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 巨大な外骨格、節部の嫌な摩擦音が森中に響いている。

 ざっと数えただけでも、ゾッとするほどの軍勢が押し寄せていた。

 この、女王アリの一部が使われている“寄せ玉”に集結して。


 数で押す魔物は本当にタチが悪い。

 行商クエストでも、シグナスウルフに変わってからがだるかった。


 社会性を築くことができるレベルの本能、もしくは知能が発達すると、とんでもないほどの数になってしまうからな、人間が良い例だ。

 数が膨れ上がれば、対抗するには相応の数、もしくは数に相当する火力が必要になる。


「やるしかないぞ」


「あかんってえええええ!!」


 なら逃げてればいいのだが、この数に対抗するにはルビーをこっちに戻さなきゃいけない。

 ってことはだ、カイトーは自分の身を自分で守ってもらうことになる。


「……ほな、さいなら」


「簡単に諦めんな」


「せやかてぇ」


「ふむ、ならば仕方ない」


 死力を尽くせと、言いたいところなのだが、戦闘職ではないカイトーだ。

 そこで無理を押し通しても仕方がないな、兄弟弟子でもあるまいし。


「ってかあんさん! テレポートで逃げればええですやん!」


「無理だ」


「なんでや! ならわいだけでも逃したって!」


「それもできない」


 スティーブンのと違って、俺のは単体で人を転移させることができない。

 自分の体か、もしくは俺自身が転移するときに体に触れているプレイヤーのみという制限がつく。

 連続してポンポン使えればいいんだろうけど。

 このゲームの仕様上、かなり難儀なデメリットがあるのだろうか。


 アポート、アスポートと違って、視認による瞬間転移の消費MPがかなりのもんだ。

 再使用待機があるものの、基本的に3回やったらマナポーションが必要になる。


「むがああああああああ」


 カイトーはそう頭を抱えながら茂みの中をゴロゴロ転がっていた。


「基本的に逃げのテレポートは使いたくない」


 一度戦場へ赴いたら、戦略的撤退はあり得る。

 でも死線は別、踏んだら生きるか死ぬかでしょう。

 それがまた、楽しかったりするのだ。


「謎理論やめぇや……」


 泣きそうな顔をするカイトーのために。

 一つ面白いことをしてやる。


「希望はある、俺が戦っている間にカイトーを守る算段だ」


「ほんま? で、でもこの大群やで?」


 マーダーアントは集団で取り囲むように動いている。

 戦いやすいにように移動はできないか、全方向から襲ってくるだろう。

 それも、虫ゆえに森の木々なんか楽々と登って上からだ。


「任せろ、イシマル&ミツバシ式の簡単籠城セットがある」


「え……?」


 アポートでストレージから石柱、石壁、その他諸々の建築資材を取り出し。

 そのままカイトーの四方にアスポート。


 ドンドンドンドンッ!


「──ひっ」


 そして石柱には丁寧に溝が掘られていて、そこに石壁をはめ込むことができるのだ。

 ドアも、窓もない。

 空気穴だけ空いた、まさに石牢とでも言えばいいのだろうか。

 屋根も石壁製の四角い立方体の出来上がり。


「強度は保証されてるぞ、とりあえず人力では、現状ある身体強化系スキルフルバフつけても壊せない」


「そら安心やっ! 蟻も大丈夫かいな!?」


「マーダーアントは徒党を組むからメンドくさい。単体ではそこまで強くないからな、大丈夫だ」


 ……たぶんな。


 津波みたいに押し寄せられたり、石柱を突き刺している地面を崩されたらどうしようもない。

 そして万が一にも中にいる状態で壊れたら基本的に潰されて死ぬ。

 それはミツバシが実証していた。


「蟻は俺が片付けてやるし、最悪死んでもすぐに戻ってくる」


 パニック起こしてうるさいのは面倒だから、とにかくそう言ってなだめておく。


「ほな、頑張って!」


「うむ」


 とにかく、そういう部分での欠点は解消していないが、それを抜きにすれば基本的に魔物でも中に閉じ込めておける。

 そう、PKでもな。

 ちなみに空気穴から色々体に悪いものを突っ込んで閉めることも可能っていうのが、一つ悪しきアイテムを作ってしまった感がある。


 現状石牢を即席で建てれるのが俺しかいないってところがまだ健全かな。

 俺は悪い奴にしか使う気がないからな、そうPKとか。


「ローヴォ」


「ぐるぅ」


 こうやって大量の魔物に囲まれている状況。

 何だろう、雪山洞窟の中にいたムカデを思い出すな。

 あの時はツクヨイが上位スキルを使用してなかなかあっけなかった気もするが、今回はそうじゃない。


 ……だが、やりようはある。

 あの時と比べて、レベルも上がってスキルも一つ上位になっている。


 マーダーアントの数は目視でも、気配でももはや数えきれないほどに膨らんでいる。

 今回は羅刹を右手に持って先制攻撃だ。

 数を落とすには死なないけど動けもしない程度の傷を負わせるに限るからな。

 その点で言えば、羅刹ノ刀は六尺棒よりも優れていると言える。

 もっとも、六尺棒にも色々と利点はあるけどね。


 さて……、


「ローヴォ、後方を守って欲しいか? それとも俺の後方を守るか?」


「グォンッ」


 ローヴォの意思は、勝手に動け……だった。

 なるほど、合わせてくれるということらしい。

 流石ですローヴォさん、それでこそずっと冒険してきた唯一のパートナーだ。


「俺は上」


「グルゥ」


 補助系のスキルを全てかけると、刀を口に咥えて木を速攻でよじ登る。

 四足歩行しながら蟻よりもえげつない動きを行う。

 そして飛びついて刀を手元にアポートさせるとマーダーアントの頭と胸の間を断ち切った。


 飛沫が顔にかかるが、問題ない。

 どうせすぐに汁だらけになりそうだしな。


 とりあえずまず一体目、残りいくつだ?

 まだまだいっぱいいる。






更新遅れてすいません。


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