻の王だな」


 千を超える蟻を従えて、さらにその軍勢を指揮し、女王を我が物顔で呼び寄せる。

 まさに頂点に立つものに等しいいかれっぷりだ。


「……よく気づいたな〜」


 俺のつぶやいた一言に、ギジドラが反応した。


「俺は殺人蟻の王称号を持つ上位調教師」


 マジで蟻の王だったっぽい。

 十六夜の話は予々当たっていたようだ。


「本当は明日、こいつらでノークタウンせめてみんな蹂躙する予定だったんだけどな~……マジで面倒なことしてくれるぜ……ローレントさんよ~」


 そう言って徐々に集まり来る普通のマーダーアントよりも三倍くらい身体がでかく、外殻や手足に棘が生え、刃物のように尖った大顎を持つ兵隊蟻を俺にさし向けるギジドラ。


「ギチギチギチ!」


「ハハハハ! 数は力なんだよソロ最強さんよ〜!」



【マーダーアント・ソルジャー】Lv1

殺人蟻の戦闘タイプ。クラス3。

マーダーアント十体分の戦闘力を保有する。




「グルゥ……」


 巨大な蟻を目の前にして、ローヴォとルビー、そしてノーチェがやや尻込みしていた。

 三体くらいまでなら、まだ余裕で相手どれるのだろうが、向かってくる兵隊蟻の数は総じて十以上の規模を持つ。

 それがギジドラに従って隊列を組み連携を取るもんだから、とんでもない。


「大丈夫だ」


 十六夜とともに一度ノーチェから降りると、ローヴォとノーチェの身体を優しく撫でる。

 寄せ玉である程度の制御も聞かなくなってしまったし、ギジドラのスキルの力か、蟻の動きが格段に増しているので、地上戦はやや不利と見た。


「ノーチェとローヴォは一時戦場から川へ全力離脱」


「へっ?」


 俺の指示に全力で川に駆け出すノーチェとローヴォ。

 その様子を見て、十六夜が呆気にとられる顔をしていた。


「なに?」


「いや……え? 私たちは逃げないんですか?」


 やれやれまったく、何を言ってるんだ。

 逃げるも何も、俺も十六夜も蟻にはない攻撃手段があるじゃないか。


 そう、──空である。


「ルビー!」


「ピィー!」


 十六夜を置いて、俺はルビーにまたがり夜の空へと跳び上がった。

 空蹴は一度地面か何かに足をつけないと、再使用ができない制限があるが、ルビーは違う。

 大跳躍で大空を駆け抜けれるし、なんなら空気を蹴ってホバリングも可能という壊れ性能。

 さすがクリムゾンコニー、赤い悪魔。


「ま、待ってください! ほわっ!」


 あっけにとられて固まっていた十六夜も、兵隊蟻達に噛み付かれるすんでのところでブルーノの足を掴んで飛び上がる。


「チッ」


 下から舌打ちが聞こえた。

 やはりたかが蟻だ、地上では数という大きなアドバンテージを持っていたとしても、制空権を取られてしまえばワンサイドゲームだ。


「なぜ川に逃がしたんです?」


「虫だからだ」


 俺の契約モンスター達は水を怖がらないように訓練してる。

 水中でもむしろスイスイ行動するくらいだ。

 第一拠点村と新たに解放された湿地帯方面はある程度モンスターの間引きがすんでいるので襲ってくるモンスターは存在しない。


 蟻は確か、水に対して集団でまとまり筏っぽいのを作る習性があったよな、だから大丈夫だと踏んだ。

 っていうか寄生でもされてない限り水には近寄らないだろ。


「舐めんな! 雑魚蟻ども、塔を作れ!」


 弱点をあっさり突かれて激昂したギジドラは、大量のマーダーアントにそう指示を送り、蟻の塔を作り始めた。

 まっすぐに、俺たちの方向へ、蠢く巨大な塔が建設されていく。


「これは……キモいですね」


 十六夜が顔を歪めながらそう言う中、俺は無言で手榴弾を十個ほどアポートで手元に引き寄せ、そのまま起動させてばらまいた。




 ドガァァンッ、ドガァァンッ、ド──ガァァアンッ!




 連鎖する爆発の嵐。

 ハハッ、蟻の頭が川にいっぱい浮いてるぜ。








ギジドラ八つ当たりでした。

カイトーから十六夜に変えて置いてよかったですね。




地上では鬼と蟻がぶつかりげいこしていることでしょう。


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