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「はぁ〜い、君たちが面倒だから殺しに来たよ〜」


 そう言いながら急に目の前に現れた男。

 右手に持ったレイピアでバサバサと茂みを斬り破きながら歩いてくる。

 物々しい口調から、PKだと察することができるのだが……レッドネームは表示されていない。




【ギジドラ】職業:剣士

・商人

・調教師




 こうして鑑定をかけてみても、特におかしい点はなかった。

 いたって普通の商人である。

 だが、カイトーがメッセージでステータスのスクリーンショットを送ってくれた。




【ギジドラ】職業:悪徳商人

・悪徳調教師

・犯罪者、レッドネーム

 [プレイヤー及びNPCキラー]

 [違法商取引]

・賞金500,000グロウ




 高い看破鑑定系のスキルレベルを保持するカイトーには、こう見えているのか。

 見たことない職業が二つ。

 これはPK系専門の職業と捉えていいのだろうな。

 そして犯罪歴はプレイヤー及びNPCキラーと、違法商取引。


 ……それだけでこいつが何やったかなんとなく予想がついた。

 さらに、倒すとかなりの賞金がもらえるお得な獲物だってことも。


 ちなみにだが、俺でも鑑定できたクラフトは、[プレイヤーキラー]とだけついていた。

 あいつはあいつなりのポリシーを持つプレイヤーキラーだということだった訳だ。

 当然賞金もなしのちゃっちい相手でもある。


「出てこいよ~、僕って索敵そんなに得意じゃないんだよね~」


 距離で言えば約三十メートルほど離れている。

 PKの集団が、切り開き踏み固めて自然とできた一本の道を使い、近づいてくる。

 当然ながら道っぽいのがあれば、そこを人は無意識で通る。


 背の高い藪の中で、藪を食べながらぐねぐねと歩き回ったヤギの足跡を道だと認識してずっと使い続けている地域だってあるらしいな、世界には。

 概念って怖い、自分を縛りうる何かになる。

 垣根を越えると達人と呼ばれる人種に到達するので、みんなこぞって常識破りにかかる。

 で、犯罪者になるものだってリアルでは多い。


 ゲームの中だから普段抑圧されてできないことを当然平然とやってのける。

 そんな奴らは多いって、PKを狩っているとよく分かる。

 現実だと、真面目なサラリーマンとかなのかなぁ……なんて思うのは俺だけなのだろうか。


「あ〜もう、どこだよ! そろそろめんどうだな〜!」


 ギジドラはアイテムボックスから小さな袋を取り出した。

 薄い布地で雑に作られた袋をギュウギュウと握り締めると、そのまま道の先に投擲した。


「ま、これで死ぬだろ〜」


 そしてケラケラと笑いながら再び森を引き返して言った。


「……ローヴォ」


 とりあえず逃す気は無い。

 隣にいるローヴォはすでに茂みから出て、迂回して後ろから奇襲を行えるように準備している。

 作戦としては、前から襲いかかって、それで倒せなければローヴォの奇襲。

 PKよりもPKらしい戦闘だと思えばそうだな。

 だが楽しんでいる余裕は無いのだ。

 カイトーが早く終われって念を飛ばしてくるので、そうせざるを得なかった。


 俺の予想に反して、ギジドラはすぐに引き返してしまった。

 だがローヴォと俺の担当が逆になるということ。

 そういうことで、俺も茂みから出てギジドラを追い、後ろから首をひと刎ねしてやろうかと思った矢先。


「あかん、あれ……寄せ玉やん」


 カイトーが木の上でそんなことを言った。


「寄せ玉?」


「なんや、あんさんしらんの?」


「見たことも聞いたこともない」


「魔物を自分の周りに強烈に引き寄せる小道具やで? 雑魚をめちゃくちゃ狩るタイプのゲームやったら、毎日欠かせない類のアイテムやけど、このゲームやったら話は別や……めちゃくちゃ脅威になる」


 ゾッとした表情をしながら、カイトーはいそいそと逃げる準備を始めた。


「どれだけ寄ってくるんだ?」


「まあ寄ってくる魔物、種類、それぞれで異なるんやけどなぁ……せやな、拾って詳しく確認せなわからんから、ちょっと待ってえな」


「北の森の魔物だったら、ローヴォがいるから基本襲ってこない。徒党を組まれても、百体規模のシグナルウルフではない限り別にどうとでもなるぞ」


「……ほんまかいな……まあ一緒におったんがあんさんで安心したわ〜……」


 カイトーは木から降りると、ギジドラが寄せ玉を投げたあたりに向かう。

 例えば、その寄せ玉とやらがすごい効果を持っていて、北の森エリアの敵を集めてしまう。

 そんなことが起きても、ここはレベル的に言えばかなり格下。


 ローヴォの威圧に耐えて現れたフォレストウルフやその他魔物でも、どうとでもなる。

 シグナルウルフのように魔物どうして巧みな連携が取れているはずもないからな。

 スターブグリズリーを百体くらい連れてこいば話は別だ。

 たとえレベルは低くても、ゴリ押ししてきそうで面倒臭い。でかいし。


「あ、あったあった」


 茂みを探すカイトーは寄せ玉を見つけたようだ。

 だが、すぐに声色が大きく変わる。


「ちょ……これ、こ、これはあかんで! 今すぐ逃げな!」


「どうした?」


 ローヴォも俺の意思を感じ取ってすぐに戻ってきた。

 ギジドラの追跡任務はルビーに引き継ぐ。

 そして、寄せ玉を遠くへ投げながら、カイトーは慌てたように俺のところへ来る。


「あれ、マーダーアントの寄せ玉やってん! しかも、女王の素材から作っとるやつ!」


「……東のクエストエリアの魔物だな、来るのか?」


 逸れマーダーアントがいたことからも、一応巣から出てこないくくりになってはいるが、明確な垣根はない。

 たまたまクエストエリア内で、マーダーアントの生態系が完結しているだけであるのだ。


「寄せ玉は魔物の死骸とか、腐った食材とかその魔物が好むもんで構成されるんやけど……女王アリの素材から作られてるって考えてみ? ゾッとするやろ?」


 確かに、女王と大多数の働きアリで群れを形成する社会性昆虫。

 形成する群れは、多ければ数万単位の数になる。

 この森の大きさとマーダーアントの体格から考えて……千は下らないだろうなあ。


「でも全てくると決まったわけではないと思う、後方は俺が持つから、カイトーはローヴォと一緒にギジドラを追いながらこの場を離脱しよう」


 人間大の虫系の魔物はなんとなく苦手だが、あの時のカマキリに比べたらマシだ。

 十分の一が押し寄せても、レベルやスキルの強度からなんとでもなりそうな感覚があった。

 だが、そんな俺の予想に反してけたたましく鳴り響き近づいてくる森の音が、それは百体じゃ済まさないことを物語っていた。


 早い。

 トンボの時もそうだったが、動物を凌駕した速さを持っている気がする。

 これでもし【黒いアイツ】が敵として現れたらどうするか……ムカデもいるからきっといるんだろうな。


「あかん、これはデスペナもあり得るで……」


 絶望した表情になるカイトーがそうつぶやいて。

 マーダーアントの大群が東の森から押し寄せてきた。









あらぁ、新しい敵キャラが変な置き土産していきましたことねぇ〜。






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