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……別に楽しく戦ってるわけじゃないし、殺しが理由ではない。
ないのだが……なんだろうか、PKの心理というか。
それが如実に出ている気がする。
「一つ、勘違いしているなクラフト」
「はあ?」
訝しげに眉を動かすクラフトに言って置く。
「殺すのを楽しむのは、ただの犯罪者だぞ」
「当たり前だろバカが」
殺しが目的ではない、振り払う火の粉を払う上で、特に躊躇してないだけだ。
リアルでは抑圧された感情やら行動がゲームで如実に現れる。
だから悪党みたいなプレイをする奴らがリアルよりも多い割合で存在する。
「戦いは好きだ」
でも、悪党みたいな真似をすることに興味はない。
そういうことだ。
目的ではないのだ。
手段にその選択肢があるとすれば、多分悪党でもなんでもやるだろう。
ただ、そうなる前にPKとかレッドネームを持ったプレイヤーがいっぱいいた。
ただそれだけだった。
「……チッ」
クラフトは、舌打ちをしただけですぐに黙ってしまった。
求めている答えじゃなかったのだろうか、それとも俺が格好つけて偽善ぶってると思っているのだろうか。
時として猫はかぶるが、偽善であるつもりはない。
与えもするに与えられもする。
気分次第だな、気分次第。
「それに向こうからふっかけて来た喧嘩だし? 更に言えばPKだったら手加減する必要もないからな」
容赦無く蹂躙するぞ。
麦踏みみたいなもんだ、踏まれて強く慣れPK。
「白けたわ──」
「あっ」
銛を抱えていた十六夜が思わず声を上げる。
それはクラフトが自ら舌を噛んだからだ。
「──またな」
やや舌足らずな声で、俺を睨みつけながらクラフトはデスペナルティ。
俺が彼の耳あたりに引っ掛けておいたミサンガは、どういうわけか効果を発揮しなかった。
自分でつけなきゃだめなのかもしれないな。
「自害ですか」
ノーチェに乗ったまま、十六夜が銛の先を見ながら呟いた。
「まあ、十分情報は集めたって判断したんじゃないか?」
「ではまた敵として前に立ちはだかるんですか? 懲りないですね……」
「どうだろう」
再び準備して俺を殺しにくるならば、正面から相手をするだけだ。
だが、一つ気になるのが、死に際のクラフトの表情は少し前と変わっていたような、そんな気がしたことだ。
「なんか納得いかない風ですね?」
「少し奴の死に際の表情がねぇ……うーん……」
気になる、気になるが、俺は心を読めるような人間でもない。
まあ再開するときに自ずと答えは出るだろうというわけで、記憶の片隅において置くことに。
「そういう時の勘は鋭いくせに、どうして私やツクヨイさん達はこんなにも苦労させられているのでしょう……?」
「はあ? 今その話関係あるか?」
「とほほってやつですね……とほほ」
よくわからん物言いをし始める十六夜はほおっておいて、倉庫を目指す。
集まってるらしいな、倉庫の方に。
川辺エリアは広いが、船やノークタウンとの伝手を持たないPK達には運用できないだろう。
案の定、ただの溜まり場と化していたその倉庫に、俺は手始めに手榴弾を投げ込んだ。
──ドガァァン!
「う、うわあああああ!!!」
「て、敵襲か!? ろ、ローレントか!?」
「ローレントだ! ローレントが来やがったぞー!!」
「ま、マーダーアントもいる!? しかも全然数減ってないじゃないか!!」
阿鼻叫喚の地獄画図が広がる。
そして拠点村南の方からも雄叫びが聞こえて来た。
『こっちにはもう蟻しかいねぇからよー! 俺もすぐそっちにいくわぁ!』
ふはは、鬼が来るぞ鬼が。
PKももうどうすることもできないね。
「後ろは川、北はマーダーアント、南は……逃げてもいいけど多分マーダーアントより危ないぞ」
「ひ、ひいいいいい!!!」
おののく先頭にいたPKを見て、十六夜が言った。
「……どっちが悪党なんでしょう」
そりゃもちろん、あっちだろ!
「くそてめぇら! たった一人と雑魚魔物にビビってんじゃねぇよ!」
「だったらテメェが先鋒つとめとけや!」
「はあああ!? 今日はちっと腹の調子が悪いんだよ!」
「だったらデスペナッた奴らゾンビさせろよ!」
「馬鹿野郎! 死亡重ねたらそのぶんペナルティの期間も長くなるんだよ!」
……まーた内輪揉めか。
マーダーアントを見習えよと言いたい。
とりあえず寄せ玉投げ込んで混乱させて。
ノーチェに乗って切り込んでやろうと思ったのだが……見知った顔の男が後方から姿を現した。
「ったくよ〜、リアルじゃもう朝方だから眠たいんだよな〜めんどくせ〜」
ギジドラか。
首をコキコキ鳴らしながら蟻の渦中を歩いて近寄って来る。
寄せ玉に集まるように仕組まれていても、基本的にプレイヤーを見れば真っ先に襲いかかるマーダーアントの渦中を、この男は余裕そうに歩いていた。
「ギジドラさんっ!」
助けを求めた子犬のような目になるPK。
そんなPKの男に対して、ギジドラは気だるそうにあくびを一つかまして言った。
「──あいつ、殺せ」
その命令に従ってマーダーアントが三体ほど素早く動いた。
俺の後ろでごちゃごちゃと乱雑に動き回っていたマーダーアントが、一列に並んでPKに肉薄し、その身体に食らいついた。
「へっ!? わ、な、ななんでっ!? ひっ、──ぐぎゃああああ!!!」
足、手、頭に噛み付かれたPKは三方向から外側に引っ張られてそのまま捥がれて生き絶えた。
ガヤガヤしていたPK達が青い顔して一斉に静まり返るなか、ギジドラの声が耳に響く。
「後ろに篭ってる兵隊アリ達は集合、とりあえず数は千で、雑魚蟻は女王連れてこい」
その声に従って、マーダーアントが一斉に動きだす。
 




