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「カイトーはノーチェと逃げていていいぞ」
「大人しくそうさせてもらうわ」
そろそろ第一拠点へとたどり着く。
爆心地として俺は中央の公園へと向かい、正直この拠点は完膚なきまでに壊してもいいとさえ思った。
なんでそう思ったかというと……なんかみんなの思い出が汚されてるようですごく嫌だったから。
到底三十路とは思えない行動理念かもしれないけど、たまにはいいよね。
こうやってハメを外せるのはゲームの中くらいなもんだから。
現実では壁とか道とかよく壊して弁償させられていたこともあるし、させたこともあった。
もっとも、途中から俺が払うのはおかしいってトモガラが難癖つけて発端の相手に払わせ始めたんだけど。
話が逸れた。
後ろのマーダーアントの軍勢を確認しつつ、このまま順当に行くと15分もしないで第一拠点村に着くのだが、そんな折に誰かからメッセージが飛んで来た。
『おい今何してんだ』
トモガラからだった。
メッセージを打ち返すのが面倒なので、ストリーミングのアドレスをはっつけた。
「聞こえてるか、見えてるかトモガラ」
そいうと俺の意思を汲み取ったのか、メッセージに『おう』とだけ送られて来た。
「な、なんや? どうしたんいきなり?」
「メッセージ打ち返すのが面倒だからストリーミング映像を飛ばして話しかけている」
「ああ、なるほどなあ……」
とりあえず今の状況を掻い摘んでトモガラに話した。
PK狩りしてたら寄せ玉使われてMPKされそうになったことや、その大群を率いて、第一拠点を攻めること。
その折に、もう色々ぶっ壊して一から作り直してもいいんじゃないかと、ということを話すと。
「ひぇ、ほんまかいな」
カイトーは震える声でそうビビっていた。
まあ事の発端がある意味こいつ自身でもあるからな、とんでもないおおごとになりかけているのを間近に聞くと、そんな反応も見せるだろう。
「ある意味本気だ。ちなみに相手が籠城してきた時用の攻城兵器も仕入れてある」
「……どんなん?」
「爆発物」
破壊を念頭に置いたアイテムなので、森では使えなかった。
もっとも、エナジーブラストの威力が上がるとともに、大技の環境破壊効果が著しい状況で、爆発物の扱い方を考えても仕方のない事だとは思うのだが……一応ね?
「まあでも破壊は最後の手段かな、普通のプレイヤーがいたら俺はレッドネームだし」
そう言うとトモガラからメッセージが。
『NPCをMPKするリスクがあるだろバカか』
「ふむ……盲点だったな……とはいかないから大丈夫だ」
拠点からテンバーまでの道には、ウィルソードの連中が構えている。
カイトーに頼んで馬を走らせながら連絡をさせていた。
町長であるエドワルドに連絡が行けば、裏からこちら側のNPCを退かせることも可能。
っていうか、レイラがPKされて奪われた時点で。
その辺のテンバータウンとの関係性なんか、断ち切れてるに決まってる。
今の第一拠点村はテンバータウンから認められたと言うよりも、奪い取り、実効支配しているだけに過ぎない。
システム上の管理許可は取れているが、繋がりのあったNPC達は普通許すと思うかね。
『わかった、俺もすぐ行く面白そう』
トモガラのメッセージはそこから応答がなくなった。
すぐ行くって、明日のためにノークタウンに行ってるとかそんなんじゃなかったのだろうか。
まだ南の森を中心に活動しているのか?
