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「なんだこいつ?」


 トモガラが銛クラフトに気づいた。

 手斧の切っ先でこめかみをチョンチョンと小突く。


「やめろ! 殺すぞ!」


 目をむきだしにして怒るクラフトであるが、首だけになって今更何ができるのであろうか。

 とりあえず、トモガラに羅刹ノ刀について簡単な説明をしておいた。


「へぇ……鬼滅より危険じゃねぇか」


「まあ、PK専用と言っても過言ではない」


 俺はほら、基本的にはいい人側についてるから。

 もっぱら対人となると、殺してもいいアウトロー的なNPCもしくはプレイヤーに限る。

 だから、PK専用だと。


『人なら誰でもいいのに……』


 そんな声が刀から聞こえたが、無視しておきましょう。


「まあ時期に死ぬ」


 回復ポーションは連続使用できないしな。

 限界まで連続使用すると体に不調を来す。

 ミサンガが効けばいいが……効くのかな?

 どちらにせよ、時期に死ぬのだ。


「あかんは、なんか敵ながらかわいそうに思えてきた……」


「カイトー、PKに情けはかけないが、これはある意味情けだぞ?」


「へ?」


「こいつは俺のことよく調べてるみたいだったからそのまま見せてやろうと思ってね」


「……せやかて明らかにえげつないわぁ!」


「ま、敵に回したことを後悔してればいいんじゃね?」


 そんな軽いノリでトモガラが話を締めて、再び俺たちは第一拠点村へと向かう。

 寄り道していたマーダーアントがそろそろ集結して俺に向かって来ている。

 トモガラも、俺も、恐ろしいと感じるよりも、今はただの経験値としか思ってない。

 PKも一緒だ。


「養分なんや……」


 ノーチェに再び乗りながら、カイトーはげんなりとそう言った。


「そういうことだ」


 さて、とりあえずクラフトはもう何を言っても無駄だと改めて理解して、黙って見ていることに決めたようだ。

 それでいい、見て研究して再び挑んでくればいい。

 こいつは有象無象とは違うはずだ。

 生首になっていても、なんだか慣れてるみたいだし。


「とりあえず、敵はまだいっぱいいるから行くぞ。何やらきな臭い動きを見せているようだし」


 リアルで連絡もとっているみたいだからな。

 藪を叩いて何が出てくるのか、非常に楽しみだ。


「ほな、また目の役回りを──どっへぇええ!?」


 改めて出発しようとしたところで、カイトーが何者かに蹴り飛ばされた。


「む?」


 なかなか素早い動きと、俺の気配察知も切り抜けてくる。

 そんな動きができるやつは、世の中なかなかいない。

 モナカか?

 と思ったが、ローチェの後ろに飛び乗ったのは金髪の女性。


「ここは私の特等席です、フフフフフ」


「……十六夜……」


 特等席ではないのだが……それよりも気配を感じさせずにこの場に現れたことが怖い。

 十八豪と同じで何かとストーキング行為に長けていると思っていたのだが、まさかここまでとは。

 上を見上げると、でかいフクロウが音もなく夜空を飛んでいた。


「上からか……危ないな」


「あなたの馬でしたら、私が飛び乗ってもビクともしないでしょうし?」


 まあ、名馬だからな。

 ミドルホースクラスのくせして、なかなかどうして立派な体格を持っている。

 いいもの食わせすぎたかな?


「──な、なにすんねんな! いきなり人を蹴飛ばして!」


「え? ああっ、すいませんすいません!」


 下から声を上げるカイトーに、ハッと気づいた十六夜は器用に鞍の上に正座してペコペコと謝っていた。


「な、なんや……毒気抜かれるわぁ……」


「とにかく十六夜。カイトーは看破スキルで俺の目として必要だから降りろ」


「フフフ、猟師である私の目も近縁職として大きなアドバンテージを持っています」


「……ほう」


 聞けば、看破はかなりのレベルであるという。

 木こりでマタギのトモガラも見抜くスキルに対しては職業補正的なものがかかっているが、最初から猟師として狩り人プレイしていた十六夜の目はかなり仕上がっていると言ったところか。


「なんや? わい、いらん感じ?」


「いりません。私が乗ります」


 きっぱりと言い切る十六夜は、俺の後ろを譲らないつもりらしい。


「でもなぁ──」


 そう言いかけたところでカイトーが慌てて喋り出した。


「せなや! わい戦闘向けやあらへんし、後方から馬に乗って射撃ができて、空中にいるフクロウから刺客もカバーできとる十六夜さんの方が適任やろ! な? せやろ?」


「そ、そんなに褒めなくても……なんだか悪く思えて来ましたしやっぱり私は後ろから援護……」


「なんでそこで謙遜すんねんコミュ障か!? さっきまでえらい譲らん顔しとったやん!?」


 なんだかまた一悶着ありそうだが……マーダーアントがすくそこまで来てるんだが?

 このままだとテンバータウンにも余波が行きかねないから早くしてくれ、と言おうとした。

 だが、


「おい、早くしろや、誰でもいいからよ」


 巨大な鉞でマーダーアントの大群を派手にぶっ飛ばしたトモガラが、歯ぎしりとともに全身から身体強化と闘志スキルの淡い光と、鬼滅で出る常軌を迸らせてい睨んでいた。


「短気か」


「おめぇほどじゃねぇが、とりあえずはよしろ」


「「ははははいっ」」


 目を丸くした十六夜とカイトーはあまりの迫力に顔をコクコクと素早く頷かせた。

 とりあえずカイトーと十六夜は交代。

 戦闘力皆無なカイトーと比べて、十六夜ならば馬の上からでもヘッドショット余裕のプレイヤースキルを誇る。


「よろしくお願いします」


「……バカが、馴れ馴れしく挨拶するな」


 十六夜は意外なことに、銛クラフトに抵抗はなかった。

 テンバーの後ろからなんだかんだと見に来た、まだ移動が終わっていない雑多なプレイヤーたちは引いていたというのに。


「固定砲台は任せてください」


 そう意気込む十六夜を乗せて、俺はノーチェを走らせる。

 トモガラはすでに村に向かって行った。

 マーダーアントを正面から蹴散らしてな。








アビス様きた

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