未だに未踏エリアとかあるらしいしな、南の森と山は。
「まあいいや、来るなら来ればいい」
好きにしたらいいのだ、どうせごっちゃごちゃの大混戦が始まるからな。
「み、見えてきたで街の明かりや!」
第一拠点が見えてきた。
このまま闇夜に紛れて……とはいかないだろうな。
マーダーアントの足跡が地鳴りみたいになってる。
やばいぞ、時間経過とともになんか増えてる気がする。
と言うよりも、マーダーアントが通ってきた道を別のマーダーアントが通って連鎖してホースから出る水みたいに永久供給されてるような……。
こう言うところは蟻っぽいというか、なんといううか。
「とりあえずバレることは確実だろうし、やっぱり馬に乗って街を駆け回ってレッドネームがいたら斬る」
「……目の役割やな……こっちからもストリーミング送っとくわぁ」
アドレスを開き、視界の端に固定化。
相手のステータスが見えるとかそんなのではないが、とりあえず目視だけでも看破が聞いて、名前が赤く染まるのだ。
便利である。
だが聞こえて来る音が重複してしまいそうなので、遮断しておきましょう。
『わくわく』
羅刹からもなんだか嬉しそうな声が漏れて来る。
こう言う展開好きそうだもんな、名前的に。
「ん? 地震か? ……って、な、なんだああ!?」
漆黒の馬と、漆黒の軍服。
夜だと気づくのに遅れるだろうな。
見張り役か、それともたむろしていただけなのだろうか。
第一拠点村、北門にいた三人のPKを飲み込む。
「ぎっ!?」
「ぎゃ、ぎゃああああ!!」
「な、なんだああぎゅああああ!!」
一人の首をすれ違いざまに刀で撫でた。
倒れ伏し、そして残りの二人は後ずさりながらその倒れた一人に躓いて尻餅。
そして俺の後ろに続くマーダーアントが飲み込んだ。
巨大なアリに轢き殺されるだけでもとんでもないだろうな。
スキルを使う暇すら与えなかったし。
「南無阿弥陀仏やな……とりあえずわかると思うけど、みーんな真っ赤っかやで……マジでここはプレイヤーキラーの拠点になってしまったんやなって思うたわ」
「了解」
話が早いな。
すぐにノーチェを繰り、一直線にPKへと突っ込んで行く。
馬に乗った頭上からの攻撃。
わりかし練習積んでないとなれない高さからの攻撃。
「防御が遅れてるぞPK!」
テンションが上がってきた。
右手で撫でるだけで、馬の速さも合わさって次々と瀕死に追い込んでいける。
左手が空いているので、とりあえずそうだな……一発撃っとくか。
「エナジーブラスト」
さすがにPKもてんやわんやと叫びながら、真正面から突っ込んで繰る俺に対抗して防御陣形を取る。
だが直線攻撃で、無属性魔法スキルの右に出るものはいないと思え。
フレイムボルテックスは自己を中心に渦巻く炎が持続してダメージを与えるが、エナジーブラストも特大の放射が発生してから収束するまで、大体3秒くらい続く。
まあ並外れた耐久値がない限り、3秒フルで貫通ダメージを食らったらお陀仏だろう。
だがしかし、いくら硬くしようとも……道場スキル派生、魔闘家の六段スキル【魔装】は防御貫通。
一つ前の【魔闘】の力をスキルレベルマックスじゃなくても受け継いでるんだよな。
「と、とめろおおおおおお!!! ローレントを止めろおおおおお!!!」
「じゅ、十人くらい消し飛んだぞ! ば、化け物かよ!?」
……結果どうなるか?
答えは、PKは蒸発する。──だ!
==PK視点==※蛇足
やばいやばいやばい、地響きがして、叫び声が上がって。
外が騒がしくなったと思ったら、黒い馬に乗った、目が緑色に光る漆黒の衣に身を包んだプレイヤーがいた。
あの目は何度も見たことがある……奴だ、絶対に奴だ。
奪った有名店、サイゼミアンでクソまずい飯にありついてたってのに。
なんだってんだいきなり。
なんで奴が、ローレントが、こんなところにいるんだ。
「おいおいおいおい、ギジドラが仕留めたんじゃないのかよ!?」
「あいつ仕留めたからって帰ってきて落ちたぜ」
「はぁっ!?」
目の前に座るこいつはローレントを知らない。
最近PKになりましたってふざけた野郎。
だが、そこそこプレイヤーを狩る技術は持ち合わせているから、期待の新星だ。
いやそんなこと言ってる場合じゃない。
「失敗してんじゃねーかギジドラ! 後ろから蟻引き連れてパワーアップして仕返しにきてんじゃねーか!」
思わず立ち上がった。
確かギジドラは魔物使い。
MPKが得意で、色々とそれを駆使してNPC殺してあこぎな商売専門にしてるやばいPKだ。
おそらく奴の後ろから大群になっているのはマーダーアント。
完全に失敗してる、完全に逆手に取られて逆侵攻じゃないのか?
「であえー! であえー! PKらしく、建物に隠れろ! そうすれば蟻にヤられんのはあいつだろ!?」
公園を走るPKが仲間にそう呼びかけながら、人を集めていた。
そうか、蟻を引き連れていても奴はたった一人。
こっちが何をしなくてもおとなしく見物してれば勝手に自滅するはずだ。
「だな! 奴の大事な倉庫かサイゼミアンに逃げ込……め……は?」
──強い衝撃が起こった。
俺は、一体何がおきてるのわからなかった。
なん、だ……?
身体が、うい、て──、
──あ、新人のやつ、身体が半分……
──千切r、
更新追っつかないのでボリューム上げてます。
いよいよ開始の逆侵攻。




